第2話 なぞの剣術
今日は2話分更新します!
次話は14時更新予定です!
あれから、2週間が経った。
ラルトとミシアは俺のこれからについて真剣に考えてくれた。
俺の年齢は6歳、エマと同い年だ。保護してくれた日を誕生日にした。でも、それはあくまで俺の親が見つかるまで、見つかったらそっちに行こうと思う。
彼らは命の恩人だ、感謝してもしきれない、だからこそあまり迷惑は掛けられない。
「ふぅ…」
今日の素振りを終える。俺は日課で毎日剣の素振りをしている。
俺の愛剣は子供には長く重いため、身体が出来上がるまでは使わないようにした。今使っているのはショートソードを模した木剣。今俺には丁度良い。
ちなみにエマとはまだ打ち解けていない。
ミシア曰く人見知りらしいが、時折睨まれる時がある…。理由はなんとなくわかるが。ほんとに人見知りなのだろうか。
「はぁ…どうしたもんか。」
素振りを終え家に入るとミシアとラルトとエマの3人でお茶をしていた。
「おつかれ!アレク!お茶飲むかい?」
「お腹空いたでしょ、お昼にしようかしら。エマ、手伝ってくれる?」
「いやだ!!!!」
大声で拒否し、俺を睨みつけ部屋を出ていった。
「あら、反抗期かしら。子供の成長は早いわねぇ、ごめんねアレク、あの子まだ人見知りみたい…」
どうやらミシアはこれを人見知りで済ますらしい。これにはラルトも苦笑いしている。
「いえ、早く仲良くなれたらいいのですが…」
俺も苦笑いを浮かべそう答える。
今日の昼飯は、パンとシチューだ。
ミシアは料理上手で限られた食材でも、絶品料理に仕上げてしまう。いっそのことレストランでも出せば繁盛しそうだが。
あっという間に平らげ、俺は2人にとある話を切り出す。
「お2人にお話したいことがあるのですが…」
そう言うと2人は口にパンを頬張りながら頭に?マークを浮かべこちらを向いた。
「実は、思い出したことが2つありまして…」
2人は慌ててパンを飲み込み詰まらせながらもお茶でパンを流し込んだ。
「そうか!!なにを思い出したんだ!?」
ラルトが嬉しそうに聞く。
「1つは、とある剣術です。」
「やっぱり剣術かぁ」
「やっぱりですか?」
「うん、君は剣を後生大事に抱えていたからね。なにか剣術と繋がりがあるのだろうと思っていたのさ。」
「なるほど。」
そりゃそうか、剣術を学んでいない奴が後生大事に剣を握るとは思えないもんな。
「すまないが、剣術のことは専門外なんだ…。
あーそうだ!街の外れに屋敷があるだろ?あそこは俺の親友の屋敷でね、街を守る騎士の役割を担ってるんだ!彼に聞けば色々わかるかもしれない、連絡しておくよ!」
「ありがとうございます!」
街を守る騎士か。かっこいいな、確かこの2週間の間で1度甲冑を着た男性が来たことがあったな、あの人がそうだろうか。
「そうかそうか、剣術かぁ。それでもう1つは?」
ラルトは何やら嬉しそうに呟き、聞いてきた。
「どうやら、魔術も使える様です」
「そうかそうか、魔術も…………ブゥー!!!!魔術!?………あっ。」
「…あなた……?」
口に含んだお茶を盛大に吹き出しながら聞いてきた。
正面に座っていたミシアに吹き出したお茶が全てかかった。額に青筋が見える。顔は笑っているのに。怖い。
「すまないすまない、取り乱してね。ほんとに魔術を使えるのかい?」
頭にたんこぶができているラルトは涙目で聞いてきた。
「は、はい。そんなにおかしいことなんですか?」
若干引き気味に俺が尋ねる。
「いや、おかしい事ではないんだ。すごく珍しいことではあるけどね。
剣術の才が乏しい人は努力で補い、剣士になることもある。それで騎士隊長になった人もいるからね。
でも、魔術は違う。適性がない人は一切使えないんだ。だけど大体の場合、魔術に適性があると分かれば剣術を覚えようとすることはほとんど無いんだ。魔術で十分食べていけるからね。俺は魔術も剣術もからっきしだから唯一扱える弓を使っているんだ。
だからアレクみたいにその歳で剣術も魔術も理解しているのはとてつもない才能だと言える。」
「でも、知識として保管しているだけで、使えるかどうかは…」
「知識として保管しているだけで十分さ!才能が無いものはそれ以前に理解することすらできないから」
なるほど、剣術はともかく魔術を扱えるのは適性がある人だけなのか。魔術は便利そうだから適性があってよかった。
しかし、奇妙だ。
「奇妙ねぇ…」
どうやらミシアも同じことを思っていたらしい。
「普通記憶が戻ったのだったらそれに連なる何かを思い出してもおかしくないと思うの。」
「連なるなにか?」
「えぇ、剣術を思い出しても、その剣術の流派名は思い出して無いのよね?」
「流派…?そんなのがあるんですね」
「魔術はどう?各属性の扱い方は思い出しても、発動した技の名前は覚えてないのよね?」
「技の名前…そうですね」
違和感の正体はそれだった。純粋な剣術と純粋な魔術のみ思い出したのだ。
「記憶保管の魔術のようね…」
ミシア曰く、大事な記憶のみ切り取り保管する魔術らしい、保管するにはその記憶を身体が覚え込んでないといけないようだ。
つまり、俺は6歳にして身体が覚え込むほど魔術と剣術を勉強したいたらしい。かなりスパルタ一家だったようだ。
「ミシアさんは魔術に詳しいんですね!」
「エルフは代々魔術師の家系が多いのよ。私も魔術の適正はあるけど、魔力が少なくてね…簡単な生活魔法ぐらいしか使えないの。」
エルフは魔術に長けているのか。なら、その血を引くエマにも魔術の才能があるかもな。
「騎士の家には魔術師も1人だけいるみたいよ。その人にも聞いてみなさい。」
「はい!色々ありがとうございます!」
「ふふっ、どういたしまして」
笑顔でミシアは答える。
その奥の扉には俺を睨みつける鋭い眼光があった…。怖いから無視しよう。
◇◇◇
翌日、昨日のうちにラルトが騎士へ連絡してくれたらしく、さっそく向かうことになった。
しかし、俺1人で行くのか。緊張するなぁ。
ラルトは仕事に出かけ、ミシアは家事をしている。エマにも声をかけたが睨まれ拒否された…とほほ…。
しばらくして、街外れの屋敷に着いた。
「スー、ハー、…よし!ごめんくだ…!?」
俺が訪ねようとしたら、屋敷の右側にある小屋が大爆発した。
何事かと思いオドオドしていると
「ミーヤ!!!またやったなお前!爆裂魔術を屋内で使うなとあれほど!」
「いやぁ、失敬失敬威力を調整すれば上手くやれると思ったんですけどね、てへへ。」
煤まみれの若い女性が、煙からでてきた。
「てへへじゃない!!」
「痛ったぁい!!体罰です!騎士長に訴えます!」
「訴えるもなにも俺が騎士長だ!」
ゲンコツを食らわした男は正に筋骨隆々といった見た目だ。見た目は完全におっさんだがこれでもラルトと同い年らしい。(※ラルトは25歳)
「あのぉ、ラルトさんの紹介できたアレクサンダーですぅ」
恐る恐る話しかけた、怒りがこちらに飛び火しないか気が気じゃない。
「おぉ!!坊主がラルトが言っていたアレクサンダーか!俺の名前はローガン!剣術について色々聞きたいんだってな!いいぞ!なんでも教えてやる!訓練場へ行こう!」
腕を掴まれ連れていかれる。
いや、聞きたいだけで訓練したい訳では、ダメだこの人聞いちゃいない。
ラルトの話によると、最近の若い世代は剣術志望者の質が悪いらしい。才能はあるがその才に傲り怠惰な者、やる気はあるが全く理解できない者など様々だ。
そんな中、親友から剣術の才がある子供が剣術について聞きたい!なんて言ったらそりゃやる気になるよね。
すると反対の腕をミーヤと呼ばれる魔術師が掴んできた。
「あなたがアレクサンダーくんですね!!隊長のご友人からお話は伺ってます!なんでも魔術の適性があるのだとか!!!是非お話をっ…!」
「おい…坊主は先に剣術を学びたいと言っているぞ。手を離せ、隊長命令だ。」
(先に学びたいなんて言ってない…)
「勝手に決めないでくださぃぃ!ここで隊長命令はパワハラですよ!手を離してくださいぃ!!」
次第に引っ張る力が強くなっている、ローガンはともかくミーヤも相当な力だ、強化の魔術かな?
もうすぐ腕が外れるな大変だ。と思っていたらしい急に力が弱まって、2人が覗き込んできた。
「「どっちを先に学びたい!!!」」
息ぴったりだな…。
「じゃ、じゃぁ剣術を先に…」
ローガンは腕を高々に上げ喜び、ミーヤは膝をつき落ち込んでいる。
この人たちは俺より子供だ…。
◇◇◇
「よーし坊主!!ラルトから話は聞いている!剣術は知ってるが流派がわからないんだってな!ちょっと見せてくれるか?」
よかった、ちゃんと用事は理解してるようだ。今から模擬戦なんて言い出したらどうしようかと思った。
「では」
いつもの木剣で剣術を披露する。
型を披露するだけでもこの剣術はすごく疲れる。おそらく実践で使えと言われたら、10秒も持たないだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、お、おわりました。」
型を終え、ローガンを見ると、顎に手を当て俯き深く考え込んでいる。
「坊主…その剣術は記憶保管されていたと言ったな?」
「はい、なにか…?」
「坊主。俺はその剣術を知らん。」
「え?いや、僕は嘘を言ってる訳じゃ…」
「ん?あぁ、ちがう。疑ってる訳では無い。その型の完成度を見れば疑う余地はない。」
「型の完成度ですか?」
「あぁ、坊主の剣術は理にかなっている上、あらゆる面に対応できる万能の剣術だ。それに、その剣術からは長年の研鑽が感じられる。一朝一夕の代物じゃない。」
どうやらこの剣術はどの流派のものでもないらしい。つまりは、我流だ。我流なのに長年の研鑽か。
「おそらく、門外不出の秘伝の剣術か、一族にのみ伝わる剣術か、そう言う類であろう。だが、強力な剣術であるには変わりない。その剣術を極めるといい。」
「はい!」
「よし!では、模擬戦といこう!!かかってくるがいい!!!!」
結局そうなるのね。
◇◇◇
ローガンの部下たちが見物に来ている。
やれぶちのめせだの理不尽に屈するななど俺の声援で溢れている。
確かにこの模擬戦は理不尽だな。
「いいか!坊主!この世にある剣術は全部で4つだ!」
「は、はい!」
打ち合いながら話している、俺は満身創痍だがローガンは余裕だ。それもそうか、6才の子供が騎士隊長の相手になる訳がない。模擬戦という名の打ち込み特訓だ。
「攻撃に優れた虎剣流!素早さに優れた鷹剣流!
防御に優れた亀剣流!カウンターに優れた蛇剣流!
坊主の剣術はその全てに対応できる可能性がある!今のうちに他流派の動きを学んでおけ!!」
そう言いローガンは各流派をランダムに使い始めた。化け物だ…。
剣術には階級があるらしく、
階級は下から、初級、中級、上級、超級、超越級とあるらしい。これは魔術も同じで各属性に階級が分けられている。
あとから聞いた話だが、ローガンは各流派を学び、全て超級まで使いこなしているらしい。さすが騎士隊長、その強さから部下からの信頼は厚い。
「息が上がってるぞ!呼吸を乱すな!力むな!流れに身を任せろ!!」
「そ、そんな、まだ6歳ですよ…」
「歳は関係なぁぁぁぁぁい!!!!!」
そう言いながら俺の頭を木剣で叩き倒した。地面に叩きつけられた俺はそのまま意識を失った。
◇◇◇
「うぅ…」
額が痛い、えげつないたんこぶが出来てるみたいだ…。相手は6歳だぞ!加減を知らないのかあのおっさん!
「起きたか坊主!!」
「ひっ!!」
喉から心臓が出るかと思った…。
「失礼なやつだなぁ。傷つくぞぉ」
「僕は目に見えて傷ついてますよ…」
「まぁ、そういうな!お前のためだ!次の模擬戦を始めるぞ。」
またかよ…と思ったが、顔が真剣だ。なにかあるのだろうか。
「坊主、おまえの剣術はどのくらい使える?」
「そうですね、持って10秒でしょうか。」
「そうか、では10秒間俺は防御に徹する、おまえの剣術で好きなだけ打ってこい、手加減はいらん。」
どういう意図があるのだろうか、これも訓練なのか?
違うな、ローガンの顔が真剣だ。訓練中は常に笑っていた。相手を鼓舞するために。
おそらく俺の剣術の強さを確認したいのだろう。
「わかりました。」
ローガンの部下たちはいない。気遣ってくれたのだろうか。
「ふぅ…行きます!」
「よし来い!!!!」
激しい衝突音と共に俺はローガンへ肉薄する。力では俺が不利だ。
全体重をかけるが、あまり意味はなかった、俺の剣が押される。
「くっ…!」
「そんなもんかぁ!?」
一旦後ろに引き、体勢を立て直す。そしてもう一度ローガンに突っ込み肉薄する。
「同じ手は通用せん…!?」
アレクの姿がローガンの眼前から消えた。一気にしゃがんだのだ。
ただでさえ小さい6歳児の体がそこからまた小さくなる、ローガンはやりづらいだろう。
そのままアレクはローガンの懐に潜り込んだ。
もらった!
『昇り龍』
昇り龍、下段から一気に上段まですくい上げる技。
ショートソードと今の体格ではローガンには届かないため、強く跳躍したが、木剣がぶつかり合う音が訓練場に響き渡った。
「今のは…危なかった。」
「チッ…」
思わず舌打ちしてしまった。
まだ終わりじゃない、このまま押してと思ったが。
「ぐっ!?」
「これ以上は坊主の体が限界みたいだな。」
身体中が痛い、完成してない体でこの剣術を使うと全身が引っ張られるような感覚に陥る。
限界がくるまで、丁度10秒だった。
「見事な剣技だった、6歳でこれとは恐れ入る。将来が非常に楽しみだ!!!」
がっはっはっと笑いながら俺を担ぎあげる。
「今日は家まで送っていこう!休むといい!」
「ありがとうございます……」
そうして俺はまた気を失った。
第2話ご閲覧ありがとうございます!
私としては、1日1話更新できたらいいなと考えてます!