第12話 城下町デート
スヤスヤ眠るエマを横目に、俺は着替えを済ませる。
「はぁ、さすがにやばかった」
年頃の男女が同じ部屋でもやばいのに、同じベッドとなると余計やばい。
理性を保つ為にラルトの顔を何度も思い出した。ありがとう。ラルト。
「エマ!起きて!買い物行くんだろ!」
ぐっすり眠るエマを起こす。入寮に買い物、明日の入学式の準備。今日は忙しい。
「うぅん…おはよう…アレク…」
目を擦りながらエマが起きる。
「俺はちょっと外出てくるから、その間に着替えとか済ませとけよ」
「はーい、行ってらっしゃい」
眠たそうなエマに見送られながら外に出た。
「さて、朝ご飯買って持っていってやるか」
そう思い宿の周りを見渡す、目の前にはパン屋があった。いい匂いがする。
「おばさん、サンドイッチ2ついいかい?」
「まいど!2つで6Gだよー。おや?あんた昨日の試験の首席君じゃないかい!」
「え?あ、うん」
「いやー!すごかったね!あんな凄いの初めて見たよ!これ持っていきな!」
そう言ってパン屋のおばさんはサンドイッチをオマケしてくれた。
「ありがとう、おばさん」
「礼には及ばないよ!未来の英雄に先行投資さ!」
昨日の特待生試験には数多くの観客が来ていた。俺は歴代特待生の中でも圧倒的な記録を出したお陰で王都ではそこそこ有名になってしまった。
こういう所で得できるのは悪くないな。
「エマー、朝ごはん買ってき…!?」
お決まりの展開だ。そこには下着姿のエマが立っていた。
「…アレク。いつまで見てるの?」
その可憐な笑顔には薄ら青筋が見える。
まずい。
〔バチン!〕
強烈なビンタが炸裂した。
◇◇◇
「痛ってぇ…」
「アレクが人の着替え覗くからいけないんでしょ!」
ヒリヒリする頬を擦りながら、俺とエマは寮へと入った。
「なんだよ…着替え見たくらいで、昨晩は一緒に寝たじゃないか」
「誤解を生む言い方はやめて!」
エマは顔を真っ赤にしながら叫んだ。間違ってはないはずだが。
すると、後ろだドサッと荷物を落とす音が聞こえた。
「い、一緒に寝た…?お、おふたりはもう、そのようなご関係に…?」
赤面し口に手を当てこちらを見るのはソフィアだった。
「ほら!誤解しちゃったじゃん!ち、違うよ!ソフィア!」
「えー?昨日エマから「一緒に寝よう」って言ったんだろ?」
「へ!?エ、エマさん!?大胆ですね…!」
「ちょ、アレク!?ちがうよ!ソフィア!」
慌てるエマを笑いながら俺達はロビーで別れ、自分の部屋へ向かう。男子と女子で棟が分かれている。
「お?」
「アレクが隣か」
どうやら隣はカルマのようだ。
「荷解きが終わったら暇だな。この後はどうするんだ?」
「俺はエマと街で買い物だ、約束があってな」
「仲良すぎだろ」
「幼馴染だからな」
苦笑いするカルマにドヤ顔で返し、自分の部屋へ入った。
「なかなか広いな」
俺は荷解きを始めた。荷解きと言っても魔導袋の中身を出すだけだが。
しばらくして、荷解きを終えた。エマとの約束がある為、ロビーへ向かう。
「あ!きたきた!アレク!早く行こうよ!」
ロビーにはエマが待っていた、その後ろにはもう1人。
「エ、エマさん?私もご一緒してもよろしいのでしょうか…?」
「気にしないで!みんなで買い物した方が楽しいよ!」
「アレクさん…よろしいですか…?」
「ああ、エマが良いっていうなら、俺は良いよ」
エマとデートの予定が…。まぁ、エマが楽しそうならそれでいいか。
「なら俺はカルマを呼んでくるよ」
「うん!よろしく!」
呼びに行くのはいいが、カルマに予定があれば無理強いする必要はないよな。
カルマを呼びにいくと、潔く了承してくれた。暇人なのかな?
そうして俺達は街へ繰り出した。
◇◇◇
俺、エマ、カルマは王都へ来るのは初めてだから、ソフィアに案内してもらっている。
冒険者になってから必要な物を揃える意味合いもあり、ソフィア行きつけのお店を紹介してもらった。
【アルカナム武具店】
「アルカナム?確か、魔術部門の合格者にアルカナムっていたよな?」
俺は、合格者の名前を思い出していた。
「はい、テオ・アルカナム。魔術部門5位の方です。ここはアルカナムさんのご実家で王都でも指折りの武具店なのです。」
「アルカナム…聞いたことあるな、俺の故郷でもアルカナムの武具は優秀だと評判だった。王国全土でその名が知られていると言ってもいい。」
ソフィアとカルマはアルカナムについてそこそこ知っているらしい。当然、俺とエマは何も知らない。
「エマ、俺たちの故郷はどうやらめちゃ田舎らしいな」
「み、みたいだね…」
店の中に入るとズラリとあらゆる武具が並べられていた。剣、槍、弓、斧など近遠距離武器から大杖やステッキといった魔術武器も揃えられている。
さすが王族御用達の店だ。店の装飾も豪華で見るからに"高いお店"だ。
「あわわわ、アレク…私お金足りるかな…?」
「エマは金もってないだろ」
「うぐっ…」
「はぁ、心配しなくてもだしてやるから遠慮なく選んでよ」
そう、エマはお金をもっていない。実家を出る時も親に知らせず、いきなり出てきた。当然、親から送別金などは貰ってない。
お金のことは専ら俺頼りだ。
「ひ、膝当てだけで5000G…さ、さすがアルカナム武具店。俺みたいな庶民には少々値が張るな。」
「そうでしょうか?」
カルマもどうやら懐は寂しいらしい。対するソフィアはさすが王族、余裕なようだ。
店の物を見ているとソフィアが話しかけてきた。
「アレクさんはなにか欲しいものが?」
「いや、特別欲しいものはないけど、マントぐらいは買っておこうかなって。俺の戦闘スタイルだと、ローブはかえって邪魔になる。」
「そうでしたね。アレクさんは魔剣士。身軽さも重要ですよね」
ソフィアの言う通り、身軽さを求める俺には魔術師の装備は殆ど必要ないのだ。
「ソフィア、ここはオーダーメイドはできるのか?」
「オーダーメイドですか?できると思いますが、さすがに値段が…」
「いや、できるってのがわかれば十分だよ」
さすがに、オーダーメイドは高いか。俺が記憶を失う前から持っていたあの篭手…おそらく俺の戦闘スタイルにあった魔術武器だろう。
この店でもどこにもないということはオーダーメイドするしかない。
「ちなみに値段は?」
「えっと、ものによると思いますが。丁度この篭手ほどの物をオーダーメイドすると、5万Gといったところでしょうか」
「そ、そうか…ありがとう」
5万って…今の俺の持ち金全てじゃないか。さすがに今は手が出ないな。しばらく魔術武器はなしにしよう。
「エマ、欲しいものは決まったか?」
「ここの武器は全部高いよ…?大丈夫…?」
「問題ないよ、好きな物を選びな」
そんなエマが見ているのはステッキのコーナー。エマも俺と同じで動き回る戦闘スタイルだ。動きやすいステッキを選ぶのは正しい。
「じゃ!これにする!」
エマが選んだのは50cmほどの漆黒のステッキ。先端には深紅の宝石がついている。
「これでいいのか?もっといいのあるだろ」
「これがいいの!アレクは黒剣を使うでしょ?たがら私も黒にする!」
「そうか、エマがいいなら。それにしよう」
値段は12500G。グランドウルフ5匹分だ。
「ありがとう!アレク!」
このエマの笑顔に比べたら12500Gなんて安いもんだ。そんなこと思いながら、俺は黒色の大きめのマントを買った。丁度膝下ほどまでの大きさだ。値段は6000G。
「アレクは奮発するな。いくら持ってきたんだ?」
「5万G」
「ア、アレクは…金持ちだったんだな…」
「ちがうよ、前に話したろ?グランドウルフの討伐賞金。10万あったが半分はエマの両親に渡した、もう半分は使うことが無かったからそのまま残ってんの」
「なるほど…1匹あたり2500Gか…夢が広がるな」
確かに、冒険者としてモンスターを狩りまくれば金は自然と入ってくる。
「まぁ、10万G手に入れるのに死にかけてちゃ世話ないがな」
「あっ、そうか…すまん…」
「責めたわけじゃないよ、命を大切にしようぜ。俺は誰も死んで欲しくない」
俺がそう言うと3人は頷いた。
結局カルマは深紅の腰上までの短いマントを買った。
ソフィアは案内してくれただけで何も買わなかった。どうやら、必要な物は一通り国王が用意してくれたらしい。相変わらずの親バカっぷりだ。
その後は4人で食事をしたり、雑貨を見たり。俺達は入学式までの束の間の休日を楽しんだ。
夕方、寮に戻り明日に備える。
「エマ!ちょっといいか?」
寮のロビーでエマを呼び止める。カルマとソフィアは先に戻って貰った。
「どうしたの?アレク」
「これ、使ってくれ。」
そう言って取り出したのは俺が買ったものと同じマントだ。
「これ…アレクと同じ?」
「その、嫌だったら。無理に身につけなくていいよ」
「嫌なわけない!私もアレクと同じマントほしかったの…でも、ステッキも買ってもらってるのにマントもって言えなくて。本当にありがとう!」
「喜んでもらえてよかったよ」
俺がプレゼントしたマントを嬉しそうに抱え、部屋へ戻って行った。
明日から俺達は冒険者になる。
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