表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第二章 冒険者学校 その1
12/137

第11話 友人

 

「挨拶はソフィアに任せる。俺は礼儀はわからない」

「いえ!私は次席です!ここは首席のお2人のどちらがするべきです!」


 チラッとカルマを見る。


「俺も礼儀はわからん」

「はぁ、じゃ俺がする。どうなっても知らないからな」


 来賓室の扉をノックした。


「失礼します。アレクサンダーです。ランガンを除く他の2人に加えソフィアと参りました」


「おお!待ってたよ!入ってくれ!」

「失礼しま…え!?」


 目の前には衝撃的な光景が広がっていた。

 手錠を掛けられ跪いているランガンと知らないおっさん、知らない冒険者が数人いた。


「驚かせてすまないね、ファルモディアの2人と、この冒険者たちは今回の特待生試験で不正を働いていたんだ。私が創立したこの学校で不正を働くと言うことは、私に対して喧嘩を売ると同義だからね」


 知らないおっさんはランガンの父親だったか。


「ファルモディアは審査する冒険者を買収し、ランガンが上位に入れるように細工した。カルマ君の圧倒的な技量には評価せざるを得ず、結果ランガンは次席になったんだ。許されざる行為だ」


 国王の話を要約すると、ランガンは推薦状も買収していた。剣術の腕も初級しか扱えないとか。不正を働いた冒険者の中には家族を人質に取られていた者もいるらしい。

 とんでもない奴らだ。


「このクズ共を地下牢に入れておけ。買収された冒険者は資格を剥奪、王都へ入ることを禁ずる。家族を人質に取られていた者にはまだ同情の余地がある謹慎で済ませておけ。あとのことは騎士団長に任せる」

「はっ!」


 騎士団長と呼ばれていた騎士は彼らを連行して行った。


「待たせてすまないね!!こっちへ来て座ってくれ!」

「し、失礼します」


 国王は応接用のソファに座り、俺たちはその前に座った。


「アレクサンダー君、エマ君。ランガンの愚行は聞いたよ。もうこのようなことは起きない、起こさせない。だから王都を嫌わないでくれ」


 彼らを裁く場面を見せたのは、おそらく今回の事件に自分たちは無関係だと主張するためだろう。


「お気遣いありがとうございます。あれはファルモディア家が欲をかいた結果でしょう。王都を嫌うなどありえません」

「そう言って貰えてよかったよ。カルマ君は不正を自分の技術で打ち負かした。首席以上の評価に値するよ。」

「あ、ありがとうございます」


 急に話を振られたカルマは驚いていた。しかし、自分の娘が居るのに目すら合わせないな、不仲なのか?


「それに、うちのソフィアが3位だって…?あんなクソみたいな剣術しか使えないガキ…」

「お父様!!!!」

「あ、す、すまない。つい口が悪くなってしまったよ。はっはっは」

「はぁ…」


 どうやら親バカなようだ。


「不正を打ち負かすほどの実力がなかった私の落ち度です。精進します」

「そうだな。頑張りたまえ。ランガンが抜けたことで、順位は繰り上げになる。ランガンだけを異常に評価していただけみたいだからね」


 ソフィアは次席になれるだけの実力はあるらしい。エマはガッチガチに固まっている。


「そんな緊張しないでくれ!君たちは今回の主役であり、功労者だ!労わせてくれ!」

「は、はい!ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 国王の言葉にエマとカルマが返事をする。


「私は魔術部門を見させて貰ったが、アレクサンダー君とエマ君の実力は飛び出ているね。師匠はミーヤと言っていたね」

「はい、6歳のころからエマと共に魔術を教わりました。」

「そうか!6歳から!だが君たちのその力は才能による物が大きいだろう。それにまだ発展途上ときた!その後の成長が楽しみだ!」

「精進します!」


 エマが元気に返事をした。褒められたのが嬉しいらしい。


「アレクサンダー君は剣術もできるんだね!先程の試合、とてつもない圧を感じた。あれはただ剣術をかじっただけではないだろう。どこまで使えるんだい?」

「各流派共に上級まで」

「…想像以上だ。魔術剣術共に優れた者とは初めて見たよ!どうだい!近衛騎士にならないかい!?」


 いきなり近衛騎士か大出世だな。近衛騎士は単純に騎士や地方騎士より立場が上だ。

 いきなり、ローガンたちの上司になってしまう。


「申し訳ありませんが、冒険者になるのには何よりも優先すべき目的がある為なので。近衛騎士にはなれません」

「いやいや!申し訳なく思う必要はないよ!ちょっと言ってみただけだ!」


 すごくフラットな国王だ。偉そうにしないし無闇に権力を振るわない。ラルトやミシアと同じタイプの良い人だ。


 その後も国王と4人で話をした。まぁ、大半が娘自慢だった。

 ソフィアの顔が真っ赤になっていたのは言うまでもない。


 ◇◇◇


「陛下の親バカっぷりはすごかったな」

「そ、それを言わないでください…」


 ソフィアは顔に両手を当て俯く、隙間から見える顔は真っ赤だ。


「大体ソフィアかアレクの話だ。俺達は蚊帳の外だったぞ?」

「私は緊張して、何話したか覚えてないや…」


 そう言いエマは苦笑いする。


「そういや、合格者説明会は冒険者協会だったよな?」

「うん、早く行かなきゃ!」

「ソフィア自慢は程々にって陛下に言っといてくれよー」

「うぅ…」

「早く行くぞ」


 4人で話をしながら冒険者協会へ走った。


 冒険者協会で一通りの説明を聞いた。

 冒険者学校での規則は大まかにこうだ。


 ・冒険者学校は5年制、15歳の成人を迎えたときに卒業する。


 ・冒険者としての資格は在籍中に取得することができる。新人冒険者が命を落とさない為に、あらゆる面でサポートを受けられる。これのおかげで新人冒険者の死亡率はグッと減ったらしい。


 ・一般生は3年生まで午前午後ともに授業を受けるが、特待生は午前のみで許される。午後からは自由だが、基本的に冒険者に関する勉強または、実践をしなければならない。


 ・特待生は学費免除に加え、寮は一人部屋を支給される。生徒は全員寮に入ることを強制され、王族であろうと入寮することが義務付けられている。


 ・冒険者学校では、王族貴族の権威を振るうことを禁止とする。破った場合は即退学とする。


 大体こんな感じの説明を受けた。

 入学式は2日後だ。学校と言うか、やってることは新人冒険者のサポートに近い。

 特待生は束縛される時間が少ないから動きやすくていい。


「しかし、ソフィアも寮入りとは意外だな」


 俺達は、説明会が終わったあと4人で食事に来た。


「王族であろうと決まりは破れませんから。1人で何も出来ないと、冒険者はやっていけませんからね」

「ソフィアはなんで冒険者やるの?王位とかそういうのは大丈夫なの?」


 エマが率直に聞いた。


「王位はお兄様が継ぐことが決定していますから大丈夫ですよ。冒険者をやろうと思ったのは、剣術を活かす場が欲しかったから、ですかね」

「ソフィアの剣術は素晴らしかった。確かにあの技術が王城で眠ると考えると勿体ないな」


 ソフィアの答えにカルマが賛同した。

 カルマが絶賛するほどの剣術か、気になる。


「アレクは魔術と剣術、どっちも使うのか?」

「まーな、俺は元より魔剣士ってスタイルでやってる。試験部門に魔剣士なんてなかったからな」

「そんなことできるのアレクしかいないでしょ」

「そうか?意外とエマでもできるかもよ?」


 カルマの質問に答え、エマにも魔剣士を提案してみた。


「はぁ、私に剣術の才能ないの知ってるでしょ?ローガンさんに同情されるほどだったんだから」

「それもそうだな。自分の剣で自分を傷付けるやつは初めて見た」

「アレクさんとエマさんの昔話!!聞きたいです!」


 ソフィアは興味津々だったが、そんな語るような話はあまりないが。


「ちょっと待て、今ローガンと言ったか?」


 カルマがローガンに反応した。確か剣鬼とか言われてたな。


「ああ、俺の剣術の師匠だ」

「なるほど、だから各流派をあれ程…いつかアレクとも手合わせしたいな。剣鬼の教えとはどういうものか」

「機会があればな」


 同じクラスに居るのだから機会はいくらでもあるだろう。


「そういえば、カルマはなんで冒険者なんだ?騎士じゃないのか?」


 俺はなんとなくカルマに聞いてみた。


「俺は、鷹剣流の滅級を目指している。冒険者の方が自由に鍛錬でき、束縛されることもほぼない」

「滅級?等級って超越級までじゃなかったの?」


 エマが素朴な疑問をぶつけた。エマは滅級の存在をミーヤから学んでいなかった。

 なぜなら、魔術においては特に必要がないからだ。俺は知識に滅級の魔術もあった為滅級について教えてもらっていた。


「超越級の上に、滅級ってのがあるんだよ。今世界で滅級と認められているのはいるのは、5人だけ。滅級の魔術は地形そのものを変えてしまう恐れがある。だから、人生で使うことはないらしい」


 ミーヤから教えてもらったことをエマにも伝える。


「えぇ…地形そのものを…。5人しかいないの?」

「剣術は各流派に1人ずつ、滅級に認められるには同流派の滅級に決闘で勝つ必要がある。そうやって滅級は代替わりしてる。魔術においては1人だけ、滅級の聖魔術を使うらしい」

「へー、魔術は1人だけかぁ。なんだか凄い目標だね」

「俺のじいさんは元滅級で、俺の師匠だ。じいさんがいた所まで、俺もいきたいんだ」


 カルマの師匠は元滅級か、通りで強い訳だ。俺もうかうかしてられないな。


「エマさんが冒険者を目指した理由はなんですか?」

「えっ!?私!?」


 ソフィアの質問にエマが慌てている。確かに、エマが冒険者を目指す理由は俺も知らない。単に俺と離れたくなかったって訳じゃないだろう。


「そうですよ!私たちは腹を割って話したのですから!」

「そうだな。俺も気になる、アレクの理由も」


 俺にまで飛び火してしまった。

 カルマとソフィアは今日出会ったばかりだが、これから付き合いが長くなりそうな気がする。話してもいいだろう。だが、まずはエマからだな。


「え、えっと、話せば長くなるんだけど。私とアレクがまだ6歳だった頃、ある事件があってね…」


 そう言ってエマは顔を赤くしながら家出騒動の話をした。誤ってカオスフォレストに入ったこと、それを俺が助けたこと、俺が死にかけたこと。


「だから、あの時私に力があればって思ったの。これからは守られるだけじゃなくて、隣に立って一緒に戦いたい。そう思って魔術を習ったの。その気持ちは今でも変わらない、だからアレクの隣で私も冒険者をやる。ま、まぁ、こんなとこかな」


 隣に立って一緒に戦いたい…か。エマはそんなことを考えていたのか。


「うぅ…いい話です…」

「グランドウルフを40…瀕死になりながらも倒した…?アレクは6歳の時から化け物だったんだな」

「失礼だな。化け物扱いしないでほしい」

「それで、アレクさんが冒険者を目指す理由はなんですか?」


 ソフィアが聞いてきた。まぁ、話したところで別に問題はないだろう。

 一応、記憶保管の魔術のことは黙っておこう。


「俺は、6歳より前の記憶がないんだ。森で死にかけていた所、エマが見つけてくれて。気が付いたら全て忘れていた。最初は名前も覚えてなかったんだ。なんとか名前は思い出したけど、それ以外はさっぱり」

「記憶喪失ですか…」

「ああ、記憶はない、なのに何故か剣術と魔術の心得があった。6歳とは思えないほどにな。」

「自分で言うのか…」

「では、その謎に満ちた生まれてからの6年間を取り戻す為に冒険者になった、ということですか?」

「まぁ、そんなとこだ」


 俺の過去を聞き2人は暗い顔をした。


「そんな顔すんなよ。エマの所に拾われてからは毎日が幸せだったんだ。俺があそこに居なかったらこんな幸せはなかった、カルマとソフィアに出会うこともなかった。そう思えば、悪いことばっかじゃないだろ?」

「そ、そうですね!」

「アレクはポジティブだな」


 人の辛い過去を聞いて、共に悲しんでくれる。我ながら良い友人を持ったな。


「ご飯おかわりしていい!?」


 エマの能天気な言葉にカルマとソフィアは苦笑いする。

 その後食事を終えて宿に戻った。

 入寮は明日から、今日でこの宿ともお別れか。


「エマ、明日寮に入る準備しとけよ。寮に荷物置いたら買い物にいこう」

「うん!今日頑張ったからねぇ、何買って貰おうかなぁ」


 エマは鼻歌混じりに準備を進めていた。そして、就寝前。


「ね、ねぇアレク…」

「ん?どうした?」

「一緒に、寝たらダメ…?」


 なんですって?一緒に寝る…?つまりは添い寝?はたまた同衾?


「い、いや、急にどうしたんだ…?」

「みんなでご飯食べてる時、冒険者になった理由の話したでしょ…?その時、血だらけのアレクの姿思い出しちゃって…怖いの…」


 どうやらエマにとってあの時の出来事はトラウマになっているらしい。

 エマの体が震えている。


「わ、わかった。いいよ」

「ごめんね。ありがとう」


 そう言いながら俺の布団に潜り込んで来た。俺の理性は持つのか…?


「ふふっ…これで安心」


 エマは笑みを浮かべてこちらを見る。

 チラリと見える胸元に俺の理性は崩壊しそうになる。

 しかし、


 《君たちは子供だ!!節度を守って!!》


 ラルトの言葉と形相を思い出し、無事萎えた。そのまま、一睡することもできず、朝を迎えた。


「こいつ、人の気も知らないで」


 気持ち良さそうに寝息を立てるエマにデコピンをした。


第11話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ