第10話 エキシビションマッチ
『魔術部門首席アレクサンダー君、剣術部門首席代理次席ランガン・ファルモディア君。エキシビションマッチを開始します。舞台への出入口まで来てください』
控え室にアナウンスが流れた。
俺はロッカーを開けて魔導袋から黒剣を取り出し腰に挿した。
「おやおや?貴様は魔術師でしょう?なぜ剣を?」
ランガンはニヤニヤしながら聞いてきた。
「気にするな」
「ははっ、魔術師が剣を握るとは、中々に滑稽ですね。軟弱な魔術師が、私の様な至高の剣士に勝てる訳がありません。手を引くなら今のうちですよ?」
「あっそ」
そう話しながら出入口に立つ。
「彼女の美貌は素晴らしいですね。正に一目惚れです」
「そうだろうな、あいつは街でも評判だった」
「ただ…亜人種の血が混じってるのは、頂けませんね」
「あ?」
亜人種の血…?エルフのことか?
「穢らわしい野人の血が混じっており、卑しい平民の身分ではありますが。まぁ、あの美貌の前には些細なことです。正妻はダメですが、妾にはなれるでしょう」
「…」
ミシアの血が穢らわしい…?ラルトの身分が卑しい…?ふつふつと、怒りが込み上げてくる。
俺たちは舞台へあがった。
「まぁ、貴様を再起不能まで痛めつければ、エマさんも私の元へ来るでしょう。」
「馬鹿か?俺を痛めつけてもエマはおまえの事なんか見ねぇよ」
「馬鹿…?ふ、ふふっ、君を痛めつけたあと楽しみがありますし、今は機嫌が良い。その非礼は不問にしましょう」
「あっそ」
ランガンを適当にあしらい、舞台の上で向かい合う。スタジアムの周囲にはB級冒険者たちがもしもに備えて警備にあたっている。
『両部門の首席同士で行われますエキシビションマッチ!!今回は剣術部門の首席カルマ君が体調不良のため!次席であるランガン君が代理で行います!!!試合前に話を聞いてみましょう!!!』
『ランガン君!!あなたの使う流派はなんですか!?』
「敵の前で手の内を晒すのは気が引けますが、良いでしょう。私の剣は『蛇剣流』。もう少しで上級を扱えます」
もう少しで上級って、結局中級じゃねーか。
『なるほど!!10歳にして蛇剣流をもう少しで上級までの実力を持ち合わせているわけですね!!楽しみです!!それでは!意気込みをどうぞ!!』
「ふっ…正直、瞬殺するのは容易ですが。外からチマチマ魔術を撃たれると面倒なので。格闘魔術で来てくれるとありがたいですね。まぁ!!私と近くで戦うのが怖いなら!!止めはしませんがね!!!」
分かりやすい挑発だ。これで俺が遠距離で戦えば避難されるのは目に見えてるな。
『おっと!!ランガン君からの挑発です!!!すごい自信です!!対するアレクサンダー君!!あれだけ言われてしまいましたが!!格闘魔術で戦いますか!?』
「いや、俺はこれを使う。」
そう言い俺は腰の剣を抜いた。
『け、剣!?アレクサンダー君は剣術も!?』
「少しだけですが」
『おぉっと!?これは!剣術部門の次席に対して魔術師が剣術で挑む!?どうなってしまうのか!?』
俺は魔術師なんて名乗った覚えはないがな。
「ふふっ、はっはっはっは!!!!馬鹿なのかな!?どうやら君は勝負を捨てたらしいな!エマさんは僕が貰うよ!!あぁ!!楽しみだ!!」
下卑た笑みをランガンが浮かべる。不愉快だ。俺の怒りは限界を超えていた。
昔、夢の中で夢渡りのマイズに言ったことを思い出す。
《俺の大切な人達に手を出すやつは誰であろうと許さない》
《これは警告だ。次お前を見つけたら、"殺してやる"》
こいつは、俺の目の前で、ミシアの血を穢らわしいと罵り。ラルトを卑しい言った。許すことはできない。
…エマは誰にも渡さない。
「よし、殺すか」
そう言い剣先をランガンへ向けた。
『それでは!エキシビションマッチ!!始めてください!!』
実況者の声と共にランガンは腰の剣を抜いた。
「さぁ!!どこからでも…?…な、なんだ?」
俺はランガンへ本気の殺気を放つ。
「ひぃ…!!」
ランガンは後ずさる。
そして、俺の重圧は、スタジアム全体を包む。
観客席がザワつく。
「な、なんですか…空気が…重い…?」
観客席で見ていたソフィアは俺の重圧に顔を顰める。
(やばいやばいやばい!!アレクがキレてる!このままじゃ、相手を殺しちゃう!)
「アレク!ダメ!!」
エマの声はアレクの耳には届かなかった。
俺は左足を引き、剣を上段に構える。こんなクズに、俺の剣術は勿体ない。
「虎剣流『猛虎』」
俺は一瞬でランガンへ肉薄し、その黒剣はランガンの首元へと迫る。
(((やばいっ!!!)))
警戒に当たっていた冒険者たちは一斉に飛び出した。
〔ガキンッ!!!〕
金属のぶつかり合う音がスタジアムに響いた。
「そ、そこまでだ…!」
「アレクサンダー君…ランガン君を殺すつもりか…!?」
「ぐおぉ…なんだこの剣の重さは…俺達3人でギリギリか…」
黒剣の刃が少し首に触れ血が垂れる。
ランガンは崩れ落ち失禁する。
「チッ…殺すつもりなんてありませんよ。寸止めしてました」
(((嘘つけ!!!)))
アレクの言い訳に冒険者3人は心の中でツッコンだ。
俺は剣を鞘に納め、ランガンを睨む。
「おまえ本当に次席か?弱すぎる」
「ぼ、僕の…負けです…どうか、命は…」
ランガンは俯き、負けを認めた。
『うぉぉぉお!!!!ランガン君は降参を宣言しましたぁ!!!なんと!!なんと!!剣術部門次席に対して!魔術部門首席が剣術で勝ってしまったぁ!!!やはりアレクサンダー君は只者ではない!!!彼の今後の活躍に期待しましょう!!!』
盛大な拍手と歓声が響く。
『特待生試験エキシビションマッチ!!勝者は!!アレクサンダー君ですっ!!!』
実況者達が盛り上がるなか、腰を抜かしたランガンを再度睨む。
「次エマに手を出そうとしたら、その首を刎ねる。いいな?」
ランガンは震えながら頷いた。
『これにて!!特待生試験!!全日程を終了します!!ご来場の皆さん!!お気をつけてお帰りください!!合格した10名の皆さん!おめでとうございます!諸々の説明はこの後冒険者協会で行われます!各部門の首席と次席の方は国王陛下がお呼びです!来賓席までお越しください!』
国王からの呼び出しだ。ランガンを殺そうとしたのは不味かったかな。
言い訳を考えておこう。
◇◇◇
「さ、さすがにあれはやりすぎじゃない…?」
「いいんだよ。あんぐらいしなきゃまたエマにちょっかい出すだろ」
「そっかー」
「なんで嬉しそうなんだよ…」
嬉しそうにしているエマを横目に俺たちは来賓室へ向かっている。
呼ばれたのは首席と次席のはずだが、そこにはソフィアの姿もあった。その代わりランガンの姿がない。
「ふふっ、アレクサンダーさんはエマさんが大切なのですね」
「幼馴染だからな、それに命の恩人でもある」
「命の恩人ですか?」
「まぁ、色々あるんだよ。」
「そうですか。そのお話いつかお聞きしたいです!」
「気が向いたらな」
王女さんはぐいぐいくるな。次席のランガンがおらず、3位のソフィアが居るということは…。
「アレクサンダー、君があの時使った剣術は虎剣流か?」
深紅の髪の毛に黄色の瞳の男。
剣術部門首席カルマが話しかけてきた。
「ああ、虎剣流「猛虎」ランガンは蛇剣流って言っていたしな、力押しの方がいいと思ったんだ」
「いい判断だ。ランガンの蛇剣流はまだまだ脆弱だった、跳ね返されることはなかった。魔術師なのに剣術の心得があるとはすごいな」
「俺は魔術師と名乗った覚えはないよ」
「そうか。さっきの口ぶりだと他の流派も扱えるのか?」
「他の流派も一応上級までは扱える」
「そうか、まるで"剣鬼"ローガンだな」
思わぬ人物の名前に俺とエマは目を丸くする。ミーヤだけでなく、ローガンまでそんな2つ名があったのか。
剣鬼というより剣筋だろ。
「カルマはなんの流派を使うんだ?」
「俺は鷹剣流一筋だ。超級まで扱える」
「へぇ、さすが首席だな。」
「ま、まぁな」
「そういや、体調は大丈夫なのか?」
「エキシビションマッチのことか?あれはランガンが勝手に言い出したことなんだ。俺はなにも知らされていなかった。気付いたらあいつが出ることになっていたんだ。君があれ程の剣術の使い手なら殴ってでも出ていたがな」
そういうことだったのか。俺も首席と戦ってみたかった。
「皆さん仲良くてなによりです!ね?エマさん!私達も仲良くしましょう!」
「え、は、はい!」
「敬語は不要ですよ!これから学友同士なるのですから」
「う、うん!よろしくね!ソ、ソフィア!」
「はい!エマさん!」
エマにも友達ができたようだ。なんか寂しい気もするが、良い事だな。
それに、この美少女2人が並ぶとここは天国かと見間違ってしまうな。
「俺らも首席同士仲良くしようぜー、カルマ。俺のことはアレクって呼んでくれ、ソフィアも」
「ああ、よろしくな、アレク」
「よろしくお願いします!アレクさん!」
エマが少し拗ねてるっぽいな。自分の他にアレク呼びの人が増えたのが気に食わないらしい。
「拗ねるなって」
「拗ねてない!」
そんな話をしながら、来賓室の前についた。
第10話ご閲覧ありがとうございます!
次話をお楽しみに!




