第9話 特待生試験 下
2次試験であれほどやったのには、理由がある。ちょっとやりすぎたくらいしとけば控え室で囲まれずに済むだろう。
控え室に入った。どうやら、作戦成功のようだ。俺はおろかエマにも誰も近寄っていない。
C級冒険者を瞬殺するんだ。恐れられて当然か。
「あはは…やりすぎたかな…?」
「いや、あんぐらいが丁度いいよ」
そう話しながら控え室から出た。
「次は威力測定だよね?」
「うん、威力を数値化するってすごいな」
「アレクはどの等級でいくの?」
どの等級か。実況者は全力でって言っていたが。
「全力なら、超越級かな」
「馬鹿なの?」
「冗談だって」
超越級をここで使えばここら一体が更地になってしまう。
「全力の上級かなぁ」
「やっぱりそうだよね」
「他の受験生を見て様子を見よう」
スタジアムが見える所まで移動した。最終試験はもう始まっている。
『特待生試験も大詰めです!!次の受験生は!現在暫定7位!!オッサム君です!!!』
また、オッサムか。
「我が体内に宿りし、純然たる魔力よ!我が願いに応え!その力よ顕現せよ!我が命ずるは深淵なる炎!その力を持って、敵を殲滅せよ!『ファイヤーランス』!!!」
まだなんか詠唱してるな。最初より長い。
深淵なる炎とか言うからすごいのが来るかと思ったら、ただの中級魔術だった。
『オッサム君の点数は…76点!!お疲れさまでした!!!最終結果をお待ちください!!』
オッサムはドヤ顔している。実況者、オッサムに興味無さすぎじゃないか?
「なんかすごいこと言ってたね」
「深淵なる炎を呼び出したんだってよ」
「あれは…なんか恥ずかしいね…」
オッサムの痛さが伝わったようでよかった。
そんなこんなでエマの番が回ってきた。
「風魔術の上級でいいかな?」
「勢い余って計測器壊すなよ」
「明日!買い物ね!絶対!」
「おう!頑張ってこい!」
エマを激励して送り出した。買い物が楽しみらしい。明日は忙しくなりそうだ。
『最終試験も残すところあと2人となりました!!舞台に上がるのは現在暫定2位エマ!!!』
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」
すごい熱気だ。今回の試験でエマ人気は爆発的に広がった。エマも人前に出るのには慣れたようで、気にしている様子もない。
『それでは!最終試験!始めてください!』
エマは全力の上級を使うと言っていた。
「ふぅ。」
大量の魔力がエマの手のひらに凝縮され少し大きめの風の球が生成された。
早撃ちの時の比じゃない。
「『エア・バースト』!!」
凝縮するされた風の球が測定器に命中した。暴風がスタジアムに吹き荒れる。
観客席は防御魔術で守られているため安全だ。
『おぉぉ!!凄まじい魔術です!これは上級風魔術エア・バーストでしょうか…!!!結果は…!?』
測定器に結果が表示される。
【100】
『100点が出ました!!!最高記録です!!!2次試験に続き満点!!素晴らしい成績です!しかし!1次試験でアレクサンダー君の記録を下回ってしまっています!!この後のアレクサンダー君の結果により一層注目が集まります!!!』
全力の上級で100点か。
おそらく100点は上回っているのだろうが、機械の限界だから仕方ない。
「アレク!少しは手抜いてもいいよ?」
ニコニコしながらエマが戻ってきた。
「俺はいつも全力だよ」
そう言い残し、舞台へ向かう。大歓声だ。
この歓声も、これで聞き納めか。悪くなかったな。どうやら別会場の剣術部門は終わっていたらしい。剣術部門の受験生たちが控え室の方から身体を乗り出して見ている。
「人気者だな…」
『今年の特待生試験もこの最後の受験生で終わりになります!!!1次試験から驚異的な記録を叩き出してきた正に規格外の受験生!!!さぁ、舞台へ上がって貰いましょう!!暫定1位!!アレクサンダー!!!!』
歓声は割れんばかりに、熱気は最高潮に。
創立記念のメインイベントとして、これ以上無いほど盛り上がっている。
観客席中央に座っていた王様は立ち上がり防御魔術にへばりつきながら見ている。そんな王様を近衛騎士が離れるよう注意している。
本当に王様だろうか。思わず苦笑いが出てしまう。
『それでは!アレクサンダー君!!最終試験!始めてください!!』
これで、めちゃくちゃショボイ結果残したらどうなるだろうか。悪戯心がくすぐられるが、さすがにやめておこう。
俺も"全力"の上級魔術だ。
「スー、ハー…よし」
俺は手のひらを空に掲げた。
大量の魔力が火を生成する。
最初は特大の大きさだったが、凝縮していく。
やがて、それは拳ほどの大きさになった。
空に掲げていた手のひらを前へ突き出す。
『ヘル・フレア』
上級火魔術ヘル・フレア
凝縮された火の玉は計測器に到達すると。大爆発した。
爆発の勢いで舞台の石畳が剥がれる。万全だったはずの防御魔術にヒビが入った。
しばらく、爆風が吹き荒れ、静まった。
『熱い!!!上級魔術とは思えないほどの威力です…!!さぁ!!もう分かりきっていますが!!点数は!!!』
『……あれ?計測器は…?』
…エマを送り出した時の言葉を思い出した。ちょっとテンション上がりすぎたかな。俺もまだまだ子供だ。
「は、ははっ…」
冷や汗がとまらない。
『計測器が!!!大破しています!!!とてつもない威力の魔術に耐えきれず!!大破してしまいました!!数字にはでませんが!!!会場の皆さんの意見は同じでしょう!!文句なしの満点です!!!』
よかった。スタジアムの人達は喜んでくれたようだ。
『会場の片付けと最終結果の集計を行います!受験生の皆さんは控え室でお待ちください!!』
「なんか、アレクも結構子供だよね」
「そりゃ、10歳だからな」
「いつも大人ぶってるくせに」
エマに嘲笑されながら控え室に戻った。控え室は剣術部門の受験生も居て結構狭い。
しばらくして、アナウンスがなった。
『最終結果の集計が終わりました。受験生は舞台へ集合してください』
アナウンスを聞いた俺たちは舞台へ上がった。
『受験生の皆さん!お疲れ様でした!今回は創立記念ということで一風変わった試験方法だったけど、大いに盛り上がったようでなによりです!さぁ、長い話はいらないでしょう!!ご覧下さい!今回の上位5名の名前です!!』
魔術部門
首席 アレクサンダー
次席 エマ
3位 エイダ・レディア
4位 セオドア
5位 テオ・アルカナム
剣術部門
首席 カルマ
次席 ランガン・ファルモディア
3位 ソフィア・イグナシア
4位 ルーカス
5位 ノア
よかった。しっかり首席だ。計測器破壊で失格とかならなくてよかった。
「次席かぁ」
「次席でも十分だろ」
「アレクに負けたくないの!」
エマは悔しそうに顔を顰めている。今でこそ差はあるが、正直魔術だけになるとエマに追い越される日は近いだろう。
せめて、卒業するまでは首席でいたいな。
その後王様の長い話が終わり、合格者には色々説明があるそうで、合格者は一旦控え室に戻ることになった。
「アレクサンダー君!」
控え室に戻ろうとすると、たぶん偉い人に止められた。弁償とか言われるんだろうか。
「君の魔術は素晴らしかったよ!あ、申し遅れたね、私の名前はエバン・アマリア。冒険者学校の校長をやっている」
おっと…いきなりボスが出てきてしまった。
「あ、あの…計測器…壊してすみませんでした。」
「あぁ!計測器!全然問題ないよ!あれは子供用に改良してあるものだからね。通常の物に比べて耐久性は劣ってるんだ!」
壊したことを咎められる訳じゃなかったのか。
「そうなんですか…では、他になにか用が?」
「いや、用って程でもないんだが…。今回の創立20周年の催しは、特に力を入れていたんだ。だから、そんな時に君みたいな逸材が来てくれたことが嬉しくてね!声をかけてみただけなんだ。」
「ご満足頂けたようでなによりです。僕も、この特待生試験楽しみにしていたので」
「そうか!これからも君の活躍に期待してるよ!幼馴染の女の子にもありがとうと伝えておいてほしい!この後の試合!楽しみにしてるよ!」
そう言いながら走り去って言った。ん?この後の試合…?なんのこと言ってるんだ?
控え室に戻ってきた。なんだか騒がしかった。
「あぁ!!なんと美しい方だ!貴女はまるで、現世に舞い降りた女神!!」
そんなくさいセリフが聞こえた。エマの前に片膝をついた男がいた。
「え、え?あの…」
「私の名前はランガン・ファルモディア。どうか、お名前をお聞かせ願えませんか…?」
「えっと…」
どうやら貴族流のナンパらしい。俺の前でいい度胸だ。
「やめろ、エマが嫌がってる。」
そういい、男の手を掴んだ。
男が俺を睨み、掴まれた腕を振り払った。
「なるほど、エマさんというのですね!どうですか!この後共にお食事でも…」
どうやら俺のことは眼中に無いらしい。てか、こいつ本当に10歳かよ。
「い、いやご飯は…アレクと一緒に食べるので…」
「アレク…?あぁ!魔術部門首席の彼ですね!彼の方が先に声を掛けて居たとは。予想外でした」
そうか、こいつは剣術部門だから、俺たちが幼馴染である事を知らないのか。
「俺たちは幼馴染だ。声をかけたとかじゃない、おまえと一緒にするな。」
「おまえ?貴様、ファルモディア家の跡継ぎに対してその暴言、覚悟はあるのか?」
「ファルモディア家がなんなのかは知らないが冒険者学校では、貴族だろうが王族だろうが権威を振るうことは許されていないはずだが?合格したんだから俺達はもう、冒険者学校の生徒だろう」
正論をぶちまけてやった。子供にはよく効くだろう。
「そうです。例え王族であろうと冒険者学校の中では、皆平等です。権威を振りかざすのはお辞めなさい」
そう言うのは、金髪の髪を腰まで伸ばした女の子。瞳は水色だ。
「ソ、ソフィア様…!」
そう言うとランガンは頭を下げた。
彼女の名前はソフィア・イグナシア。剣術部門第3位で王族イグナシア家の第3王女。エマに負けず劣らずの美しさだ。
「頭は下げなくていいですよ。ランガンさん、これからは学友同士仲良くしましょう」
「は、はい!」
この話は終わり。そう思ったらランガンがニヤリと笑い、こちらを向いた。
「では、こうしましょう。この後行われる魔術部門首席VS剣術部門首席のエキシビションマッチがあるので、それで決めることにしましょう」
「なにを決めるんだ?それにおまえ次席だろ。」
エキシビションマッチ?初耳だ。校長が言っていたのはこれのことか。次席という言葉にランガンは顔を顰めた。
「首席のカルマさんは体調不良のようなので変わっていただきました。この事は陛下にも伝わってますよ」
めんどくさい事になってきた。
「では、この後のエキシビションマッチで私が勝てば貴様はエマさんにはもう近寄らないでくださいね。」
「は?それは横暴だろ。エマの意思はどうするんだ」
そう言うとランガンはエマへ目線を向けた。
「いや、わ、私は、アレクと一緒に…」
「あぁ!!幼馴染というだけでしつこく言い寄られているのですね!!大丈夫です!私が貴方を救ってみせます!」
やばいな、こいつ。無理やりこじつけやがった。
すると、ソフィアが俺の元へ来た。
「勝てばなにも問題はありませんよ…」
俺の耳元でコソッとソフィアが話しかけてきた。
「まぁ、そうですけど。こっちに何もメリットが」
「アレクサンダーさん。敬語入りませんよ。私は癖なので敬語はお許しくださいね?
確かに、メリットはございませんが。貴方が負けることはないでしょう?」
そう言いながらソフィアは笑った。どうやらさっきの試験を見て確信しているようだ。
エマの方に目を向ける。
「私は、アレクが負けると思わないし、大丈夫だよ?」
本人の了承もでてしまった。
ただのエキシビションマッチのはずが、まさかエマの取り合いになるなんて…。まぁ、せっかくのエキシビションマッチだ。
「黒剣使うか。」
しばらくして、エキシビションマッチの招集がかかった。
第9話ご閲覧いただきありがとうございます!
次話をお楽しみに!