99.英雄と将軍
暇つぶし!
99.
英雄と将軍
何やら、英雄はイシワラのことを将軍と呼んだ。
「こいつも軍人なのか?」
「あぁ、俺は元軍人だ。特殊工作部隊にいた。その時の指揮官がイシワラ将軍だった」
「そうなのか」と、オレはあまり関心なさげに回答した。
そりゃそうだ。
特殊工作など興味もなければ、そもそも知らんさ。
そう、ヤマモトはイシワラが、南部戦線で街道爆破事件を起こした際、要人を暗殺する工作班にいたのだ。
何といっても、ヤマモトは風魔法で空を飛べる人材なのだ。
軍も重要な作戦には、必ず参加させていた。
しかし、西軍は負けたのだ。
それ以降は、ヤマモトは軍を辞め、ハンターとなった。
無論、監視は付いていたようだが。
「共に戦ったイシワラ将軍が、魔人の味方に付いていたというのか……」
この時、ヤマモトが、イシワラの死をどう思ったのか、オレにはわからなかった。
魔人側に付いたイシワラと闘えるだけの覚悟はあったのか?
それとも、また、イシワラと共に戦いたいと寝返ったのだろうか?
そして、ヤマモトは魔人との闘いの前にも拘わらず、こういった。
「蒼井よ。俺と闘ってくれ」
「そういうと思っていた」
「!?」
「だが、あいにく先客がいるのでな。その後だ」
「先客だと?」
「あぁ、リード イフリートだ」
「そいつは魔人ではないのか?」
「そうだ。魔人だ。羊皮紙でわざわざ、オレと闘えと、さもなくば、スロープシティまで住人を皆殺しにすると言ってきた。だから、オレは奴と闘う。
つまり、オレは、お前以上に重要な役目を背負っているのだ。わかったか。(にせ)英雄!」
オレは思わず、「ニセ英雄」と言ってしまうところだった。
すると、先ほどのタンク役が、
「お前、西の英雄であるヤマモト様に向かって!」と、言おうとすると、ヤマモトが制した。
「フフッ、蒼井。このSSランクの俺様をも三下とでも言うのか。面白い奴め」
「それは、魔人に聞いてくれ。オレは真面目な男だ。言われた通りに出向いただけだ」
と、言うとヤマモトと眼が合った。奴も何か面白いものを見つけた喜びを感じていたようだ。
しかし、それは歓迎する者ばかりではなかった。
「それは、ようございました。しかし、蒼井殿、あまり待たせるのは、よくありませんね」と、声がした。
「時田だッ!」
オレは、周りを見渡したが、姿が見えない。
ザッザッ、ザッ、ザッザッ!
魔物の足音だな!
「コマンダー・キャンベルよ。お相手をしてあげなさい」と、時田の声がした。
すると、大勢の魔物がこの広間へ押しかけてきた。
兵站の衛生兵などがいる中、大規模な戦闘が起きようとしていた。
「毒堀ッ、ビリー、横綱、行けるな?」
「当然じゃ」
「もちろ~ん」
「ワォォーン」
そして、駆け出すオレたち以外に、ヤマモトのパーティー、ミサキとCランクハンター、ミスター・タンクマンとその他の兵士やハンターのグループが出来て戦闘をしていた。
ミサキの周りには多くのハンターが集まっている。
楽に討伐が出来るからだ!
Cランクハンターが、ここまで来れたのは、ミサキのおかげだろう。
そのミサキが、オレの元に幽霊を飛ばしてきた。
幽霊がかすれた声で、オレの耳元で話したのだ。
「アオイぃ、ハヤトぉ。よく見ておきなさいぃ。ヤマモトの戦い方と技を。対策を考えて……」と。
何とも、不気味なのだが。
そして、英雄パーティーは、英雄中心のパーティーだ。
ヤマモトがオープニングブローを放ち、止めもヤマモトが刺す。
メンバーは、ヤマモトのおこぼれを集めてSランクになったのか?
だから、端から強い奴を募集しないと実力が保てないのかもしれないな。
すると、コマンダー・ミーヤと名乗る女が現れた。
「これは英雄殿かな。ハハハ」
ゴブリンが前衛。
オークが中衛。
ミノタウロスが後衛の部隊だ。
ゴブリンがショートボウで攻撃し、続いてオークがジャベリンで攻撃し始めた。
ヤマモトたちは、分散した。
その時、下っ端の荷物持ちが一人殺られた。
そんなことは、気にもせずパーティーは闘っている。
女戦士は、手に長針を数本持ち、
「電気虹音」と、叫ぶとゴブリンに投げつけた。
ゴブリンの顔には、針が刺さり、それが小柄なゴブリンの脳みそに達したのだろう。
死んだようだな。
弓手は「大爆発!」と叫ぶと、矢を放ち、矢はクラスターとなり、ゴブリンにオークを集中砲火している。
「こいつら、音声入力でもしているのか?」と、小言を呟いてしまった。
「岩戦闘ッ」
「原子力火炎」と、やかましい。
散々、叫びまくった挙げ句、敵はコマンダーのみとなった。
そこで、英雄さまのお出ましだ。
「超電磁な龍巻き」と言うと、槍からトルネードが発生した。
そして、コマンダーは、クルクルクルッと廻りながら、空中で、ビターンと磔状態となった。
「どうだ、動けまいッ」
そして、槍から、またトルネードが発生すると、今度はヤマモトを包み、回転させている。
そのまま、ヤマモトは廻りながら上昇し、コマンダーへ突っ込んだ。
コマンダーの土手っ腹には盛大に穴が空いた。
これは、広いところでしか、使えないよな。
となると、こいつも、哀れな奴だ。
しかし、あの「超電磁な龍巻き」、真似できんかな?
と、思っていたところ、また、幽霊がやって来た。
「ワタシがいれば、貴方もぉ、出来るわよ。あの技ぁ」
「ん?」
「ウルフちゃんが、トルネードを使えるのでしょう? ワタシの幽霊と合わせればぁ」
それは、横綱のトルネードで、幽霊を飛ばすのか? それとも、オレを廻して、突っ込ませるのか?
「幽霊は、飛ばさなくても、飛んでいけるわ」と、いつの間にか、ミサキ本人が横に来ていた。
すると、毒堀もビリーも、既にニヤニヤしているではないか。
お前ら、なんだか、あまり良い気がしないぞ!
次回の空手家は、オレも超電磁だ!
読んで頂きまして、ありがとうございます。
最終回は110話になります。
ブクマよろしくねぇ。