98.英雄など邪魔者でしかない
98.
英雄など邪魔者でしかない
兵站の衛生兵たち、治療班がハンターや兵士を治療している間、ジメ子! ではなかった、ミサキと話していた。
そして、武器も新たな物が届いていたので、壊れたロングソードも交換し、クナイも補充しておいた。
周りを見渡すと、イシワラの爆裂を爆心地で食らったフルプレートのジョニーは、治療魔法を受けたが、戦闘可能という訳にはいかなかった。
鎧も溶けるぐらいの爆裂だったのだ。
無理もなかろう。
ミスター・タンクマンは、やるみたいだ。
新しい大楯を用意している。
骨折している者も脱落だ。さすがに骨折は、すぐには治らない様だ。
まあ、その方が、良いかもしれない。
次は魔人が相手なのだから。
結局は、怪我をしているのか、よくわからない重装歩兵とミスター・タンクマンと数人の兵士とうちのパーティー、ミサキも今回は出るようだ。
「ハッキリ言って、戦力不足だろう」
「まあ、そうじゃな」
「Sランクが三人だよね。それじゃあ、一人も倒せないじゃないか。どうする? ハヤト?」
「オレは行くつもりだ。相手が名指ししている。オレが行かないと皆殺しらしいしな」
すると、すさまじい突風が吹き荒れた。
「なんだ?」
まるで、竜巻の中から人が現れた。
そう! そこに現れたのは、西の英雄さま、ご一行だった。
五人のうちの一人、タンクの男が言った。
「『西の英雄』のヤマモト様が到着されたぞ」と。
今まで、死にそうな顔をしていたハンターや兵士の顔が見違えった。
「うおおぉぉ」と、一斉に声を上げた。
「これで、何とかなる」と言った感じだ。
いや、誰もかれもが、そう思っているに違いない。
オレ以外は!
何故、オレがそう思わないのかって?
今まで、さんざん、肩書きが役に立たないことを見てきたからだ。
牧場の町では、元ハンターの牧場主、ジムたち犯罪者。
ヤシアーの街では、討伐に参加したハンターたち。
港町では、Aランクハンターのサムハン。
日本にいた頃も、口だけで営業成績の悪い先輩など、様々だ。
中には、口だけは大きかった者もいたなッ。
「あいつは、最後の仕事だけで、英雄になるつもりなのか?」
「まあ、ハヤトよ。そういうなよ。最後の仕事が一番、難度が高いのだからな」
「そうよ。せめて利用しなさいな」と言ったのは、先ほどのジメ子だ。いや、ミサキだ。
すると、この場を英雄さまが仕切り出した。
正直、うざい。
『俺様は、この国で二人しかいない。SSランクなんだぞ!』とでも思っているのだろう。
オレは、こいつと距離を置いた。
すると!
「Cランクのハンターが、最後の討伐に出るようだな」とヤマモトが言った。
皆が、オレたちを見ている。
「そうか、では、荷物持ちを頼む」
「オレが戦闘が出来んではないか」と答えてやると、ヤマモトのパーティーメンバーが笑った。
「お前、英雄殿が言っておられるのだぞ」と、軽装歩兵の男が言った。後で知ったのだが、こいつもSランクハンターらしい。
SSランクの英雄さまは、Sランクを部下にしているようだ。
しかも、このパーティーはAランクハンターでないと加入すらできないらしい。
しかも、毎年、選考試験までしているというのだから、大繁盛だ。
そんな、奴らからするとCランクハンターなど、ハンターとして見ていないのだろう。
だが、オレからすると、こいつらの実力を見ていないので、肩書でない本当の実力はわからないのだ。
ここまで、討伐をしてきたのは、ここにいるハンターなのだから。
敵のいない地下道を突き進んできた奴が、エラそうなことを言うなと言いたいのだ。
軽装歩兵が不機嫌になった。
何故なら、誰も軽装歩兵の言うことに賛同せず、笑わないのだから。
そうなのだ。
ハヤトのパーティーのみが、魔人とジェネラルを倒したのだから。
Sランクハンターは、誰一人、魔人を倒していない。
「おい、お前ら、何なんだ。その反応は?」
「そいつは、ここでの最大の功労者だ。お前も敬意を払わないと危ないぞ」と言ったのは、先まで瀕死だったフルプレートのジョニーだった。
「はあ? なに言ってんだ。Cランクが最大の功労者だと」
こいつは、チンピラか?
オレは思わず苦笑してしまった。
そして、分かったのだ。
「こいつでは戦力にならないな」と。
「なにを言ってんだ」と軽装歩兵が、オレのベルトを掴んできた。
「バカめ」
次の瞬間、軽装歩兵は地面に付していた。
そして、オレは膝蹴りで、顔面をめった蹴りにしてやった。
すると、他のパーティーメンバーが出てきた。
「セーサンだ! これが空手で言うセーサンだ」と、オレは言い放った。
もし、イシワラ・カンジが、ここにいたら、大笑いするだろう。
奴も、相当、セーサンを稽古しただろうからな。
軽装歩兵が掴んできた腕をオレが掌底で落とし、顔面へ膝蹴りをかましたので、この男は地面に伏したのだ。
そこに、追撃の膝蹴りをかました。
Sランクとは言え、ただでは済まないはず。
そして、動かないSランクハンターの顔を上にすると、歯は折れ、顎は骨折したようだ。
「おぉ、これはしばらく、飯が食えんのぉ。しばらくしても流動食じゃのぉ」と、毒堀が喜んでいる。
タンク役が文句を言ってきた。
「てめぇ。何をしやがる」
「こいつが売ってきた喧嘩を買っただけだ。お前らが、こいつの管理を出来ないからこうなった。文句あるまい」
「やかましい。土下座しろ。Cランクのくせに」
この時、毒堀も横綱もやる気満々だった。無論、ビリーも楽しくなってきたという感じだ。
ここで意外なことに、ミスター・タンクマンが加勢に入った。
「俺は、蒼井隼人に付くぜ」
「なにを言ってんだ。ミスター・タンクマンともあろう者が」
どうやら、タンク業界では、ミスター・タンクマンはカリスマ的存在だそうだ。
さらに、
「困るわぁ。彼らに荷物持ちなどされては」と言ってきたのは、ミサキだ。
「それは、どういうことだ。ミサキ」
「私は、彼らとパーティーを組みたいと思っていたのぉ。最終決戦はぁ!」
「ああ、オレもだ」
なんと、Sランクハンターのミサキとミスター・タンクマンが、オレたちとパーティーを組みたいと言っている。
まあ、ここは、この場を納めるためなのだろうが、こちらとしては有難い。
すると、後ろで見ていたヤマモトが、
「おい、お前ら、それぐらいで止めておけ」と言うと、タンク役は頷きさがった。
「Cランクハンターよ」
「オレは蒼井隼人だ」
「では、蒼井。こいつも悪いが、お前もやり過ぎた。これでは一人メンバーが足らない」
「いや、これで良い。ひとり死なずに済んだからだ」
「なに?」
「こいつの実力では魔人相手に勝てない。オレが保証してやる」
「そうだ、ヤマモト。この男は、すでに魔人と闘っている。ジェネラルとかいう化け物も倒した」と、ミスター・タンクマンがジェネラル・イシワラの遺体を指さした。
「イシワラ将軍じゃないか!」
なんだ、ヤマモト、こいつも軍人なのか。
次回の空手家は、英雄の実力を見たい。
最終決戦前にうざいですね。
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