97.超電磁な龍巻き
97.
超電磁な龍巻き
蒼井隼人がイシワラと闘っていた頃、二階層から三階層への階段前を護っている二つの班は、魔物に襲われていた。
ここを防衛しないと、後ろの救護班がいる第三の広間が襲われてしまう。
しかし、ここにはCランクハンターが中心で、ミノタウロスにオーガの相手は、かなりキツイものであるはずだ。
が、大きく苦戦はしていない。
それは、戦闘の後方で木箱に腰掛けている女がいるからだ。
その女は、パタパタと扇子でも扇いでいる。
そう、この女は幽霊使いのミサキだ。
手下の幽霊に取り憑かれると、魔物は動く事が出来ない。
そして、ミサキとしては、嬉しいことに、「大勢、死んでくれたからね」ということである。
「ミサキさん、何か言いましたか?」
「いや、何でもないよ。何でも」
しかし、本人は『ふぅ、大勢が死んで幽霊が増えたから、強くなっているなんて、仲間に知られたくないからね』と、考えていたのだけれど……
ミサキの魔力なら、まだまだ、従わせることの出来る幽霊の数は余裕のようだった。
ミサキのおかげで、Cランクハンターでもミノタウロス達を壊滅させることができ、治療班も安全に三階層へ進むことが出来たようだ。
オレは、ジェネラル・イシワラを倒した後、少々、めまいを起こしていた。
これは、衝撃を喰らいすぎると、しばしば起こす現象で、そう問題はないと経験上知っているが、治療班の到着を待つことにした。
魔人とやるのだから、完璧なコンディションで挑みたいからだ。
オレも傷を負っているが、それ以上にアニーが、このままでは心配だ。
魔力は回復して、命には問題は無いらしいが、まだ、起きれる状態ではない。
つい、「長いな」とボヤいてしまった。
すると、ミサキ達の護衛の下、兵站の兵士たちが現れた。
「こっちだ! 治療班、こっちだ」と、オレは叫んだ。
「どうしました?」と、治療班が駆けてきた。
「一度、魔力切れを起こしたんだ」
「脈を測ります」
「どうだ?」
「念の為、地上の医療施設へ運んだ方が良いです」
「そうか、頼む……」
すると、アニーがこっちを向いている。
「が、んば、り、な、さいよ。ハヤ、ト……」
「勿論だッ! 必ず返ってくる。待っていてくれ」
そして、アニーは、深く頷き眼を閉じると、治療班に運ばれていった。
オレたちは、ここで、アニーと分かれることになった。
これで、オレたちに耐熱魔法をかける者がいなくなったということだ。
無論、不安だ!
イフリートを相手にすると言うのに、耐熱魔法が……
そんな、オレ達の不安をよそに、おかしな動きをしている女ハンターがいた。
こいつは、幽霊使いのミサキだ!
オレは、このオンナは気持ち悪いので、あまり好きではない。
どことなく、ジメッと湿度が高い。
すると毒堀が聞いた。
「なぁにをしておるんじや?」
「ん? ワタシ?」
「そうじゃ、お前さんしかおらんわい」
「フフフ、ナイショよ。教えられないわ」
勿体ぶって、どこまでも、好きになれないな。このオンナは!
実は、後から聞いた話では、この広間で死んだハンターや魔物の魂を加工して手下になる幽霊を作っていた最中だったらしい。
だったら、イシワラの魂もなのか?
もし、あのイシワラがミサキの手下になったのかと思うと、何とも言えない負の感情に心が染まっていくのを、オレは感じぜずにはいられなかった。
そして、そのことについては、ミサキは答えなかった。
「個人の名前までは、分からないのだ」と。
それは、おそらく名の無いオーガやゴブリンだからではないのか。
オレは何か、違うと思った。
その頃、地上のギルドでは!
ハンターがギルド支部を制圧し、「さすがヤマモトだ」ということになっていた。
ヤマモトは、「魔物のくせに、あんな兵器まで作りよって。許さん!」
ここで言う、『あんな兵器』とは、毒堀のアルキメデス砲だ。
なので、アルキメデス砲は、徹底的にヤマモトに潰されてしまった。
あわれ! 毒堀のアルキメデス砲。
そして、ヤマモトは自分のパーティーメンバーを集め、地下に潜ることにした。
「うおぉ、西の英雄が加勢すれば、楽勝ではないのか!」と言った職員の声が聞えてきた。
それを聞いたヤマモトのパーティーメンバーは、胸を張った。
そして、ヤマモトのパーティーが出陣する。
途中、足の速いフルフルが襲ってきた。
「さすが、鹿の魔物だ。動きが速いな」と、前衛のタンクが言うと、
「超電磁な竜巻だ」とヤマモトが叫ぶ。
なんと、槍の先が光ったと思いきや、トルネードが発生し、そのトルネードに襲われたフルフルが“クルクルクルゥ”っと舞い上がった。
すると、どういう理屈かはわからないが、フルフルがまるで空中で磔にされたように、ビターンと動かない。
声を出そうとしているが、声すら出ない様だ。
「どうだ、動けまいッ」と、ヤマモトが言うと、また槍からトルネードが発生し、今度はヤマモトがクルクルと回り出した。
「超電磁な旋回」
そして、トルネードに包まれたヤマモトとその手に持つ槍はフルフルの胴体目がけ突撃し、どてっぱらを貫いた。
なんと、ヤマモトは風魔法で空を飛べるのだ。
だから、船を破壊されても、次の瞬間にはギルドの屋上に移動していたのだ。
そんな、ヤマモトが地下に潜るということは、「俺の仕事じゃない」と思っていたのかは、誰も知らない。
次回の空手家は、英雄なんて邪魔者なんだよ。
最終回は、もうすぐだ!
また、よろしくねぇ。