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94.空手対空手

94. 

 空手対空手



“ドカーーン”と、ロングソードは爆破を食らい吹っ飛んだ。

 だが、それは当然だ。

 両手剣を右手だけで振ったのだから。


 オレの左手は人差し一本拳で、イシワラの右目を攻撃していた。※1

 しかし、本命の攻撃もクリーンヒットしなかった!

 かすっただけだった。


 それは!


「空手の上段上げ受けだと!」

「蒼井、お前も空手使いか? 人差し一本拳、それも伝説のコーサ―とはなッ」


 コーサ―とは、人差し一本拳の握り方の一つで、古の空手家の本部朝基の握り方なのだ。

 通常の人差し一本拳は、親指が人差し指の爪の後ろに来る。

 これは、使える応用範囲が小さい。

 ところが、コーサ―は、人差し指の第一関節から第二関節を抑えるように握る。これが股間などへの攻撃の際、様々な応用が利くのだ。



 そして驚いたことに、ジェネラル・イシワラは空手を知っていた。

「この死後の世界に空手があるのか」とオレは愚痴ってしまった。


 当然、あるだろう。


 前世の記憶を持つ者が、この世界にいるのだから、空手家が記憶を持って死んだ場合、この死後の世界に空手があるのは当然だ。

 しかし、今まで、どういう訳か、空手家はオレだけだった。


 単純に、前世の記憶を持って死後の世界に生き返る等、レアケースなのだ。

 だが、このイシワラは知っていたのだ。空手を!


「知りたいか? 何故、俺様が空手を知っているのか?」

「……」

 オレは、何よりも知りたかった。

 このイシワラが、何故、空手を知っているのかを!


「我が西軍では、すでに空手を教授しているからだッ」

「何だと!」

「西軍の武徳会では、空手の教授をしていた。だが、東軍に負けて、証拠隠滅をしたのだ。そして、一部のものだけが受け継いでいる。俺もその一人」


 そういうと、イシワラは、武徳会独特の構えを取った。

 猫足立ちという、後ろ足に重心を置き、両手を上段と中段に伸ばすような構えは、これは剛柔流だ!


 剛柔流!


 それは、宮城長順(みやぎちょうじゅん)によって、はじめられた空手の流派で、接近戦を得意とする闘い方をする流派なのだ。


 宮城は東恩納完量(ひがおんなかんりょう)の一番弟子で、東恩納完量とは、那覇の武士:新垣世璋(あらがきせしょう)に武術を習い、その後、清国へ渡り白鶴拳のルールーコウより中国武術を習得して、日清戦争を避けるため、沖縄へ帰った。

 その後、武士でなくても通える町道場を建設。

 宮城長順は、この道場の出身で、東恩納完量の武術をベースに独自の発想を持って完成させた空手が剛柔流空手なのだ。


 そんな剛柔流を使うイシワラに接近戦は、タブーなのだ!


 迂闊に突けば、回し受けの餌食になる。

 回し受けからの関節技は気を付けなければならない。

 コマンダーの力で決められると、どうなるかは目に見えている。


 間合いを詰めるイシワラ!

 オレは、それを嫌い間合いを外す。

 そんな攻防が続いた。


 本気で当てるのでなく、様子見の打撃を双方が出し合う。


 これで大きく下がる相手は、十中八九、弱い!

 ギリギリで交わす相手は、上手い!

 前に出る相手は、強い!


 そして、オレが求めている空手は、前に出る強い空手だ!

 前に出るのだから、当然、勝負の時が訪れる。


 オレが前に出たので、イシワラの右中段逆突きが、裂ぱくの気合と共に放たれる!


「ハアァッ」


 如何にも剛柔流と言う正拳突きだ!

 肘を落とし、前腕が地面と平行になる力強い突きだ。

 一発でアバラをへし折るつもりの突きだ。


 この重たい突きを、オレは下狐拳で落とし受けを行った。

 下狐拳とは、手首の内側の堅いところで、これを手の甲の真ん中の急所にぶつけるのが、落とし受けだ。

 これは、剛柔流で言えば、十八と書いて、セーパイという形にある攻防なのだ!


 イシワラは、これに反応した。

 一気に不機嫌になった。


「セーパイを語るとは……」とイシワラが言った。

「ニーパイポだ! これはニーパイポだ」

「貴様ぁ、何をふざけている。セーパイだろう」

「フフフ」


 オレは笑ってしまった。


 そう、イシワラの空手は強いが、古いのだ。

 一撃を磨き、強く重たい一撃を放つ。大正から昭和初期の空手だ。


 その時代、ニーパイポという形は秘密にされていたのだ。

 実は、昭和53年だか54年だかに、糸東流の摩文仁宗家が公表したのだ。

 それまでは、名前だけで知られていなかったということだ。


 だから、イシワラも知らないのだ。

 名前だけの形の名を語る不届き者ということなのだろう。


 そして、また、イシワラの正拳突きがオレを襲った。

 すると、今度は、受けようとしたところ、拳が爆裂した。


 なんと、爆裂と正拳突きの混合攻撃。

 たちまち、オレの左手は痺れてしまった。

「マズい」


「蒼井よ、今のは軽い爆裂だぞ。フフフ! 今度は、貴様のその腹だ」とイシワラは言うと、猫足立ちに構えた。



 次回の空手家は、空手の近代化は無駄ではない。




※1 人差し一本拳:人差し指の第二関節で打撃をする。

 この際、手首のスナップを利かせることを“鶏口米”という。

 これにより、単なる打撃でなく、肉や内臓をえぐることが出来る。

次も、よろしくね!


ブクマも!

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