9.蒼井隼人、ハンターになる!
第9話
蒼井隼人、ハンターになる!
何も抵抗をしない!
それは、ゴブリン達にとって、『何をしても構わない』と言うことだ。
牛を盗み、身体を切り裂き、肉を食らい、牛舎を汚し、さらに壊し、牛に悪戯をしても、何もしてこない。
これ即ち、すべてOKということだ!
なんと言っても、今、ゴブリン達は恐れるものはない。
自分たちの中から、上位種であるゴブリンロードが誕生したのだ。
いずれ、ゴブリンロードはゴブリンキングとなり、この周辺は支配する。
人間など恐れることはない。やりたいことをやれる。それには、数を増やし、数の暴力で家畜を襲う。
そして、数を増やすため、栄養価の高い牛の肉を食らい続けてきた。
そろそろ、数も揃ってきた。
数に任せ、牧場の牛をすべて攫う。
そして、数の暴力は牛だけではない。
人間にも通じるはずなのだ。
今から、人間の腹を捌くのが楽しみでならない。
そして、襲撃の時は、明日の夜だ!
***
その頃、オレは牧場の清掃だけでなく、牛の連れ出しや、餌の管理などの他の酪農作業も行い、牧場経営者とギルドから、「真面目によく働く奴」という評価を頂いていた。
すると、経営者の妻、通称、おカミさんから、
「明日の夜は、ウチで食事会をしようと思うの。蒼井さんも食べて行って」と声を掛けられ、明日の夜は、他の従業員と共に食事をしていく事になった。
そして、ギルドという、異世界のハローワーク通いのお兄さんである蒼井にとって、明日の夜は"衝撃の一夜”になるのであった。
***
次の朝、『ギルドへ寄ってから、牧場へ行くこう』と、まずはギルドに寄った。
すると、カウンターの奥から、中間管理職らしき男性に呼ばれ、なんと、男は「ハンター資格を受けないか」と言うではないか!?
町の清掃、牧場の清掃、酪農作業を問題無くこなし、経営者からの話では『好評だ』とのことで、ハンター資格を受ければ、Eランクは問題無く合格するとのことだった。
この世界では、ハンター資格があれば、同じ仕事でも報酬に上乗せがある。
それに、別の町の依頼も受けられるようだ。国の中で活動するということなのだろう。
勿論、答えはイエスだ!
答えを聞いた男性は、奥に入り、しばらくすると出てきて、こう言った。
「マスターがお会いになるそうですよ」
『マスター? 誰やねん』とは言えず、
「わかりました」とだけ返答し、奥に入ることにした。
マスターは、50歳前後の年齢にみえる。
しかも、しっかりした体型をしているので、今も鍛えているのか、元ハンターだろう。
そのマスターからは、「良い仕事ぶりだと聞いているよ」とお褒めの言葉を頂いた。
まあ、良いと言われても、清掃だけしかしていないのに、良いもへったくれもあるものだろうか?
それには、軽く頷く程度のオレだったが、幾ばくかの質問に答えると、
「ハンター資格、Eランク、合格だ」とマスターが口にした。つまり、オレはハンターになったということだ。
唐突で、拍子抜けしたが、『合格』と言われると嬉しいものだ。
まあ、実際は、ギルドとしては、使いやすい低ランクのハンターが欲しかったのだろう。
受付嬢曰く「人手不足」らしいしな。
それでも、これからはハンターだ。討伐も、遠征も出来て、稼ぎになる。
いきなりの面接試験だったが、パス出来たので、ノープロブレムということにしよう。
さて、ギルドから牧場へ行くと、従業員と経営者が話し合っていた。
「不思議だ!」「不思議だ!」と繰り返し、念仏のように唱えている。
「不思議だ!」に、ご利益でもあるのか?
冗談はさておき、「おはようございます」と声をかけると、経営者が不思議の解説をしてくれた。
どうやら、昨日はゴブリンの襲撃が無かったようだ。
それは、他の牧場も、同じで気味が悪いと話題になっているとのこと。
牛にも危害がなく、牛舎への悪戯もなかったようだ。
しかし、昼過ぎになると、皆、自分の仕事に専念しており、このことに気に留めるものは、誰もいなくなっていた。
そして、終業の時刻がやってきた。
まもなく、夜になる。
次回の空手家は、“ゴブリンアタック”、奴らがやって来た!