5.西部の荒野
第5話
西部の荒野
アンデッドの群れから何とか、逃れることが出来たが、もう、山小屋に戻ることは出来ない。
オレは墓地から進むことにした。
そして、墓地の入口から駆け出し、林を抜けると目の前には、赤褐色の荒野が広がっていた。
そこには、まるで西部劇を見ているような平原が、小高い丘から一望できた。
遥か遠くに1台の馬車が、その道の先にある小さい町を目指して進んでおり、ジオラマ模型でも見るかのように、ゆっくりと動いているのが見えた。
また、別の方向に目を向けると、複数の馬車が隊列を作り進んでいた。キャラバンだろうか?
また、処々にサボテンが生え手おり、『ここのサボテンは切ると水が出るのだろうか?』と思ってしまった。
しかし残念なことに、青いウォーカーマシンはいなかった。
メガネに帽子を被ったマントの男もいなかった。
そうこう考えていると、景色と同様にオレの気分も、パァーっと明るくなった。
もう、山小屋に戻るという選択肢は無い。ただ、進むだけだ。
そして、この時、オレの旅は始まったのだ。
先ほど見えた、『あの1台の馬車が目指していた町へ行こう』と決めた。
まあ、目に見える範囲で人のいそうな場所は、あの町ぐらいだ。
そう決めると、オレは町につながる道まで、丘から一気に駆け下りた。
それは、まるで“疾風のよう”だった。
さて、困ったことに、丘の上から見えていた町とはいえ、1、2時間で歩けるわけでない。
人の歩ける距離は、1時間で1里。つまり4キロ程度。
ちなみに、
東京と横浜が、概ね30キロ弱。
大阪と神戸が、概ね30キロ強。
つまり、歩くと7時間は掛るってことだな。
また、荷馬車が最大7マイル、つまり時速11キロ程度というから、自転車ぐらいの速さだろうか?
ということで、陽が傾き日没が近い時間となった。
仮に、町までにたどり着いても宿もあるかは、怪しいわけだ。
ならば、今夜は野営でもして、明日の朝、町に行こうと思う。
なので、まずは火をおこし、山小屋から持ち出した玄米茶を飲むことにした。
さらに、食事は、干し肉に乾燥野菜を持ち出していたので、これらをスープにした。
まあ、味は、可もなく不可もなくといったところだ。
食事も終わり、火の近くで寝袋で寝ていると、怪しい足音が複数聞こえた。
マズイな……
相手は一人では無いようだ。
しばらくして、体のサイズは小さいが人型の何かが近づいてきた。何だろうか?
しかも、相手は夜目が効くらしく、しっかり見えているようで、真っ直ぐこちらに歩いて来る。
『人ではないな……』
また別の方向からも足音が聞こえたが、人型とは違うようだ、これは四足動物の足音ではないだろうか?
『西部の荒野で四足といえば、何だろうか?
肉食のコヨーテか? さらにマズイな!?』
しばらくして、小さな人型が、奇妙な声で、会話をしている。
蒼井には「キキィ?」「キッキッ」と言う風にしか聞こえなかったが、会話のようだ。
不気味としか言いようが無い。
とりあえず、戦闘態勢はとっておきたい!
寝袋のファスナーをゆっくりとおろし、手にはロングソードを握り、いつでも飛び出せるようにしておいた。
すると、人型がイラついているのだろうか?
少し大きな声で、「キキキキィィィー」と言ったように聞こえた。
棍棒を持って、こちらに来るようだ。
その刹那!
「ドォーーーン」という大きな音が、地面を通じてオレのところまで響いた。
人型が、遥かに吹っ飛ばされていた。さらに、別の人型が、その四足動物に首を食われていた。
『ああ、これは確実に死ぬな』
その人型は、断末魔を上げ、力なく倒れた。
そして、暗闇に静寂が訪れた。
『次は、オレなのか? オレが食われるのか?』
しかし、足音は聞こえるが、こちらに来るわけでもなく、時間だけが経過していた。
どうやら、その四足動物は、オレの周りを遠巻きにぐるぐると回っているだけのようだ。
いや、“だけ”というのは、翻意が分からないのだ。
オレを殺そうとしているのか?
それとも、ただ、興味があるのか?
背中に汗が噴き出している。
しばらく時間が経過したが、何も起こらなかった。
オレは疲れからか、ツラツラと軽く寝ていたようだった。
そして、荒野の夜は明け、朝が訪れようとしていた。
次回の空手家は、町に向かいます。でも、お金がなかった!?