19.罠
19.罠
ギルド職員は、オレに「もう1試合あるが、“大丈夫”で間違いないね?」と尋ねてきた。
もう1試合やって、さも当たり前という態度だ。
なので、
「当たり前だ!」と答えてやった。
これで、『蒼井サイドからの試合を要望したと言い逃れが出来る』とギルド職員は思ったなど、オレは知る由もなかった。
そんなことよりも、オレは武器の選択のことで、頭がいっぱいなのだ。
先ほどの魔法使いとの闘いでは、木剣は役に立たなかった。
やはり、盾は必要なのだろうか?
オレは色々と考えてはみたが、考えがまとまらず、先ほどと同じく木剣と投擲用にナイフを6本用意し会場へと向かった。
会場には、既にジムが待ち構えていた。
先ほどのギルド職員から、会場に説明があった。
「この試合は完全決着ルールとします。受験者が『参った』をしても、ギルド側が戦えると判断した場合は、続行いたします」
会場がざわめく。
これは、先の試合で、オレがアニーの顔の前で拳を止め、寸止めをしたのが良くなかったのだろうか?
審査を見に来ていたギャラリー達からは、「マジなのか?」と、滅多に見ることの無いことに興奮する。
一方、ハンター達は、「これはおかしい。ハメられたのでは?」と、声が上がっている。
ギルドマスターは、「即刻、中止だ!」と言う間に、開始の合図が告げられた。
ジム・ライトは何も持たず、ただ立っていた。
「おや、丸腰の相手に木剣かい?」と低い声が響いた。
ジムの挑発に乗るような蒼井ではないが、ギルド職員からは、試合は始まってあるにも関わらず、「この試合は、左右両手に短刀・ナイフ型の模擬武器のみ使用可能とします」と告げられた。
再度、会場がざわめく。武器の選択は自由だからだ。
ギルドマスターは、試合を中止させるべく、部屋を出ようとするが、職員達に足止めを食らっていた。
「どうした? 新人んんん、怖くなったか?」
それは、「如何にも」といわんばかりの安い挑発だった。
しかし、ジムは知らなかった。空手というものを!
先のアニーとの闘いは、『たまたま、素手で勝利したのだ』と、ジムはそう思っていたのだから。
そして、オレは、その安い挑発に乗ることにした。
「良いだろう」と言うと、オレは、木剣を捨てるのであった。
***
二人ともに競技場の真ん中で、睨み合っていた。
さて、先に動いたのはジムであった。
右手のナイフを降り、オレの顔面を襲ってきた。
その時、オレは『素人臭いな』と思った。
ナイフを振り回すのは、怖くない。
命を狙う時は、刺す場合が多い。
だが、今は、命のやり取りではないので、フェイントだろう。左手で仕掛けてくるのが、本命か?
そう考えていると、やはり左手で突いてきた。
あまり、速いとはいえない速さだった。
神足雷撃の伝統派空手になれているオレにとって、スローな闘いであった。
だが、ジムのナイフを蒼井が左手のナイフで受けた際、ナイフがぶっ飛ばされた。
「何故だ?」
同じ木製の模型のナイフにしては、奴のナイフは、重かったように思える。
「鉄製のナイフではないのか?」
「これのどこが、鉄製なのだ? 新人んん?」
確かに、ジムのナイフは木で覆われていた。
だが、仕込み杖のように中は、金属で出来ていることは、ジムと立会をしている職員連中しかいなかった。
左手のナイフを無くしたオレに、ジムのナイフが容赦なく襲いかかる。
さて、ジムが何故、ナイフ型の武器を選んだのだろうか?
それは、近接戦闘になるからである!
お互い接触する距離なら、周囲に見えない角度から、仕込みナイフや隠しているカランビットナイフで殺すことも可能だからだ。
さあ、片手で2本のナイフを受け続けることとなったオレだが。
しかし、
「ぐあぁぁぁ」と、悲鳴の声を上げたのはジムの方だった。
何が起こったのだろうか?
次回の空手家は、決着!
勝つのは、どっちだ?