15.ファイヤーシューター
第15話
ファイヤーシューター
アニーの次の詠唱が終わり、「ファイヤー……」と右手を上げた瞬間、オレは近くの障害物へと走り出した。
ザザザーッという音と共に、障害物へ滑り込む。
地面に伏せ、次のファイヤーシューターを警戒したが、第2弾は放たれることはなかった。
先ほどのファイヤーシューターは、明らかに曲ってきた。
交わした先を、追尾してきた。
普通のファイヤーボールなら、この様なことはありえない。
「何故、曲がった?」
オレは、考えた。
ファイヤーボールが曲がった訳を!?
1つ目の考えは、ホーミングミサイルのように遠赤外線を、自動で追いかける、自動追尾タイプなのか?
それとも……
2つ目は、遠隔操作が出来、アニーの意思で曲げたのか?
このファイヤーシューターは、アニーの自信作の魔法で、開発したのは2年前のことだ。
アニーはファイヤーボールの他に、炎を移動させる魔法が使えたのだ。
とは言っても、ささやかな魔法で、ロウソクの炎を揺らす程度のものだった。
だから、ハンターとして役に立つものでは無かったのだが、ある時、おかしな現象に気が付いた。
自分の意思と関係なく炎が動いている時があるのだ。
不思議に思い、研究を始めた。
そして、移動魔法を与えた炎は、術者の意思と関係なく、最も近い炎に吸い寄せられるということだ。
つまり、移動魔法を付与していても、高温の炎があれば、そちらを優先するということなのだ。
アニーは研究を続けた。
どの程度の炎に反応しなくなるのか?
そして、研究を重ねた結果、人体の体温に反応するまでになったのだ。
「これなら、人体をどこまでも追尾するファイヤーボールが打てるわ」と、アニーは興奮した。
「一発で気を失う程度のファイヤーボールに移動魔法を付与すれば。タイマンで負けることは無いわ」
ファイヤーボールに移動魔法を付加すれば、“状況によっては百発百中”になる。これがアニーがC級ハンターたる所以なのだ。
更に、研究を続けると、感知しているのは、温度だけではなかった。
熱いヤカンやコップには、反応が無かった。アニーが思うに、炎や人肌といった二酸化炭素とも何ら関係しているようだ。
そして、アニー・オクレーは、百発百中のファイヤーボール使いとして、一気にC級ハンターへとのし上がり、気が付けば、“ファイヤーシューター” アニー・オクレーの名は、田舎町では知らぬ者はいない存在となっていた。
***
観覧席で、
「マスター、アニーが相手とは、ちょっとやり過ぎでは?」と言ったのは、毒堀出井だった。
ギルドマスターは、しばらく時間を置いて、
「これぐらいの事で、折れてしまうぐらいなら、Cランクハンターとしては、やっては行けまい」
と返すのだったが、毒堀は、
「奴はDランクを受験しているのでは?」と疑問を呈した。
それには、マスターは、ニヤリとしただけで、何故か、これと言った答えは言わなかった。
***
「参ったな」
これは、オレの正直な感想だった。
木剣は、今の攻撃で見事に砕け、地面で燃え盛っている。
木剣でなく、ロングソードなら燃えなかっただろうに……
と思うと、このルールは、不公平なのではないか?
「魔法使いが有利な条件なのでは?」とオレは呟ていた。
今のオレの使える武器は、『投擲にでも使えるか』と思いナイフ型の木の模型が6本だ。
ナイフ型模型では、ファイヤーボールは受けれない。
こちらに、大きなダメージを食らう。
一気に間合いを詰め、近接戦闘に持ち込みたいが、アニーとの間に障害物はない。
あの追尾ファイヤーボールを避けて、間合いを詰めるのは無理だ!
アニーは無理に間合いを詰めたりはしないだろう。
離れているのが安全だからだ。
しかし、それではアニーも勝てないのだ。
あと、28発を、どう使うのか?
互いに次の一手を模索していた。
そして、先に仕掛けたのはアニーだった。
蒼井の隠れている障害物を回るように歩きだした。
「ふん、百発百中のファイヤーシューターの威力は、どう? 思い知ったか!?」
「百発百中とは、百発ファイヤーボールを打てるようになってから言うんだな」と、オレは挑発をしてやった。
「な、なんですって!」
と、気持ちいいぐらい、挑発に乗ってきた。
さらに、アニーは続けた。
「自分の状況を分かって、言ってんの?」
見た目はオレが逃げ隠れている様に見えるが、オレ自身は、そう悪くない状況と判断していた。
まず、あのファイヤーボールがアニーの意思でコントロール出来るのであれば、障害物など何とでも出来るだろう。障害物の後ろへファイヤーボールを動かせれば、今頃、やられていたはずだ。
また、障害物を超えて、頭の上から攻撃が出来るのであらば、これも、やられているはずだ。
木剣を失った蒼井には、ファイヤーボールは防ぎようが無い。
それらをしないという事は、このファイヤーシューターとは、目視した相手を自動追尾してくる魔法だ。
そのロックオンシステムはなんだ?
***
現在の状況は、障害物の後ろに隠れる蒼井隼人。
障害物を挟んでアニーがいる。
そのアニーは蒼井から見て、右へと歩きだした。
静かに、そっと歩き出したのだ。
しかし、オレに気付かれないほど、静かでは無く、ある程度は近付いているのは、わかっていたが、顔を出し距離を確認するのは、策が無さ過ぎる。
障害物の上にでも登るべきか?
しかし、気付かれると、目視されファイヤーシューターの餌食だ。
オレは、両手にナイフ型模型を持ち、投擲出来るチャンスを待つことにしたのだ。