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【完結】死後の世界は人手不足 【ビルドアップ版】―鍛えなおして、オレが帰ってきました―  作者: 井上 正太郎
第2章 空手家、異世界冒険者になる
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12.伝統派空手

第12話

 伝統派空手



 オレはゴブリンなど、一切、相手をせずに石を集めていた。


 さらには、

「これはキレイな石だな。

 元はガラスでガラス瓶か鏡が割れたのかもしれないな」等と呑気なことを言っていた。 


 しかし、幸いなことに、皆、命懸けの戦闘をしているので、オレの珍妙な行動に気が付く者は皆無であった。



 ある時、ゴブリン達がおかしな動きをし始めた。

 一瞬、動きが止まるのである!?


 それが『蒼井のせいだ』と、おやっさん達は気が付かなかったが、実は、先ほどのキレイな石を使って、オレはゴブリン達の視界を誘導していたのだ。


 つまり、ゴブリンは夜目が効く上、好奇心大勢のため、ガラスの反射を、つい見てしまうのだ。


 オレがガラスをチラつかすと、よそ見をしてしまうゴブリンは、おやっさん達にいとも簡単に狩られていった。



 そうこうすると、周りが騒がしくなってきた。

 他の牧場でも戦闘が起こっていたのだろう。


『元冒険者が加われば、なんとかなるのではないだろうか』と、誰もが思ったが、一番苦戦しているのは、意外にも元冒険者の牧場だった。


 ゴブリン達は、ゴブリンアーチャーをこの牧場に集中的に集め、火矢を盛大に飛ばしていた。

「クソたれめ!」と、元冒険者上がりの牧場主の声が聞えそうだ。


 一方、おやっさんの牧場は、煉瓦造りのサイロに数本ほど火矢が刺さっているが、大きな被害は出ていない。


 ゴブリン達が、元冒険者の牧場対策に戦力を割いていたせいか、先ほどは、あれだけ多くの火矢が準備されていたと思ったのに、あまりこちらには飛んできていなかった。


 そして、


 ボコッ!という音と共に、ゴブリンが倒れた。

 オレの投げた石が、ゴブリンアーチャーの頭に当たったのだ。


 ゴブリンは好奇心が強い。

 光ると反射的に、そちらを見る習性がある。


 左手にキレイなガラスをチラつかせ、ゴブリンアーチャーがガラス石を見ている隙に投石した石がゴブリンを襲う。


 百発百中とは行かないが、ガラスを見ている間は、ゴブリンアーチャーの火矢は確実に射ることができない。


 また、ゴブリンアーチャーへの嫌がらせで、大きく山なりの投石を行う。

 滞空時間が長いので、落下するまでゴブリン達は右往左往し、バカなことに頭を抱え足を止める奴もいる。


 数十人はいるアーチャーが、オレ一人の投石によって封じられていた。

 お陰で、おやっさんの牛舎や小屋には火矢は刺さらず、未だ健在なのだ。


 また、空手の有段者であるオレが接近戦をせず、投石をしているのには、実は理由がある。



 かつて日本の戦国時代、死亡率が高かった武器や戦術の1つが投石だ。決して、鉄砲、槍、刀、弓矢だけが戦国の武器でない。

 まずは投石、次いで弓矢、実は刀など接近戦はずっと後の戦闘行為で、しかも、高価な刀とちがい、石は無料というコスパ最高の武器だ!




 オレが無料で手に入る石を、バンバン投げまくったので、ゴブリンはかなり狩られたようだ。


 それを見て、業を煮やす者がいた。


 指揮をしていたゴブリンロードだ!


 ゴブリンロードは、

「このまま投石野郎を放置は出来ない」と判断し、蒼井の方へと移動を始めた。

 ゴブリンロードは、自らの手で蒼井を仕留めるつもりなのだ。


***


 投石を続けていたオレの元に、凄まじい勢いで棍棒が襲ってきた。

 咄嗟に交わすが、地面は土煙を盛大に上げている。


 そこには、成人男性の背丈があるゴブリンが牙を剥き出し、オレを睨んでいた。


 すると、別の方向から、ゴブリンリッパーがナイフを突き立ててきた。


 オレは左手の万年筆でナイフを受け流し、右手の万年筆で、こめかみに突き刺した。

 すると……

 バタリと、ゴブリンリッパーが倒れた。

―――即死だ。




 ゴブリンリッパーが倒された!


 ゴブリンロードの顔を見ると、そんな小さいことは、こいつには、どうでも良かったようだった。


 まさに、そんな表情だ。



「待たせたようだな」という、オレの言葉に反応するかのように、ゴブリンロードの棍棒が襲ってきた。


 棍棒は、凄まじい音を立て空を切る。

 続いて、振りおろし、土煙がまた舞上がった。


 だが、一発も当たらない。


 オレから言わせてもらうと、こんな、大振りの攻撃が当たるはずもなく、“体捌き”でなんなく避けられるぐらいのスピードでしかない。


 つまり、こいつはスローなのだ。




 オレは、一気に緊張感が抜けてしまった。


「一対一の戦闘では、魔物もこんなものか」


 しかし、オレは、一度も攻撃を仕掛けていない。倒さなくては、この戦闘は終わらないのだ。避けてばかりでは、倒せないなずなのに。


 だが、その瞬間は突然にやって来た。


 “ドォーン”と地面が砕けんばかり音を上げた。 


 次の瞬間、ゴブリンロードは口から血を流し、膝から崩れていた。


 そして、オレがゴブリンロードの背後にいたことに、ゴブリンどもは、不思議そうに驚いているようだ。


 オレは、苦しむゴブリンロードの顔面を、背後からの回し蹴りで叩き割ってとどめを刺した。


 すると、ゴブリンロードの顔面は破裂し、血みどろと化していた。


 ゴブリンロードが倒され、ゴブリン達は、青ざめ逃げ出しているようだ。


 これは、お互い想定外だった。




 ゴブリン達は、ゴブリンロードが狩られることなど考えもしていなかった。

 ゴブリンキングになり、この周辺の支配者になるはずのゴブリンロードが倒されるなんて考えもしなかったのだろう。




 シンジたち“牧場の戦士達”も襲ってきたゴブリンが、情けない姿をさらし、慌てふためき逃げ出すことに、驚きを隠せなかった。


 だが、オレは鬼神の如く、ゴブリンを追いかけ狩り続けた。


 ゴブリン達は、鬼神の如く追いかけて来る男に恐怖し、2度とこの牧場には手を出してはイケないと学習させられていた。




 そして、「キィー」というゴブリンの悲鳴が、また1つ聞こえた。

 ゴブリンが狩られたのである。

 しかし、それを良しとしない者が、ここに現れた。


 一体のゴブリンソードが、勇敢にも、このオレに立ち向かうようだ。


 ゴブリンソードが剣を上に挙げた瞬間、「ドカーン」という音と共に、ゴブリンソードの頭が、ダラリとぶら下がっていた。

 首が折れたのだ。


 今、何がゴブリンソードを襲ったのだろうか?


 実は、この技が、伝統派空手の最短で最速の拳、“刻み突き”だということを、誰も知る由もなかった。※1


 つまり、オレの拳が、ゴブリンソードの首をへし折ったのだ。




 異変に気付いたのか、町からは増援が駆け付けゴブリン達は、巣穴へと帰って行った。


 やはり、ゴブリンは頭が悪いのである。深夜に襲えば増援も直ぐに来ず、蒼井隼人も宿舎に帰っていたのだから。




 さて、おやっさんの牧場からは、幸いなことに、人も牛も被害は無かった。

 後で、シンジたちが牛舎へ行くと、牛達は震えて動けなかったようだ。


 そして、シンジは「朝まで牛のところにいる」と言っていたが、おやっさんと交代ということになった。


 結局は、皆、興奮状態で、全員で牛舎にいることにした。




 ということで、オレも彼らに付き合う事になり、今夜は、残念なことに、緑茶が飲めない。


 掛川茶の上級煎茶を、この世界の通販サイト“密林領域”から取り寄せたのに、残念だ!?



※1 刻み突きとは、前拳によるストレートパンチ。ボクシングの左ストレートより、剣道の面に近い足さばきになる。


 次回の空手は、D級ハンター。

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