最終回 バッサイ大
110.
バッサイ大
リードたち魔人の侵略から十五年の時が経過した。
あれ以降、魔人を見たものはいない。
そして、ここは港町にある便利雑貨店の“魔法使い アニーの店”。
看板には「魔法指南いたします!」と、書かれている。
「先生ッ!」と、アニーを呼んだのは、蒼井茜、14歳だ!
「先生、見てください。ファイヤーボールが打てるようになりました」
「よし、良い調子だわ。次は連打が出来るように、頑張りましょうね」
「はい、先生!」
アニーは、『この子は、なかなかセンスがある。私が預かって良かった』と思っていた。
「ふん、あの女とハヤトを結婚させたのは、やはり間違いよ!
結婚したら、早々にハンターを辞めるんですから。
そしたら、ハゲるわ、太るわ。昔の面影はまったく無しで!
娘は、一流のハンターにするわよ。私が」
ここは、ヤシアーの街のバー。
洒落たピアノの演奏が聞ける店だ。
引いているのはマスターのビリー。
あの戦闘で全身傷まみれになったが、手足は健在なので、母親仕込のピアノを披露している。
そして、母もヤシアーに呼び、3世帯住宅を買って、親孝行をしているようだ。
毒堀は、全身大火傷で長期に渡って入院していたのだが、ハンターは辞め、今では商売に専念している。
あの戦闘の英雄の毒堀が、経営しているスロープシティーの武器店も繁盛だ。
「いつかアルキメデス砲を復活させて、城ひとつ、焼き付くしたいものじゃのぉ。フラン?」
「ちょっと、お父さん! 請求書とか、こっちに来ないでしょうね?」
プリンスオブホワイトの街では!
“Sランクハンター ミサキのお化け屋敷”が繁盛とか? そうでないとか?
夏になると、出張サービスで各イベント会場等から要請が多数あるそうだ。
そこで、フランケンシュタイン役のタンクマンが、人気があるとかないとか。
それと、“西の英雄”のヤマモトは、「片腕でもハンターは出来る」と、弟子を育てるという意味で、ハンターを続けているようだ。
それによって、成長したハンターも多いと聞く。
そして、あの後、ハヤトは衛生兵に助けられ、生還を果たした。
その後、晴れて朱美と結婚しようとした際、問題が生じた。
役所に行くと、ハヤトの戸籍がないらしい。
「どういうことなんだ?」
「いえ、まだ、“生の世界”に戸籍が残っているようです。肉体が残っているのに、魂だけこちらに来てしまったようですね」
「そんなことがあるのか?」
「仕方が無いわね。まだまだ居候ね。ふふふ」
無論、この世界に呼んだのは、あの老賢者なのだろう。
そんなことがあったのだが、無事に結婚出来たのだ。
その後、ギルドマスターになって欲しい。
市長に立候補して欲しい。
うちの名誉会長に……と引っ張りだこだったが、今では、ギルド等でなく、喫茶店のマスターに落ち着いている。
しかし、中庭での空手道場は続けているようだ。
「基本の次は、形を行う」とハヤトが言うと、生徒は整列した。
「形の名前ッ」
そして、蒼井隼人は、一点の曇りのない声で言った。
「バッサイ、ダイッ」と。
おわり
バッサイ大:首里手を代表する形のひとつ。
沖縄では、“パッサイ”と発音。
本土の“バッサイ大”が、沖縄の“パッサイ小”で、本土の“松村バッサイ”が、沖縄では、“パッサイ大”と呼ばれている。
あとがきがあります。