109.蒼井隼人、死す!
109.
蒼井隼人、死す!
ここは日本のとある病院。
集中治療室に眠る男は、もう何ヶ月も目を覚ましていない。
その男の名前は、蒼井隼人だ!
感染症のため、誰も面会することすら許されない。
死ねば、お通やも葬式もなく、火葬場へ運ばれることになる。
そして、誰も彼もが、「彼も、ここ数日が峠だろう」と思っていたようだった。
***
重装歩兵は、いとも簡単にリードを捕まえることが出来た。
その事に、オレたちは驚いた。
火炎で簡単に近づくことが出来ない魔人相手に、まるで、何も無かったように、スーッと近づきリードを捉えた。
しかし、重装歩兵のプレートは、限界のようだ。
溶け始めている。
鉄が溶解する熱さなのだ。
中のハンターが、無事なわけはない。
しかし、オレは見たのだ。
この中には、誰も入っていない事を!
「魔法で操っているのか?」と、すれば誰が?
その時、追撃が加えられた!
これは、ヤマモトの意地なのだろう。
「超電磁な龍巻き」と、重装歩兵もリードも拘束したのだ。
最後のひと絞りした魔法だ。
「オレにやれと言うのだな。ヤマモトよ」
しかし、このままでは、重装歩兵のプレートが溶解していく。
やがて、拘束できなくなる。
それを見たヤマモトの部下の魔法使いは、
「い、今、すぐに、み、水で冷やしてやる」と言うと、重装歩兵に水をぶっ掛けた。
ミスター・タンクマンが、「やめんか、どアホ」と叫ぶ。
すると!
“ドカーーーン”
と、水蒸気爆発を起こした。
この爆発でヤマモトとミサキは通路の奥まで飛ばされた。
魔物や他のハンターたちは、壁に身体を強打して即死した。
オレも飛ばされた。
盛大に飛ばされた。
まさか、これで死ぬのか?
まだ、リードをボコしていない。
ヤシアーの街は?
朱美とあの店は、どうなる?
むぎゅうー!
しばらく、オレは気を失っていた様だ。
目が覚めると、まだ、最後の大広間にいた。
身体が痛い。
動かせる状態ではない。
特に両足は、かなりのダメージのようだ。
そして、この大広間は静かだった。
辺には何も動くものは無かった。
ハンターも魔人も。
後ろの壁には、壁に強打した魔物とハンターの死体が重なっていた。
何故、オレが助かったのか?
それは、横綱だ!
縮小化を解除し特大化した横綱が、オレたちをかばってくれたようだ。
だから、オレは横綱の腹の下にいる。
「よ、横綱?」と言うと、横綱は縮小化した。
オレの横には、丸焦げのビリーと毒堀の死体があった。
「……」
「横綱、すまなかった」と、言おうとした時、全身大火傷の横綱の身体から、光が上がって行くのを見た。
「あれは#老賢者__オールドワイズマン__#だ」
老賢者は、地下の大広間の天井をすり抜けて行った。
やはり賢者も来ていたのか。
すると、横綱はパタンと地面に伏せ、目を閉じた。
「オレ、だけ、なのか?」
オレは、もう一度、大広間を見渡した。
もし、リードか、ブラッドリーが生きていたら、誰も闘えない。
すると、ブラッドリーの死体を見つけた。
完全に死んでいた。
だが、リードの死体は見つからなかった。
オレの足も、ここらが限界だ。
もう、歩けない。
オレは倒れた。
倒れてしまった……
しかし、オレは、オレを待つ朱美のところへ帰りたい。
オレは帰りたいのだ。
だから、這いずりながら、衛生兵のいる広間へ戻ろうとしていた。
やがて、オレは意識を失った。
***
この病院では、一人の男が息を引き取った。
誰に看取られることなく、集中治療室で息を引き取ったのだ。
家族には、連絡だけ行われたようだ。
家族でも、感染症なので、遺体に触れることすら許されない。
顔を見ることすら許されないのだ。
「あの子は、朱美さんのところに、行ったのでしょうね?」
「せめて、あの世で結ばれてほしいわ……」と、言ったのは男の母と姉であった。
次回の空手家は、最終回。
次回は、最終回だ!