四月一日 丑三 弐
対象者がやってくるとされるある駅の中。金色に光る時計台。そこには多くの若い人々がそれぞれ誰かを待っていた。シーナもその内の一人だった。そこにレモンが到着する。
「遅い……」
無愛想な態度。レモンを置いて勝手に進んでいく。
思わぬ態度に驚いたのか遅れをとる。すぐに駆け足で彼女の隣で歩幅に合わせて進んだ。
「ごめんね。ちょっと服装で失敗しちゃって。そういやさ、服、お揃いだね」
「その服……選んだの、シーナ」
冷たく言い放つ。
二人の馬は合わないようだ。太陽のような明るさと月のような冷たさ。相対する二つのオーラが歩幅を合わせて歩いていく。
「ここで……待つ」
新幹線へと繋がる改札口。その前の通路は絶え間なく老若男女が交わっていく。人混みの中に紛れて存在感を消していく。
「ねぇ、ウチらって今は姉妹っていう関係でしょ。だったらさ、もっと仲良くしない」
仕方ない。やれやれという態度で口を動かす。人混みによる雑音がその言葉を消していた。
二人はお互いの片手を握った。
傍から見れば、仲良い姉妹に見える。
「わざわざ、こんなこと……」
ボソッと何かを言ったが、それも雑音が相殺していた。
改札口から多くの人が出入りをする。その様子を遠くから眺めていく。
シーナが急に動いていく。待ち合わせの場所に向かって進む。それに連れられてレモンが合わせて進んだ。
二人は人の往来に逆らいながら進んでいった。
レモンは急に歩き出したことに疑問に感じているのを足取りから読み取れた。しかし、すぐに四月一日丑三の姿を見つけたのだろう。納得したのかすぐに元通りの足取りとなる。
対象者は不審な足取りで前へ前へと歩いていく。
追うものと追われる者。互いに見知らぬ者同士のせいで、彼はそのことに気づいていない。
そのまま宝石店へと入っていった。
二人はシーナを先頭にその店を通り過ぎていった。
「ねぇ、なんで素通りしてくの。追わないの?」
「あそこ、場違いな……店。入ったら……怪しまれる」
二人はそのまま素通りして外へと出た。そこで二人の仕事は終わりだった。
ルキは変装した姿で二人に接触した。
すれ違い様に「よくやった。及第点だ」と声をかける。
この尾行はレモンが実践でどこまで戦えるのか見極めるものでもあったのだ。そのため、保険としてシーナを横につけていた。さらには、ルキは二人を尾行していた。
ルキの出した結果は及第点、合格だ。頭の中で、レモンに探偵の仕事をさせても大丈夫だという烙印を押した。
「さて、ここからは私の番だ」
宝石店へと入り対象者を捉える。彼にバレないよう、真っ先に宝石の詮索をして、ここに用があって来ている人を演じる。隙間に彼をカメラの中におさめる。
彼の購入した宝石。頭の中にもカメラの中にもそれがおさめられた。
宝石の購入。それを済んだらスタスタと店を出ていった。
「宝石の購入か。あの情報の現実味が帯びてきたな。そろそろフィナーレとなりそうだ」
宝石に用はなくなった。
だが、これ以上対象者を追うことはしなかった。
店を出る。そのまま、人の波に飲まれその場に溶け込んでいった。