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四月一日 丑三 壱

「ええ。分かりました。引き続きよろしくお願いします。期待してますわよ」


 そう言って、帰っていったのは依頼人の四月一日(わたぬき)火曜子(かよこ)。三十二歳。セレブリティな雰囲気が溢れ出ている。

 そんな彼女の夫は警備会社ロックスの代表取締役社長。浮気疑惑がかけられている人間である。

 警備会社ロックス──。日本人なら誰もが知っている警備会社だ。セキュリティ管理などを担当し、圧倒的な防御力で人々に安心を提供している。

 有名な会社のトップであるせいか、簡単には尻尾を掴ませてはくれない。

 ルキは二度、彼四月一日(わたぬき)丑三(うしみつ)を尾行し情報を得ようと嗅ぎ回った。しかし、二回とも余儀なく撤退するはめとなり決定的証拠は掴めていない。


「尾行するんですか。やっぱり警察御用達のここでも尾行とかするんですね」


「警察からの依頼といってもそんなにある訳ではないし、言ってしまえば無い方がいい。金よりも平和の方が大事だからな。やはり、尾行などの仕事は必要だ」


 レモンがここを訪れてから早一週間。三日間の探偵についての授業。その後は事務作業。ここに来て実際に探偵活動するのはこれが初めてとなる。気持ちの昂りが容易く想像できる。

 だからといって、仕事に支障をきたすのはどうか。

 真っ黒なフードつきの服。異様にレンズが大きい眼鏡。パーティ用の鼻。あまりにも尾行するには目立ちすぎる格好である。

 尾行では対象の相手にバレないように後ろをつけていく。バレてはいけない。もちろん、目立ってはいけない。変装するのはいいが、それで目立つのはよろしくない。


「早速行きましょう」


「その変装は流石に目立ちすぎる。本当に有名な探偵の助手だったのかい。そもそも、三日間の授業で教えたはずなのだが」


 仕事を遂行できるのか、急に心配になってきた。

 空回りする彼女に予備として用意していた服装を渡した。着替え室で着替えた彼女は、シンプルな白い服とジーンズ、ジャケット、これなら目立ちにくい。

 自信ありげに拳を握っている。

 本当に大丈夫なのだろうか。不安が募っていく。


「改めて確認するが、私達はその写真の男、四月一日丑三の後をつけ、不倫の決定的証拠をつかむ。だが、一番大切なことはバレないことだ。バレなければ次がある。バレたら終わりだ。ここまでは理解できているか」


 軽く頷く。

 それを見て話を続けることにした。


「分かっていると思うが、バレないように一定距離を保ちながら後ろをつける。そこで求められるのはエキストラ能力だ。周りに溶け込むことが大事だ。ここで一つ気をつけて貰いたいことがある」


 棚からケースに入っているジクゾーパズルを見せる。

 くねりと曲がった道の奥側には数人の男女がいる。青い空。白い雲。清々しい空気が広がっている。


「例えば対象がこの男の子だとしよう。その男を尾行する時、彼ばかりを注視してはならない。人間は、人の視線や殺気を敏感に感じやすい。遠くにいるからといって油断ならない」


「じゃあ、どうすればいいんですか?」


「背景を見るんだ。その男だけでなく青い空から曲がりくねった道まで全てをね。だからといって、その男がいないのなら話にならない。これができるかどうかは慣れていく以外他ならない」


 そこにあるパズルがどこか重々しいオーラを放つ。そのオーラが緊張をかきたたせる。レモンの顔から笑顔が消えた。


「それと今回、君の尾行にはシーナが同伴する。もし何か分からないことがあればシーナに聞いてくれ。それと、君とシーナは姉妹という設定で動く。頭に入れといてくれ」


 緊張のせいか動きがかたくなっている。このままでは支障をきたしてしまうので、「そんなに気負うことはない。肩を抜いていこう」と肩の力を抜かせた。

 小さな機械をレモンに持たせる。四角の極薄の物体。バッテリーのような形をしている。それはアンテナのようなものがついていて、そのアンテナはボールペンの形をしていた。


「なんですか。これは……」


「それは撮影機器だ。ポケットに入れられる小型タイプで、上に出ているボールペンの部分はカメラになっている。他人からはボールペンしか見えない。これがカメラ代わりだ。胸ポケットにでも入れておけばいい」


 ジャケットの胸ポケットにそれが入れられた。傍から見ればボールペンがポケットにささっているように見える。誰もそれがカメラとなっていることなど知らないだろう。

 その機械は最大丸二日もつ。渡す時に電源を入れたが、充電の問題は事足りている。

 レモンを見送る。

 緊張が残っているようで、ほんの少しぎこちないが、仕事に支障はないだろうと踏んでいる。

 ルキはレモンが見えなくなった途端、更衣室へと向かった。

 手元には選び抜かれた違和感のない服が一色揃っていた。

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