二人の探偵 伍
契約書を棚から取り出しデスクに置く。
そこに名前が書かれ印鑑が押される。これでレモンは正式に鬼灯探偵事務所の一人となった。
「早速、仲間達を紹介しよう。横にいるのは桃乃木紫夏。私の助手だ。この子のことはシーナと呼んであげてくれ」
小柄で中学生のように見える。物静かで大人しい雰囲気がある。黒に染まるワンピースが隙間風に揺れた。
「桃乃木……って、もしかして、あの?」
「ああ。あの警視正の娘だ。だからといって、畏まる必要はない。彼は彼、この子はこの子だ」
「そうですよね。よろしくね、シーナちゃん」
気軽に接そうとするレモンと少し遠ざかっていくシーナ。
二人の間には壁が感じられた。
「シーナは、まだ……認めて、ない……から」
細切れの小さな言葉。コミュニケーションをとることが嫌いな彼女はルキの後ろに隠れた。
作り出される気まずい雰囲気。
ただ、何事も感じてないようなレモンの笑顔がその雰囲気を相殺した。
「他に厄介者が二人いるが、今は仕事が忙しくこれないようだ。彼らがここに顔を出した時、その都度紹介しよう。今からは事務所の中について説明していく」
休憩室、控え室、御手洗場などの場所説明。
仕事についての説明。仕事の内容は、相談や不倫調査など一般的な探偵業務を行うが、ここでは警察からの難解事件解決を主に置いている。そのことを理解させた。
一通りのことは終わった。
「後は実際に慣れる他ない。来週から頼むよ。探偵見習いさん」
「精一杯頑張ります。今日はお先に失礼しまーす」
彼女はさっさと帰宅準備をして帰っていった。
嵐のような慌ただしさだった。
都会のような忙しない空気感が、今では田舎のようなゆったりとした空気感に変わった気がする。
夕焼け色の日差しがカーテン越しに射し込んでいた。