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二人の探偵 参

「あっ、さっき道案内してくれた人。気になって来てくれたんですか。ウチは、教えて貰ったのに道間違えてようやく到着です。情けないですよね。教えて貰ってるのに道に迷うとか」


 火事のことなど何も知らない彼女は何事もないように話しかけてきた。火事で大変な最中に、マイペースな口調を聞いてると調子が狂いそうだ。


「それどころじゃない。君の事務所大変なことになってるぞ」


「大変なこと? 今、事務所の前に沢山の人がいるからー。もしかして、新事務所の歓迎で集まった人々が多すぎてトラブルになってるとか」


 片腕を前に出して軽く指を鳴らした。なぜか片目を軽く閉じていた。

 彼女は軽やかな足取りで近づいてくる。

 あまりにもとんちんかんな返答と場違いな雰囲気にもう何も言い返せない。

 その雰囲気のまま事務所の前に来た。原型が崩れていくその様子。その状況を飲み込めず彼女はフリーズした。そしてすぐに、


「燃えとるがなっ!」


 目を見開いてオーバーなリアクションをとった。あまりの光景に、体が小刻みで揺れている。

 動揺を隠せていない。

 その場に流れ込む消防車の緊急音。その音でさえ心もとない。


「ま、ま、まだ間に合う。きっと、間に合うはず。お願い間に合って。無事でいて。神様っ」


 赤い機体から伸びるホース。そこから放たれる高圧力の水流が炎を消していく。鎮火する頃にはミントティー探偵事務所があった建物は無様な姿と成り果てていた。

 燃え尽きたそれを見ながら心の燃え尽きていく姿。ショックで灰にでもなりそうな様子である。


「なぜ。なぜなの。レモンを良く思わない輩が火をつけたの。きっとそう。誰なの。もしかして悪の三躍と呼ばれる輩の仕業……」


 ブツブツと呪文のようなものを唱える彼女を他所に集まった人々が散らばっていく。一部始終を見終えた彼らは疎らになっていった。


「しっかし、まあ。なんでこんなこと起きぃ」


「ヤカンの沸騰するような音がここら辺でずっと鳴り響いてたんや。もしかするとガスのつけ忘れやな」


 ある見物人の会話。

 その言葉に引っかかるものがあったようで。彼女は突然立ち上がりガタガタと歯を震わせた。


「あっ、やべぇ。ガスつけたまま出かけちゃった。はやく消さなきゃ。大丈夫かな。大丈夫だよね」


「いや、もう手遅れな気がするのだが」


 思わずツッコミを入れてしまった。

 ガスの消し忘れによる火災。きっとそうに違いない。その現実を受け止めきれないのか、彼女は動くことをやめた。

 虚しく残る建物が心を虚しくさせていった。

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