二人の探偵 弐
白金工務店と書かれた看板をつける建物。それが道を曲がる目印となる。大通りから中通りに向かうように曲がっていく。死角が多く中道の様子は分かりづらい。すぐそこから人が走ってくるなど想像してもいなかった。
死角となった場所から走ってくる人影。その影に気づかず曲がった。
ドン。
人と人との追突事故。倒れかける体。足に力を入れて何とか踏ん張る。一方で、目の前の女性は踏ん張れずに倒れていた。
「きゃっ! ご、ごめんなさい」
大きな眼鏡。水色と白の横ストライプの服。比較的細身な身体。見たところ若そうだ。
ぶつかった後、方向転換して壁際のコンクリートに衝突する。
「痛っ」
そして、再び派手に倒れた。
おっちょこちょいな姿を見ていて思わず手を差し伸ばし、起き上がる手伝いをしていた。そして、彼女は立ち上がる。
彼女はお礼を言って、慌ただしく去っていった。
その姿を見届けていたら、なぜかすぐに戻ってくる。
「すみませーん。ほんとにすみません」
「何でしょうか」
「ウチ、ここ、初めての土地で……。土地感がなくて教えて欲しい場所があるのですが……」
彼女は小さな声で「いいですか」と聞いてきた。反射的に「ああ、いいですよ」と軽く頷いた。
「最近この辺りで建設している建物知ってますか? まだ完成していないんですけど……。中華ソロロという店の向かい側にある建物なのですが」
その建物には一つピンと来るものがあった。
ミントティー私立探偵事務所──
近々、同じ同業者がこの町に事務所を構えることを耳にしていた。同じ探偵として、ライバル視していた事務所だ。
「確かミントティー探偵事務所では?」
「そうです。知っているんですか。ウチ、探偵なんです。前までは東京でまあまあ名のある探偵の助手やってたんですけど、ようやくここで起業することが出来たんですっ。それで、どこにありますっけ。そこは……」
女性の気迫におされながら淡々と目的地への行き方を教えていく。教え終えるとすぐさま女性は進んでいった。
「土地感覚えたらあの鬼灯探偵事務所にも行ってみよっ。ルキさんってどんな人なんだろう。気になるなぁ」
女性はそんな独り言を言いながら去っていく。
何か言うには遠すぎる。ルキは話す機会を失っていた。
嵐のような存在だった。たった数分のハプニング。それだけなのに、何時間か経ったように思えてくる。
どこか静寂に思えてくる町並みを歩いていく。
ふと寄り道することに決めた。路地を真っ直ぐ進む。時々曲がる。目的地に向かえば向かうほど騒々しい雰囲気を感じていった。
目的地につくと、そこには多くの人が慌てふためいていた。
中華ソロロの向かい側の建物。そこはミントティー探偵事務所である。凛々しくそびえているはずなのだが。
「やべぇぞ。このままじゃ火が」
真っ赤に燃える建物。ミントティー探偵事務所は炎の渦の中に閉じ込められていた。そこに威厳も何もない。
炎が揺らめく。
炎の熱気がまるで時空を歪ませるようだ。時間すら遅くなっていくみたいだ。消防車は未だにこない。サイレンの音すらない。
気持ちだけが焦り、行動はその場に置いたまま。何も出来ずに見ていることしかできなかった。