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最終話

「はあ? 人魚姫の、魂、って……」




「ほら、かの有名なる童話の最後において、人魚姫が王子様との恋に破れて、海の泡と成り果てるではありませんか? その時せっかく『海底の魔女』に与えられていた、本来人魚には持ち得ないはずだった、『人間の女性としての心』も、バラバラに砕け散ってしまったのですよ。そしてそれ以来、いくら人魚が生まれようが、現在提督の腕の中のおられる彼女のように、魂の無い空っぽさんばかりとなってしまっていたところ、代わりにわたくしたち軍艦擬人化少女たちが、人間様の忠実なるしもべとしての『制御装置』として、細かく砕けた人魚姫の魂の欠片を、それぞれ組み込まれることになったのでございます」




 な、なるほど。


 今では極当たり前に、軍艦擬人化『少女』とか、艦『む○』とか、言っているけど、その『女の子の部分』は、一体どこから調達してきたのか、長年不思議に思っていたんだ。


 ……まさか、普通の女の子を、サイボーグ的に改造するわけにも、いかないだろうし。


 そうか、そうか。


 今やショゴス化して、いくらでも女の子に変身できる軍艦の化身に、『恋する乙女』の代表格である『人魚姫』の魂を組み込めば、たとえそれが無数の破片の一つに過ぎなかろうが、十分女の子らしくなるのも当然だよな。


 ──うん、待てよ?


 軍艦擬人化少女たちが、異様に俺たち提督を慕ってくるのって、『文字通りに自分の身を投げ出してまで、王子様の愛を得ようとした』、人魚姫の魂を受け継いでいるからなのか?


 ……もしかし、『艦む○』って全員、先天的に、ヤンデレやメンヘラだったりして?


「それにしても、可愛い女の子と思っていたのが、実は化物で、ずっと化物と思っていたのが、可憐な人魚の女の子だったなんて、これほどまでの『倒錯的な恐怖』は無いだろうよ。──まったく、万博のスタッフのやつら、とんでもないシンボルマークを作ってくれたものだな」


 そのように俺が、心底うんざりしたように、大きくため息をついた、


 ──その刹那、であった。




「何をおっしゃっているのです? あのショゴスそのもののシンボルマークが暴き立てた『真の恐怖ホラー』は、そんな表層的なものだけではありませんよ?」




 …………はい?




「世界のすべてが醜悪なる肉塊に見える中にあって、たった一人だけ自分に寄り添ってくれていた幼くも美しき少女こそが、本当は正常かつ清浄なる世界の中における、唯一の醜悪なる肉塊の化身であったり、夢と希望を胸に魔法少女になってみたところ、実はそれはもはや人間では無く、『ゾンビ』になれ果てていただけであったりするなんて言う、一人の脚本家が書いたような『恐怖』なんて、あくまでも限定的なものに過ぎないのです」




 ──おいっ、いかにも具体的な例を挙げるのは、よせ! いろいろとマズいだろうが⁉




「しかし、今回の万博のシンボルマークのしでかしたことは、そのようなレベルでは済まないのです。あのマークを一目見た時、誰もが思うことでしょう。──これはまさしく、『化物』だと。するとどうなると思います? 何よりも常識的であるべきだった、我が国の威信を賭けた国際的イベントのシンボルマークが、この上もなく非常識極まりないことをまざまざと見せつけられることによって、これまでは平穏無事に暮らしていた大勢の『普通の人』たちの『常識的価値観』が、ものの見事に粉々に壊されてしまうことになったのです。その結果誰もが気がつくわけなのですよ、『自分たちの身の回りに当たり前に存在している人や物、これらは本当に、ただの人や物なのだろうか? 真の姿は、まさに万博のシンボルマークと同様に、ショゴスが化けているだけではないのか?』──と」




 ──‼




「い、いや、そんなもの、ただの『中二病的妄想』に過ぎないだろうが⁉ それこそ普通の常識的思考の持ち主である大多数の日本人が、そのような非常識な考えに囚われるものか!」




「はい、おっしゃる通りかと存じます。疑念はそれなりに抱かれるでしょうが、本気にして自らも異常な行動をとられたり、精神を病んだりなされるのは、ごく少数の例外的な方のみでしょう。──けれどもそれに対して、元々『中二病的妄想』の世界であったならば、どうでしょうね?」


「……何、だと?」




「まさしく、今回例に挙げた、わたくしのような軍艦擬人化少女や魔法少女やチート転生勇者のみならず、ありとあらゆる創作物に登場する、超常的力を有したキャラクターたちのことですよ。もはやそれがどんなに可憐な美少女であろうとも、物理的法則をねじ曲げるような不思議な力を有している限りは、ただの人間ではあり得ず、その本性は『ショゴス』以外の何物でも無いことが、今回判明してしまったわけなのです!」




 ちょ、ちょっと、それって⁉




「うふふふふ、どうです? アニメであろうがゲームであろうが『なろう系』Web小説であろうが、これからどのような創作物においても、そこに登場するキャラクターは、すべて醜悪なるクトゥルフ暗黒生物である、ショゴスに過ぎないのです。それなのに、あなたはもう心の底から、創作物の美少女を楽しめますか?」




「いやいや、そんなことそれこそ創作物の話だし、しかもすべての登場人物がショゴスであるなんて、一方的な『決めつけ』に過ぎないじゃないか⁉」




「おっしゃる通り、『決めつけ』ですが、それが何か?」


「そ、それが、何かって──」




「まったく、ちゃんとわたくしの話をお聞きになっていたのですか? たとえ創作物といえども、現実的な物理法則に則れば、軍艦擬人化少女や魔法少女やチート転生勇者なぞといった『超常的存在』なんて、ショゴス以外にはあり得ないのですよ? 反論なさりたかったら、量子論と集合的無意識論に則ったショゴス以外に、魔法等の超常現象を実現できる方法をお教えくださいな? ──うふふふふ、できっこないでしょう? 天才とまで言われたアニメ脚本家やゲーム脚本家やWeb作家の皆さんの全員の全員が、『どうせこんなものフィクションだから』と、何の根拠も無しに作品をでっち上げてきたに過ぎないのですから、すべてのフィクションの登場人物は、醜悪極まるショゴスに他ならないのだと断言されようとも、反論一つできやしないのですよ。──あ〜あ、困りましたねえ、これからどんな素晴らしい萌え系作品を楽しもうとしても、そこに登場している美少女は全員、街中に貼られた万博PR用ポスターの中でうごめいている、紅い肉塊に青い目玉が生えたショゴスそのものに過ぎないのですから、こんな恐怖はありませんよねえ。……まったく、本当に罪作りなことをしたものですわね、磯神万博の関係者の皆様ときたら」




 ……何……だっ……てえ……。


 確かに今回、俺はすべての超常的な存在の正体が、ショゴスであることを知った。


 それは何と、現実だけでは無く、すべての創作物においても同様であり、


 俺はそのことを、けして忘れることなぞできず、


 これからはいかなるフィクションであろうとも、心の底から楽しむことなんて、未来永劫できなくなったと言うのか?




 何と言うことだ。




 これは、軍艦擬人化少女や魔法少女やチート転生勇者等が登場してくる、アニメやゲームやWeb小説の愛好家にとっては、もはや『呪い』そのものではないか⁉




「ふふふ、ようやくご理解いただけたようですね。──では、一緒に帰りましょう、わたくしたちの磯神万博記念公園太陽の塔前鎮守府へ♡」


 そう言い放つや、俺のほうへと、華奢な右手を差し伸べる、こんごう嬢。




 ──本当は、醜悪極まる、暗黒生物の、『触手』を。




 けれども、もう俺には、逃れることなぞ、できなかったのだ。


 もはや世界の真実を知ってしまった今となっては、彼女たちの鎮守府以外に、居場所なぞありはしないのである。




 ……それに何よりも、俺はすでに、目の前の少女の──あのポスターに描かれた怪物そっくりの──青い瞳に、すっかり魅入られてしまっていたのだから。

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