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恋愛もの短編集

黒い服の彼女

Twitterで「お題bot【milk】」様(@milkmilk_odai)の「小説書きさんへの色お題(3つの言葉全て使って小説)」からお題を拝借いたしました。

ありがとうございます。


お題:「あなたの服」「欲しい」「黒」

 彼女はいつも黒い服を着ている。


 今と違い中学生の頃は太っていて、黒を着れば痩せて見えると言われたのが染みついているそうだ。

 今はすっかりスレンダーで、いや、むしろ痩せすぎなくらいで、体にぴったり沿ったニットのワンピースがよく似合っている。


 だから「黒が似合うよ、素敵だね」と褒めたら俺の水色のワイシャツをそっとつまんで「欲しい」と小さな声で言った。



「あなたの服、みたいな、明るい色の服、欲しい」


 俺は瞠目した。


 確かに「昔から染みついたクセのようなもの」と彼女がいうのが言い訳なことはわかっている。

 学生時代ずっといじめられていたという彼女は、社会人になった今でも人と話すのが苦手だ。目立つことも苦手だ。目立ちにくい(と彼女が思っている)黒の服は、だからきっと彼女にとっては鎧のようなものなのだろう。自分を怖い世間から遠ざけるための、鎧。

 その鎧の中に可愛い笑顔が、傷つきやすいけれどたまらなく優しい心が隠れていることを俺は知っている。


 だから「明るい色の服が欲しい」、その一言にどれほどの決心が必要なのかわかるだろうか?

 俺は柄にもなく感動してしまっていた。



「うーん、水色かあ……」


 だというのにうっかり口をついて出たのはそんな言葉だった。やばい、失敗した。

 俺の言葉に彼女はショックを隠せないでいる。


 自己主張が苦手なせいでたくさん傷ついてきた彼女が絞り出した勇気を否定するような言い方をしてしまった。俺にはもっと我儘言って、といつも伝えていたから頑張ってくれたんだよね。

 違うんだ、水色を着てほしくないわけじゃないんだ。

 言い方を間違えた。ごめん。


 だから俺は言いなおす。



「水色も似合いそうだけど絶対白の方が似合う。だから俺のために一回だけ着てくれる? 白い服も」


「白? あなたが白がいいなら勿論――」

「いいや、君の希望が最優先。だからもちろん水色も着てほしいんだけど、白も絶対着てほしいんだ。一回だけでいい」


 そっと彼女の手を取った。意味がわかっていなさそうな彼女の耳に口を寄せて小さくささやいた。


「わかってる? 着てほしいの、純白のドレスなんだけど」


 そう言いながら彼女の手に指輪の箱を握らせる。彼女の目がみるみる大きく丸くなっていくのも、かわいい。




 続ける言葉は間違えないように、ストレートに。



 ただ愛を乞うだけ。

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