花魁になる前に、私を身請けして下さるんですか?
第7回アイリスNEOファンタジー小説用に書いた小説です(*'ω'*)
既に書き終わっているので、
コンスタントに土曜日2話、日曜日2話ずつ投稿します(^^♪
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「あらあら、まぁまぁ···」
この妓楼「天竺牡丹」の楼主である辰男からの言葉を聞き、自分は驚嘆した。
自分と辰男は、座敷の上で向かい合うようにして互いに正座をしていた。
「いや、こちら側としてはだな···お前さんを手放すのは惜しい訳だが···」
目の前にいる辰男は、藍色の着物姿で腕を組む。彼は楼主として何もおかしい所はないが―――顔が、”狸”そのものだった。
一方、自分は人間ですよ?ちゃんとした、紛れもない人間です。
「うちの馴染みの、鬼神様と、富塚稲荷の稲荷神様が、お前さんが花魁になる前に身請けしたいってんだ。無下にできるはずもねぇ―――うちをご贔屓にしている神様達だからな」
自分―――朝雲は、彼等の顔を思い出す。
赤い髪の鬼神、正一郎。
金の髪のお稲荷さん、富塚。
彼等は幾度となく会ったことがあり、親交だってある。
「水揚げ前に身請けったぁ、すっごいことなんだぞ?―――お前さん、わかってるか?吉原や島原、そしてこの神原でもありえないことだからな」
呆然としている朝雲に対し、辰男はまるで自分のことのように困った顔をしている。
そう――――ここは、”特別な”遊郭。
神様や妖が集う”神原”。
”贄”とも呼称される遊女達が、ありがたいことに神様のお相手をする場所だ。
(神様に身請け···)
5歳の頃にこの「天竺牡丹」に奉納された朝雲は、ぼんやりと考える。
身請けを申し出てきてくれたのは、2人。どちらも朝雲は馴染みがある訳だが···。
「···私は、どちらの神様に見請けされるんですか?」
「そーなんだよ!それでこっちは困り果ててんだ!どっちも馴染み深いし、店側が選ぶことはしたくねぇんだ!」
「はぁ···でもそれじゃ···困っちゃうんじゃありませんか?」
「あー!本当、お前さんは源氏名通りに「雲」みたいにふわふわした口の聞き方しかしねぇな!名付けたのは俺だがな!」
(んー、そんなこと言っても、これが私の性格ですしねぇ~)
辰男の手前、朝雲は言わなかった。
朝雲と源氏名を名付けられる前から、いつもほわほわとしていると、母や使用人に怒られたものだ。
朝雲という源氏名関係なく、これが自分の性格なのだろう。
「だから朝雲!お前さんが、どちらに身請けされるか、決めてくれっ!」
びしりと指さしをされ、朝雲は目を丸めた。
「あ、あら···?まぁまぁ···?」
「お前さんが選んだってんなら、どっちかは仕方ねぇって諦めるだろ!!うちはどっちかを選んだってことにしたくねぇ!あの神様お2人は、お前さんに惚れてやがるからな!」
朝雲は当惑する。
あの2人が―――?正一郎も、富塚も、姉女郎の明け里の馴染み客だが···?
(私が···選ぶ?どちらかを~···?)
朝雲は、本気でどうして良いかわからなかった。
生まれてこの方、自分に選択権を与えられたことがなかった。
神原に奉納された時も、振袖新造になった時も、明け里花魁の下についたことも。
全部―――他人が決めたレールの上に乗っかっていただけだ。
『嫌いだ』
朝雲は、ある人物のことを思い出し、傷ついた。
心臓の中にガラスの破片が入っているかのように、鋭い痛みに、眉を吊り上げる。
(どうして、あの人のことなんて···)
「お前さんが考えて、決めるんだぞ!いいなっ!」
「は、はい。···困りましたねぇ~」
「困るなっ!贅沢なんだぞっ!」
通常、花魁になる前に新造が身請けされるなんてありえない。
(···あらあらまぁまぁ···困ったなぁ~···)
朝雲は、身請けをしてくれる神様のことと―――ある人物のことを思い出し、本気で困り果てた。
これまでの人生で色々あった。
まさか花魁になる前、身請け話が出るとは思っていなかった―――あの時には、全く。
主人公・朝雲は、すごくほわほわした主人公です。