12企んでいることがわからない
エミールは私の実家に行き、リディアは仕立て屋と宝飾店に行ったので、部屋には今私とフィルしかいない。
私は雑貨屋に持って行く魔道具を整理しながら考え事をしていた。
私はギルベルトと関わりをあまり持ったことはないのに。
そんなに私の魔力が重要? 魔力だけで選ばれるのは正直嫌なんだけれど。
もうちょっと性格とか外見がとかないだろうか。
「性格、そこまでよくないだろう」
ミルカが、呆れた様子で私の耳元で呟く。
うるさいわね。
私は性格悪くないと思っているんだけれど、ミルカ的にはそうではないらしい。
「私としては、このまま予定通りいってくれれば女神様に怒られなくて済むしー。万々歳なんだけどなー」
あーもう、ミルカの楽しそうな声が本当に癪に障る。
ミルカの言う通りなら、ギルベルトは私を婚約者に指名しておきながら、婚約はなかったことになって私がなぜか断罪だかされるわけよね。
ていうか、断罪ってなんなのよ。
いったい私が何をするって言うのよ。
おかしいじゃないの。
魔道具の整理を終わらせ、長椅子に腰かけて少しでも心を落ち着かせようとお茶を飲んでいると、着替えたフィルが歩み寄ってきて言った。
「見て!」
と言い、彼はくるっと一回転して見せる。
焦げ茶色の、幅広のズボンからふさふさの尻尾が生えている。
茶色と白の縞模様の長袖はゆったりとしている。
獣人の服って基本ゆったり目なのだろうか?
フィルは目を輝かせて、
「にあう?」
と言った。
私は笑顔で頷き、
「えぇ、似合うわ」
と答える。
するとフィルは嬉しそうにまた一回転する。
尻尾がゆらゆらと揺れていることから、嬉しさがあふれ出ていることがわかる。
この二週間ほどでわかったことは、フィルは尻尾や耳で感情を表す、と言うことだった。
嬉しいときは尻尾が揺れるし、悲しいときは耳が垂れ下がる。
わかりやすくていい。
フィルは私の隣に腰かけると、不思議そうな顔をして私を見つめた。
「シュテフィ、怒ってる?」
怒っている……ように見えるのね。
フィルに気を使われたくはないし、説明したところでこのもやもやは伝わると思えなかった。
私は笑顔で首を振り、
「大丈夫」
と彼に伝わりそうな言葉を選んで言った。
彼は不思議そうな顔のまま私を見ている。
私はリディアにもらった辞書を開き、言葉を調べる。
目的の言葉を見つけ、私はたどたどしく獣人の言葉で言った。
『怒ってないよ。私は大丈夫』
するとフィルは笑顔で頷いた。
「シュテフィ、笑ってるのがいい」
笑っているのがいい、か。
そうよね。それはわかってはいるのだけれど。
正直気に入らないことが起きているのであまり笑ってもいられない。
ギルベルトは本気で私を選ぶのだろうか?
王位を継ぐために?
私を選ぶつもりならもっと早く根回しをするものじゃないかしら?
「お前、王子の誘いをことごとく断って来ただろう」
呆れた声でミルカが言う。
確かにそうだけれど。
何、あれが根回しだったというの?
……声をかけられたのは覚えているけれど、興味なかったからなんて声をかけられたのかひとかけらも思い出せない。
まさか断っても私に話しかけてきたのは嫌がらせではなくて、意図があってのことだったの?
王家ならとっくに花嫁候補がいてそれぞれの家庭に根回ししているものだと思ったけれど。
違うの?
でも魔力の強さはある程度成長してからじゃないとわからないものね。
必ず遺伝するわけでもないし。
強い魔力を持つ親から強い魔力を持つ子供が生まれやすいのは確かだけれど、必ずとは言えないものね。
だからって私じゃなくてもいいでしょうに。
考えれば考えるほど納得できない。
「何の為に家を出たと思ってるのよ」
忌々しく呟き、お茶を飲む。
とりあえずドレスの用意と、宝飾品の用意。
いくらかかるのか頭の中で計算し、思わずため息が出る。
こんな風にお金のことを気にして生活してこなかった私は、家を出ると決めて初めていろんなものの値段を知った。
今まで値段を見て買い物なんてしてこなかったので、所持金で何が買えるのか考えなくてはいけない、というのはとても新鮮だった。
家にいる方がよっぽど楽だけれど、家にいたら悲惨な未来が待っている。
そんな未来はごめんだと思って家を出たのに、これでは意味がないじゃない。
でも……
私はミルカに心の中で語りかけた。
ミルカには、ギルベルトが言っていた私が置かれている状況ってどういう意味か分かるの?
「お前が予定外なことするから他の奴まで予定外のことやり始めて……正直わかんない」
はっきりとミルカは答える。
じゃあ、ギルベルトの今回の行動は予定外って事?
「お前が予定外のことを始めたから、他のやつの予定も変わり書き換えられ始めてはいる。だからあいつの行動自体は予定通りだけれど、あいつの言っていた内容には予定外のことが含まれている」
……予定外の事って何よ?
そう問いかけても、ミルカは答えない。
何よ、婚約だとか、断罪だとかぺらぺら喋った癖に、なんで今さら黙るのよ。
私が心の中でそう思うと、ミルカは口笛なんて吹き始める。
あぁ、もう、腹が立つ態度。
だいたい私の不機嫌の原因の一つは貴方なんだからね。
わかってるの?
「私のせいにするな」
ミルカの声はとても不満そうだった。
リディアの手配で、後日仕立て屋と宝飾屋が家に来ることになった。
それと、実家から戻ってきたエミールが険しい顔をして私に向かって言った。
「アムレート様が帰国されるらしい」
「え?」
今年で二十歳になる一番上の兄、アムレートはフルス公国に留学中だ。
行き来するにも数日かかるのだけれど……学校はどうしたのだろうか?
長期休みの時期でもないし。
「帰国って……一時帰国ではなくて?」
問いかけると、エミールは首を傾げた。
「詳しくは聞かなかったけれど……フルス公国で何かあったのかもしれない」
そしてエミールは視線を下へと向ける。
「問題がないならいいけれど……気になるよな」
「そうね」
ギルベルトの企みと言い、アムレート兄様の急な帰国といい、わけがわからない。
いったい何が起きているのだろうか?
嫌な予感しかしない。
「ならさっさと結婚しちゃえよー」
私の肩に座り、重い空気にそぐわない明るい声音で言うミルカを私は思わず手で思い切り払いのけた。




