王子様との出会い
パーティー会場である庭園から人の話す声が聞こえてくる。
ルイスが言っていた通り既に招待客が集まっているようだ。
入り口に置かれた薔薇のアーチの下で会場を覗き込む。
一番初めに目に入ったのは、招待客と思われる男性と談笑する恰幅のいい中年男性の姿。ケビン・ハイスバイグ公爵――わたしの父だ。
お母様は……少し離れた場所で数人の女性とお話ししている姿が見える。
わたしに気づいたお父様と目が合った。
彼は話していた男性に一礼した後、大股でこちらに駆け寄って来たかと思えばそのまま抱きついてくる。
「レミリア……!! 気分が優れなくて伏せっていたと聞いたのだが、起きて大丈夫なのか?」
「お、お父様……苦しいですわ」
ぎゅうぎゅうに抱きすくめられ、顔が胸元に押しつぶされそうだ。
息苦しさに押し返すと、すぐに腕の力をゆるめられる。
「お、おお……すまない。それで何か心を曇らせるような事があったのか? 何でも話してみなさい」
「え、えーっと……それは……」
ミームとの事が頭に浮かんだけれど、その事をお父様にそのまま言うのは躊躇われた。お父様に話したら即刻ミームを屋敷から追い出しそうだし……
ミームが辞めたら、次は誰がわたしの側仕えとなるのだろう。屋敷にはたくさんの使用人がいるけど、女性の使用人は異様に少ない。
少ないというより、わたしが把握している侍女はミームと……マーシャだけ?
「レミリア?」
「な、何でもありませんわ。お父様」
「そうか? それならばいいのだか……」
色々と気になる事があるし、ミームの件はお父様よりルイスに相談した方がよさそうだ。
「今日はレミリアが主役だ。皆様に挨拶しよう」
お父様に促され会場に足を踏み入れると、一人の少年がこちらにやってくるのが見えた。
「彼が、第二王子のクライズ様だ。ご挨拶を」
そうお父様に耳打ちされ、背中を押される。
「初めまして、レミリア様」
彼と目が合った瞬間、頭の中で何かが弾けた。
艶やかな黒髪から覗く、紫色の瞳――
見つめられ、頭の芯が痺れるような感覚にくらくらする。
心臓が跳ね上がり、息は詰まり、言葉が出てこない。
何て美しい人なの……
初めて会った王子様に、わたしはすっかり心を奪われてしまっていた。