合わない視線
支度を終え廊下に出ると、侍従長のルイスが傍で控えていた。
「お嬢様。お客様は既に会場にお集まりです、お急ぎ下さい。……ミーム」
ルイスはミームに何事か目配せするように視線を向けた。
同時に、ミームはわたしの背中にそっと手を添えるように触れる。
「ミーム?」
何事かと顔を上げ、ミームを見る。彼女はどことなく緊張したような固い表情でルイスを見ていた。
「私はここで。会場までご一緒出来なくて申し訳ありません」
彼女はわたしに視線を向ける事なく言うと、促すように背中を押してくる。
一人で会場まで行けということ?
「え、ええ……それはいいけど……」
ミームはわたしの答えを聞くと、無言で背中に添えていた手を離し、わたしに一瞥もくれないままルイスがいる方向とは逆方向の廊下を歩いて行ってしまう。
目を合わせようともしない彼女の態度に、ズキンと胸の奥が痛む。
やっぱり、気のせいじゃない。どこかよそよそしいような、距離がある態度。
ふと――ミームの後ろ姿を凝視しているルイスの表情に目がとまる。
「ルイス?」
声を掛けると、ルイスはハッとしたような表情でこちらに向き直る。
「お嬢様、失礼いたしました。ミームには私からよく言って聞かせますので」
「え……?」
わたしは何も言っていないはずだけど……
ルイスはわたしに一礼し「行ってらっしゃいませ」と言うと、そのままミームを追いかけるように廊下を歩いていってしまう。
彼はミームの様子変わってしまった理由について、何か知っているのだろうか。
わたしは二人が立ち去った後も、しばらく廊下で立ち尽くしていた。