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六畳一間の魔王城  作者: ヨコスガ
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我は滅びぬ!(泣)

ドンドンドンドン!


さっきからずっと我が城の門扉(笑)をダイナミックにノックし続けている者がいるのである。いや、とぼけるのは魔王らしくないのである。


天敵。そう、齢千年を超える超人無敵のイケメン魔王の我をして恐れおののく敵が今、鉄(笑)の扉一枚を隔てて我が生命を刈り取らんとけたたましく呪詛をまき散らしているのだ―――「ヤチン、ヤチン」と!


その名は大家。見た目は白髪が混じった茶色の長髪を束ねた、恰幅の良い中年の女―――いわゆるババア・・・


そう、外見はどこにでもいるババアであるにもかかわらず、月末になると般若のごとくおどろおどろしい顔へと変貌し、今そこでわめいているように家賃の支払いという契約の履行を催促してくるのである。我は今更ながら恐ろしい悪魔と契約を交わしてしまったと後悔の念に堪えない。


いや、はじめは違ったのだ。とうの昔に賞味期限の切れた過去の「遺物」にすぎぬくせに需要のない「ババアの微笑み」を浮かべながら「うちはどこよりも家賃が安いのが自慢さね」とか聞いてもいないことをのたまうババアは、ババアであったがまがりなりにも人の心を持ち合わせた「人間」であったはずだ。


しかしこの城に住み始めて数か月、家賃を滞納しただけで合鍵の存在を忘れるほどに怒り狂い扉を延々とたたき続け、思い出したように「ヤチン、ヤチン」と喚き散らす彼女はもはや街で見かける人間とは一線を画す存在へと変わり果てたのである。


ああ、我は何という化け物と契約を交わしてしまったのか。彼女の顔を思い出すだけで指の震えが止まらない。息が荒くなり、ついには呼吸が苦しくなる。こんなことは魔王城にいたときには考えられなかった。この世にはいまだ我の生命を脅かす存在がいるとは。


そうこうしているうちに、扉をたたく音は鳴りを潜め、次いで階段を下っていく音だけが耳に届いた。


「ふぅ。やっといったのである。今日も我は生き抜いた。」(ピンポーン!)「ひぃ!?」


まさか、階段の音はブラフ!本当はまだ扉の前にたたずみ我がのこのこと扉を開けるのを待っていたのであるか!?


「マオーさーん。いるんでしょう?開けてください」


ふぅ。どうやら大家ではないらしい。というか聞き覚えがある。この声は確か・・・


玄関の扉を開けつつ訪問者を確認してみると見知った男が姿を現した。


「コットーです。お久しぶりですね、マオーさん」


そう、この男は骨董商の店主、コットーである。なぜ骨董商などと面識があるのかというと、何を隠そう我の玉座を提供してくれたのがこの目の前のコットーなのである。彼は玉座の取引からはじまり今日まで様々な取引をしてきたのだ。ちなみに骨董商の店主の名がコットーというのが安直という指摘は今更なのである。


「また家賃滞納して大家さんに怒られてたんですかい?」


「否、我があんなババアなどに後れを取るわけがあるまい。」


まだちょっと手が震えているのは気のせいである。


「それより今日は何用であるか?貴様も暇つぶしに来たのでもあるまい」


「まぁそう急かさないでください。今日はマオーさんに依頼があってこうしてきたわけです。」


「依頼?珍しいであるな。だが今日は表には出ないのである。」


当たり前である。何が楽しくてくそ勇者を祭る日に外に出ねばならんのだ。我は被害者であるぞ?っていうか勇者の顔自体見たことないし・・・


「まぁそういわないでください、クソニート。あなただけが頼りなのですよ」


「え?なに?」


何かとてつもない暴言を自然に会話に織り交ぜてきたから一瞬貶められたと気づかなかった。


「まぁそういわないでください、くそn・・・「ハイチョットマッタアアアアアァ!」


「え?なんで?なんで言い直せるの?なんでそういうこと言うの?」


300年前の魔王城でもそんな直接的に言ってきた奴いなかったよ?


「というわけであなたに依頼したいことというのは・・・」


我が混乱しているうちに矢継ぎ早に言葉を重ねていく。もはや会話に追いつくことが不可能なほどにおいていかれ我は要所要所で「うん。うん。」とただ彼が紡いだ言葉に相槌を打つことしかできなかった。


「というわけなのでよろしく頼みましたよ」


「うん。」


「ではわたしはこれで」


「うん。」


そういってかれは我の部屋から出ていった―――と思ったら


「ではあとはごゆっくり」


外にいるであろう何者かに一言告げて・・・(ピンポーン!)


「あっあっあっあっあっあ―――――――――――――





気づいたら勇者の祭りは終わっていて、心にぽっかりと穴が開いた我は、もう一度眠った。




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