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GOD JOB!!

作者: 宇奈式玲

 橋げたの下、饐えた毛布にくるまりながら、猫のペコは飢えている。

「神様。もしあなたが本当にいるのなら、どうか私にミルクを、食べるものをお与え下さい。出来れば舌の上でとろけるほど柔らかな若鶏がいい。無理だというならマグロの缶詰でも構いません。それにこんな雨の日に凍えることもなく、心のやすらぐ安全な住処を。暖かな家族も一緒だとなおいい。ついでに願うなら、私を家から追い出した人間に罰を」

彼のいたずらが過ぎたのは確かだが、このまま死んでしまうほどの罪を犯したとまでは神は思わない。全部とはいかないが望みを叶えてやることにした。

 

 ところは変わって、ここは天界。神様達の住まう世界を、ペコの想像した神〈ペコ神〉が奔走している。


 ペコ神が向かったのは、雲海に突き出た波止場だ。そこには大抵、誰かかしら釣り糸を垂れているのを知っているからだ。こんな凪いだ日には予想通り、麦わら帽子を被った、小太りの神がいた。

「どうです?釣れていますか?」

考え事をしているのか返事がない。仕方がないのでクーラーボックスをカリカリ触ってみた。小太りの神は黙ったまま、こちらを見つめる。手を止め、改めて尋ね直した。

「これは失礼をした。もし良ければ、一匹分けてはもらえないだろうか。地上の同胞に届けてやりたいのだ」

「うるさい奴だな。僕が今釣っているのは魚じゃない。人の願いごとだ。糸に引っ掛かったやつだけを叶えてやることにしているのだ。わかったら、あっちへ行ってしまえ」

 そう言って小太りが屈んだので期待をしたが、飛んできたのは石ころだった。

 考えてみれば、「普通」の神がこの時間に油を売っているわけはないのだ。こんなやつに頼ったのが間違いだった。クーラーボックスを思い切り蹴飛ばしてやった。

 待て、こら――。かつて韋駄天で鳴らしたペコ神にかなうわけもなく、小太りはすぐ息を切らして、後ろでへたりこんでいる。ざまあみろ、とは思ったものの、自分にも醜くついた腹の肉を見て、ふうと溜息をついた。


 それから方々を駆けまわり、果ては役所にまで掛け合ってみたものの依頼の品は手に入らない。だが神の威信にかけても、後には引けぬ。最後の手段を使うことにした。


 重い足取りでやってきたのは、ピンクで一面塗り固められた家の前。ここには顔見知りの女神が住んでいる。

 カリカリとノックすると豊満な体つきをした女神が姿を現した。風呂上がりなのか髪は濡れたままだ。なんとタイミングの悪い。

 「あら久しぶり。何か特別なお願い?」

 彼女が彼に巻きつくと、濡れた髪が顔に当って気持ちが悪い。それにニンニクの香りがキツい。思わず吐き気がする。それでもここは我慢。女神に体中を撫でまわされたり、軽く耳を噛まれたり。なされるがままの小一時間を、ペコ神はひたすら耐えた。

 いつのまに飽きたのか、気付けば彼女はソファにでれっと横たわり、テレビを見ている。やれやれ、これではどっちか猫神か分らない。

 次はこちらの順番とばかりに、キッチンの棚を爪と牙で思い切りガリガリガリガリ。

「はいはい。もうわかったから。今出すから、それ止めて頂戴」

 労苦を考えれば、安すぎる対価な気もするが今はいい。ぽんぽんと缶の蓋に前足を置くと、女神はプルタブを開けてくれた。それを袋で首からぶら下げ、あとはこぼさぬよう慎重に窓の外に出た。

 間に合うと良いのだが…。急ぎ足で町外れへ。神は苦しむペコの姿を頭に浮かべ、雲の切れ目から缶詰を落とした。


 さて、再び橋げたの下。雨上がりの夕闇の中でペコはもう息も絶え絶えだった。どこかから人の足音が聞こえる。彼は、にゃあ、とか細く鳴くのがやっとだったが、

「ああ良かった。でもまだ間に合うかしら。猫ちゃん、水とサバ缶よ」


 田んぼの泥の中、蛙のゲコは今絶体絶命である。とんでもなく巨大なトラクターが迫っているが、畦には白いサギがいる。

 ゲコはひたすら神に祈った。そのときである。晴れた空からピンクの長い舌が、するすると…。


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