一話
初めてまともに小説を書いたので、温かい目で読んでくださると幸いです。
よろしくお願いします。
突然こんなことを言うのもおかしいけど、私は今の日常に渇望感を感じている。毎日同じような授業を受けて、勉強して、ちょっとだけ居眠りして怒られて…、部活が終わったら家に帰ってご飯を食べて寝る。そんな毎日がずっと続いていく。そう、学生の間は。けど大人になったって、学生と同じように、ただ毎日同じような仕事をして上司に怒られての繰り返しの日々だ。漫画やアニメみたいにゾンビや魔物がいきなり出てきて世界崩壊!…ってならないだけ、まだ平和という日常はマシなのだろうけど。でもやはり何かがつまらない。虚無感と言うのだろうか、日常に刺激が足りないと言うのだろうか。みんなもそんな風に感じたことはないだろうか。まぁ、グチグチとここで何言っても世界はそう簡単に変わらないものだから、刺激的な日々を求めるのは諦めるしかないのだけれども。私は盛大にため息を吐き、目の前にある教室のドアを開けた。
「おは~」
「あ、ゆらみじゃーん。おはよ~。今日は珍しく早いね」
ひらひらと手を振り、眠そうな顔をしながら私の挨拶に答えてくれたのは、親友の佳苗だ。彼女とはかれこれ十一年の付き合いで、小学校から現在の高校二年生までずっと一緒にいる友人である。
「何故か今日は目覚めが良くて早く起きちゃったんだよね。そういう佳苗はなんだか眠そうだし、珍しく早く来た私よりも更に早く来ているし…なんかあったの?」
そう言うと、佳苗は眠そうにしていた目を音が出るんじゃないかと言わんばかりに見開き、勢いよく私の両腕を掴んで思いっきり揺さぶってきた。
「そのことなんだけど、ちょっと話聞いてよ‼」
「う、うん、分かったから揺さぶるのやめ……ぅぷ、酔ってきた…」
「うわぁぁぁぁ!? ごめん、ゆらみ‼」
…佳苗の力は思っている以上に強い。彼女本人には言ったことがないけど、私の中では佳苗はゴリラだ。それも特大級の。まぁ、佳苗は父親の影響で小さい頃からボクシングをやっているから、力の強さには納得するけれども、服を着ている時だと彼女は華奢な少女にしか本当に見えない。ある意味、着痩せをするのだ。だから大体の初対面の人は騙される。誰も佳苗のような少女がゴリラ級の力を持っているとは最初は思わない。けど、彼女のスキンシップという名の災害に遭った人は全員、「やべぇ、アイツそこら辺の男よりも力あるわ…」と若干恐怖を抱くのである。でも、佳苗の人柄はとても良く、人望も厚い。おまけに料理もできるし、頭も良いし、何より可愛い。ゴリラのような力以外は完璧な女子だ。だから彼女には私と違って友人と呼べる人が沢山いるのだろう。少しだけ、ほんの少しだけ、佳苗に対して劣等感を抱いているのは、ここだけの話。
佳苗から解放された私は、勢いよく揺さぶられた影響で若干酔っていた。酔いを和らげるために深呼吸を何回もして、落ち着いてからもう一度佳苗を見ると、申し訳なさそうな顔をしていたので、大丈夫だよ、と笑って言った。
「ほんと、ごめん! すぐ暴走しちゃう癖、直さなくちゃなぁ…」
「別に良いよ。佳苗のそういうところ、今に始まったことじゃないでしょ」
「いや、まぁ…うん、そうだけど」
「んで? なんかあったの?」
「そーーーーなのさ‼」
叱られた子犬のように萎縮していた姿は何処へ行ったのやら。佳苗はすぐさま表情を変え、マシンガンのように愚痴を次々と言ってきた。こうなってしまっては、いくら私でも彼女を止めることができない。まったく、おかしな親友を持ったものだ。けど、
「…嫌いじゃないよ、佳苗のこと」
「ん? なんか言った?」
「いや、何でもないですよー」
「そう? …んでさ‼」
佳苗にはどうやら私の独り言は聞こえてなかったらしく、特に気に留めることもなく再度マシンガントークをし始めた。私はホッと一安心し、佳苗の愚痴が終わるまで話を聞き流しながら、テキトーに相槌を打っていた。
「—つまり、佳苗は『生徒会長から朝四時に電話がかかってきて、会長の手伝いを強要されてしまい寝不足』…ってことでオッケー?」
「その通りでございます! アタシは会計の役職なのに、なんで会長の仕事まで強制的に手伝わされなくちゃならないのさー!?」
大体の話の内容は聞き流してはいたものの、重要な部分は逃さずに聞いていたので、佳苗の言いたいことは理解した。確かに、朝四時にいきなり電話をかけて自分の仕事を手伝えと強要するのは、常識としてどうなのだろうか。佳苗も「ほんと非常識!」と頬を膨らませながら怒っている。
「ま、とにかく…何事にも頑張り給えよ。生徒会関連に対しては、私はどうもできん」
「ちょっ!? ゆらみってば、ドライすぎだよー‼」
佳苗がギャーギャーと言いながらポカポカと私の肩を叩いてきたので、労いの意味を込めて頭を撫でてやったら、幸せそうな顔をして「やっぱ、ゆらみの撫で方好きだな~」と抱き着いてきた。思わず軽くはたいて佳苗に軽く怒られてしまったけれど、内心嬉しくて照れ隠しでやってしまっただなんて、口が裂けても本人には言えない。
「…あ、チャイム鳴ったよ。佳苗、席に座ろう」
「もっと撫でてー…。労ってー…」
「はいはい。後でね」
始業のチャイムが学校中に鳴り響き、みんな一斉に席に座り始める。佳苗を引き剥がしながら窓側にある自分の席に座った後、担任が教室に入ってきて、朝のHRが始まった。私は担任の話をろくに聞かずに、ただボーっと外の景色を眺めていた。
「—あぁ、空が綺麗だな」
その日の朝は、清々しいほど雲一つもない空だった。
*◦*
朝から時間は流れ、放課後になった。あれだけ快晴だった空が、今では厚い雨雲に覆われて激しく雨を打ち響かせている。今日は部活がOFFなため、私は授業が終わったら真っすぐ帰る予定だったが、この天候ではすぐには帰れない。きちんと天気予報を見ていなかったため、傘も持ってきていない。こんなことになるんだったら、折り畳み傘をリュックの中に入れておけばよかった、なんて後悔の念が渦巻くが、自業自得なので大人しく雨が弱まるまで校舎内で待つことにした。
「…ふう、読み終わっちゃった」
雨が弱まるまでの間、何もすることがなかった私は、暇つぶしに図書室で本を読んでいたが、先ほど読み終えてしまった。小さく欠伸をしながら時計を見やると、もう十七時を過ぎていた。
「早く帰らないと、夕飯の準備が遅れちゃうよね…」
私の両親はどちらも忙しく、夕飯の支度をするのは私がやることになっている。私がいなければ家庭が機能しないと言っても過言ではない。忙しい両親のために私が一部の家事を行う、それが私の役目だ。
取り合えず、いつでも帰れるように身支度を整えたが、やはり天候は良くならない。図書室にいた司書の人にダメ元で、予備の傘はありますか、と聞いてみたが、やはり予備は無かったらしく、ごめんなさいね、と頭を下げられた。
「どうしよう…」
司書の人に聞いた後、私は職員室に行って同じことを先生方に聞いてみたが、来るのが一歩遅かったらしく、残ってあった傘は全て他の人に渡してしまった、と言われた。最後の頼みの綱が切れてしまった私は、途方に暮れていた。
「雨、弱まんないじゃん…」
流石に私でも、雨と風が吹き荒れるこの天候には顔が引きつる。この中、傘を差さずに三十分も家まで歩くのは、地獄だ。確実に風邪を引いてしまう。中々な鬼畜ゲーだ。しかし、早く帰らないと、夕飯の準備が遅くなってしまう。私は数分間ずっと悩み続けた結果、意を決して、昇降口へと向かった。
*◦*
「やっぱ、この中帰るのキツイ…!」
昇降口から外へ出た後、全速力で帰り道を走っていたが、家まで半分の距離も進んでいないのにも関わらず、服はびしょ濡れ、髪も雨で濡れてしまっていて毛先から絶え間なく水が滴っている。おまけに雨風で体温が下がっていっているせいか、とても寒い。本当に最悪だ。けど早く帰らなければならない。雨による服の不快感を我慢しながら、自然豊かな山道を、ただひたすら走り抜けた。
「ハァ…ハァ…。あともう少しで家に着く…!」
やっと家まで残り五百メートルといったところまで走ってきた。辺りは田んぼだらけではあるが、まばらに家が建っている。必死に走っていたからなのか、雨と風が弱まっていたことに気が付かなかった。
少し走った後、近所では有名な大きな屋敷が見えた。ここまで来れば家まですぐだ。私の家は、田舎の風景にはそぐわない、あの大きな洋風の屋敷があるところを曲がって通らなければならないところにある。
「そこを曲がれば家だ…!」
—家が近い、その油断からか、死角である曲がり角から車が来ていたことに気が付くことができなかった。
「……!?」
走るスピードを緩めることなく道路へ出てしまった私は、元の道に引き返すこともできず、突然のことで体が強張ってしまい、迫ってくる車をただ見ることしかできなかった。
「…ぁ、」
轢かれる、そう思い、死を覚悟した。
…が、
「—大丈夫か!?」
寸でのところで、同じ学校の制服を着た見知らぬ男子に腕を引かれ、命を助けられた。