エクストラ①!
あれ?俺寝てたのか?
まだ夢の中のような、頭の中がボッーとしている、さっきまで座っていたのに気が付けば俺は捕まえたエルフから少し離れた場所の真っ暗な通路の中で立ってた。
色んな事が一度にありすぎて疲れていたのかもしれない、縛っていたエルフの縄が解けている、ちょっと焦った、どうして解けているんだ、俺は解いた覚えがないぞ、仕方ない、もう一度捕まえて・・・
「なんだ、まだ何か用があるのか、さっきまで死にそうな顔していたではないか」
・・・え?何か用って、え?顔?どういう事?この人とまともに話した事なんてない、なにかがおかしい
、だが何故か目の前のエルフは友好的な声色だ、とりあえず話を合わせてみる。
「あ、うんそうなんだ、用と言うかなんというか」
言葉に詰まる、何を話題にしようか、必死に頭を回転させる、どうにかして出てきた話題はここから町までの地図とか持っていないか?とかだ、というかこれしか思い浮かばない。
初対面の人に会話に困った時の話題作りとかのスキルは持っていない、自分は結構人見知りしやすいタイプなのかもしれないな。
「あー、お願いがあるんだけどもいいかな、ここから一番近い町ってどこだろうか、実は迷子で困ってたんだ」
「ん?先ほど教えたほずだが・・・どうした?若いのにもう頭の方がやられているのか?」
・・・何この人、素で煽ってくるのか、いや、その前になにかおかしい事を聞いた気がする、教えたってなんだ?
今初めて聞いた事を俺は前にも聞いたらしい、何が何やらわからない。
「あ、あぁ・・・もう一度聞いときたくてさ、忘れないように」
「本当にどうした?まぁいい、ここから西へ10日ほど歩けば大きな川がある、そこを川沿いに進めば大きな橋が出て、その先を3日ほど進めば町だ、まぁ特殊な移動術を使えばの話だがな」
え?移動術?てかそんなに掛かるのかよ、どうしよう、この世界に2週間も滞在する気はないぞ、さっさと帰って溜まりに溜まったゲームとかマンガとかの消化ノルマが沢山あるんだ。
町までかなりの距離があるらしい、カバンの中のライトを取り出し付けてみる、そこまで使った覚えはないが光量がかなり少なく感じる、いや、明らかに少ない、電池の不良品かなと思う。
このライトではいつ電池が切れるかわからない、ライトから放たれる光は点滅を繰り返し電池残量がないことを知らせていた。
「予備の電池あったかな・・・いや持ってきてないな」
朝荷物の中に入れた覚えはない、さすがにこの状況は予想していなかった、ライトを消しカバンの中に放り込む、今度から電池も持って行こうと心に刻んだ。
「その調子だと明りもなくここから2週間以上も歩いて町まで行くのか・・・・・・大変だなぁ・・・頑張れよ」
手をひらひら動かし、先に進もうとするエルフさん、『大変だな』の部分が彼女のこれまでの道のりの険しさを物語っているような言い方だった。
「ちょっ!待って!・・・あの、付いて行ってもいいですか!」
まずい、非常にまずい、ここでこの人と別れたしまったら完全に終わる・・・
地図もなく方角もある程度しかわからず、明りもいつ切れるかわからないこの状態で一人で行動するのは完全に悪手すぎて、ヤバいを通り越して自殺行為だ。
この人に付いて行って確実に町まで行き、救援を呼ぶのが確実だろう、もうこれしかない、超低姿勢で頼んでみる。
「なんだいきなり、私は忙しい、子供のお守りをするほど暇ではないからな」
「そこをなんとかお願いしますよぉ・・・邪魔とかしませんから!逆にお手伝いします!!」
・・・プライドはライトが消えかけた時から捨てた、今は全身全力で超低姿勢でこの人に付いて行って町まで行く!
何度か同じやり取りを繰り返し、断られてもなお、頭を下げお願いする、この気持ちはさながら契約を取る前のサラリーマンのような心境だろう。
「・・・ふむ、そこまで言うのなら、仕方ない、荷物持ちとして使ってやろう」
「あざまっす!アネキ!!頑張って荷物の方を持たせて頂きやす!!!」
「アネキはやめろ、私はエリスだ、そういえば貴様の名前を聞いていなかったな」
「はい!自分はナガトって言います!!長いに人って書いてナガトです!」
多分、言っている意味はわからないだろうが、一応説明する、誠心誠意対応するのが荷物持ちの矜持って奴だろう、昔のテレビでやってた受け売りだけども。
「?言っている事はわからないがナガトか、普通だな」
「はい!普通っす!超普通っす!これからよろしくおねしゃす!!」
頭を下げる角度は45度、カンペキなお辞儀を繰り出し心の中で『決まったな』と思った。
今まで下げた頭の中でも1位2位を争うほどのお辞儀、それほどの必死さが出ている。
「あ、あぁよろしく頼む、それじゃ行くぞ」
うん、若干引いているようだ、俺のカンペキなお辞儀に恐れをなしたか・・・ふっ・・・
バカな事を考えつつも自分の荷物とエリスの荷物を持つ、彼女の荷物は中々重かった。
「最下層に用があるんでしたっけ、今までのあの分厚い扉ってどうやって開けたんすか?」
ちょっとだけ興味がある、あの扉ってちょっとやそっとの爆発じゃビクともしない、もちろん押して開けるとかそんな簡単な事も無理なレベルだ。
「ああ、それはだな、これを使ったのだ」
手に持つのは先ほど俺を攻撃してきたであろう弓状の武器、だが弓にしては小さい、至る所に宝石が散りばめられ結構カッコいい、戦闘中は暗くて杖か弓か確認出来なかったがこう見ると完全に弓だ。
「これは古代武器と言ってな、古の大戦時に使われたと言う武器だ、自身の込める魔力量に比例して威力が倍増する私の種族にぴったりな物なのだ!そしてこれで魔力を高め分厚い壁を撃ち抜いたのだ!折りたためる事も出来るぞ!」
エリスの持つ武器はこっちの世界で作られる形状ではない武器だった、MAランクで言う所のCランク位かな、対物系の威力だから間違いないだろう、結構いい物持ってる、ついでに俺の生徒用MAはEランク、非殺傷の対人専用武器だ。
豊満な胸をブルンブルン揺らして武器を持ち、自慢するエリスさん、その満足そうな顔をこちらに向けてくる、この人。案外自慢とか好きなのかもしれないな、覚えておこう。
「へぇー凄いっすね!さすがエリスさん!どこで手に入れたんすか!!やっぱりダンジョンとか遺跡とかっすかね?」
「なんだ?気になるのか、これはな高難易度ダンジョンの最奥、幾人もの有名な冒険者が挑戦し敗退して諦める中、私は何度も挑戦し勝ち取った物だ!」
歩きながら会話する、このエルフさん自分の武器自慢出来て嬉しそうだ、これまで自慢話を聞いてくれる仲間がいなかったのだろう、寂しい奴め。
下に行くにつれて病院で嗅ぐ薬品のような匂いとカビの匂いが混ざり合ったような悪臭がしてきた、
この匂いはかなり苦手だ。
「なんか進むにつれて匂いが凄いっすね」
「あぁ、嗅いだことがない匂いだ、鼻が曲がりそうになってくる・・・」
匂いと共に周囲の雰囲気が変わってきた、進むにつれて広かった通路は細く、部屋の数は少なくなっていき、嫌な感覚と言うかなんというか、関わってはならないようなそんな感じがしてくる。
幾度も降りた階段はもう最下層、もう鼻を抑え口で呼吸するくらいの悪臭、さっさとここから出て早く町へ行きたい。
「この先に何があるんすかね、早めにここから出たいっす・・・」
「あぁ、昔ここにエクストラキューブを持っていた男が消えたと言う場所でな、私はそれを探しているのだ」
「へぇーそうなんすかーそれってどんな物なんすかね、自分も一緒に探しますよ!」
俺はお宝とか、そんな物は興味ない、というかもし見つけてそれを元の世界に持ち帰っても学校に提出しなければならない、黙って持ち帰ってそれがバレた場合、良くて退学、最悪逮捕と聞いた事がある、勿論その世界で売った場合も同じくだ。
もしそのお宝が危険な物やとても貴重で珍しい物だった場合に壊したり紛失したりはともかく、
こっち側の世界で悪用したりすると、政治的な問題に発展するとかなんとか・・・
自分としてはとても責任なんか取れないだろうし、そんな厄介な問題になるのならば見つけてもスルーする。
「あぁ、エメラルドのような緑に光る石・・・いや、鉱石だと聞いたことがある、私はそれが必要でな、その為にここまで来たのだ、勿論、それ以外にも興味はあるがな、貴様はどうなのだ?」
エリスはこっちの顔色を窺ってくる、そりゃそうだ、さっき会ったばかりの自分に横取りされる可能性もある、だから正直に話、信用を勝ち取る方が有用だろう。
「うーん、自分は見つけてもちょっと特殊な事情で持って帰られないんすよー、興味はあるんすけどねー」
「うん?どんな事情があるんだ?言ってみろ」
彼女は自分の『持って帰られない』理由に大変興味があるようだ、口調がちょっとキツくなった、やはりと言うか、あまり信用はされていないようだ、仕方ないね。
「えーっと、自分、地球の日本人なんすよー聞いたことあると思うんすけども、基本的に王都とかでサラリーマン・・・こっちの色んな仕事する人みたいな感じの職業なんすけど、そのサラリーマンとかそこそこ見かけると思うんすよー、そんで自分はそっちの世界の学生なので、まぁそれが事情って言うかなんと言うか・・・」
「ほう、地球人だったのか、道理で奇妙な服だと思った、確かこっち側の物を地球に持って行く場合にはもの凄く面倒な手続きがあると前に酒場で地球人に聞いたことがあるぞ」
俺の話を聞いた瞬間、彼女は納得したような顔をした、多少理解してくれたようだ。
まぁ仕方ないね、日本は特にそういうことに厳しいらしい、逆に外国の一部は緩くて犯罪の温床になってるとかなんとか。
地球から異世界に持っていく分は結構緩くて、その逆は厳しいのは何かおかしいよなって前に思った事があったような無かったような・・・
一応カバンの中から生徒手帳を取り出し、エリスに渡す。
1ページ目を開けた瞬間、彼女はある程度信用してくれたようだ、さすがジャパニーズ製のホログラムマーク!浮き出る立体の日本国旗が今は頼もしい限りだ。
「そういう事なので、お宝とか持って帰っても学生身分だから自分の物には出来ないし、持って帰ったのがバレた場合は重罪なので自分には意味がないものなんすよー」
結構残念ではあるが、その分こっち側に来る時の装備関連や保証に関しては充実しすぎている。
ケガをした場合は健康保険的なのが全額支払われ、慰問金も少々、学生ならば単位などは必要最低限の免除が受けられると言う環境だ、それが目的でケガをする奴がいたりするほどに。
「あぁ大体貴様の状況が理解出来た、何かしらのトラブルで帰られないから私に付いてきて確実に町まで行こうと言うのだろう?
、宝に興味ないのならそれでいい、ほら、これを返すぞ」
「うっす!それじゃぁいきましょうかー、目的地はもうすぐっすよー多分、早く用事済ませてこの臭い所から出ましょうぜー」
ずっーと鼻を掴みながら片手で手帳を戻し歩き出す、彼女の目的地は近そうだ。