表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/96

- 8 -

「だからさ、少しでも望みがあるなら、もったいないよ、奏子」

 少しだけ切ない目をして、早紀が言った。

 そっか。

 確かにそんな早紀からしてみれば、まだ何もしていない私がぐじぐじいうのは、はがゆいだろうなあ。

 そうだよ。私はまだ、アルに好きだって言ってない。


 アルが誰を好きでも、私の気持ちを伝えないことには、私の中では終わらないんだ。野宮君だって言ってた。振られるとわかっていても、って。アルに好きだって言えたら、私も野宮君みたいに笑えるようになるだろうか。

 私に好きって言われたら、アルもさぞ、複雑だろうけど。


「そうだね……そうだよね。ありがとう、早紀」

 私が笑うと、早紀もにっこりと微笑んだ。

「どういたしまして。でも、私、怒ってるんだからね」

「へ?」

 つん、と、早紀が私のまぶたをつついた。

「言ったでしょ。もう、一人で泣かないで、って」

 あ。

「だ、だって、夕べはもう遅かったし、自分でもまだよく気持ちの整理が……」

「そんなこと、気にしなくていいの」

 早紀は、わざとらしく頬を膨らませる。

「今度一人で泣いたら、三日は絶交するからね」

 真面目な顔の早紀に、ぷ、と笑みが漏れる。

「それは……嫌だわ。わかった。何をおいても、今度は早紀のところに来る。思い切り、泣くために」

「当然よ」

 すまして紅茶を飲む早紀に、私は我慢できずに声を上げて笑った。

 

  ☆


 そういえば。

 その夜。首までお風呂につかりながら、私はアルのことを考えていた。

 少しは元気になったかな。

 手のひらでバスオイルの小さな粒を転がす。揺れる、透明なピンク。それにあわせて広がるバラの香り。それは、アルと飲んだあのドリンクを連想させた。

 夕べのアル。具合が悪くてあんな態度だったって可能性がないわけでもない。そういう時って、不必要にイライラしちゃうものだし。都合のいい考え方かな。でも、実際店にいる時からあの様子はただ事じゃなかった。

 うーん……

 ぶくぶくとお風呂につかって考える。


 今まであんまり考えないようにしてきたけど、アルってホントに、吸血鬼……なんだよね。と、すれば。

 アルの栄養補給って、やっぱり……

 手のひらの中でつぶれるバスオイル。浴室一杯に広がる、バラの香り。

 今の私が、アルにしてあげられることと言ったら。


「お姉、いつまで入っているつもり? 早く出てよー」

ドアの向こうから響いた潤子の声に、我に返る。

「すぐ、出る」

 大声で答えてから、もう一度、今考えたことを反芻する。

 よし。

 大きく息を吸い込むと、私は勢いよく立ち上がった。


  ☆


 思い立ったが吉日。準備をして家を出たときにはもう、夜の十一時を過ぎていた。髪をアップにしようとしたら、まとめるのが意外に難しかったのよね。

 こんな時間にでかけるなんて言ったら怒られるに決まってるから、私は裏口からこっそりと家を抜け出した。


 肌をかするような雨が降り出していた。持ってきた傘を開きもしないで両手で握り締めたまま、自分自身に問いかけてみる。

 私、実はすごくばかなことしているのかもしれない。

 でも、今の私にはこれしか思いつかないから。アルのためになるかも、と思いついたら、いてもたってもいられなかった。だって、こうしてる間も、アルは苦しんでいるのかもしれないんだもの。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ