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  ☆


「本当ならここからがデートの醍醐味なんだけど。まあ、奏子にはまだ早いよな」

 食事の後、着替えたいと言った私を、アルは自分の部屋に連れてきた。アルの部屋、なんてのがあるんだ、このホテル。しかも、最上階のスィート。

 私は、テーブルの上に置いてあった自分の荷物をとりあげながら振り向く。

「子供扱いしないでよ」

「おや? まるで誘っているみたいだよ、その台詞」

「何ばかなこと言ってんの。勘違いしないで」

 先に着替え終えたアルと入れ違いに、ベッドルームへと向かう。今度アルが着てきたのは、さっきのとはまた別のカジュアルなシャツだった。

「もったいない。せっかくきれいなのに」

 すれ違いざま、アルが私のスカートのすそにさらりと触れた。一瞬鼓動が早くなったことを悟られないように、平静を装う。

 確かに、こんなきれいな格好も捨てがたいけれど。

 シンデレラタイムは、もうおしまい。


「こんな格好で帰ったら、親がひっくり返っちゃうわよ」

「奏子、着替えるのは、こっち」

 と、渡されたのは有名なブティックの大きな紙袋。

「それなら、ご両親もびっくりしないだろ?」

 入っていたのはカットソーとミニ丈のスカート。ご丁寧に靴までそろえて。

「ちょっ……こんなにもらえないわよ」

 結局、今日は一日全部アルのおごりで過ごしてしまったし。

「いいんだよ。言ったろ? 俺のわがままなんだから。それとも」

 近づいてきたアルが、私の顔をのぞき込む。

「他の女達みたいに、少し差し出してみる?」

 なにを、とは言わないけれど。思いっきりベーと舌を出して。

「冗談。そこらへんの女と一緒にしないでよ」

 笑うアルに背を向けて、今度は私がベッドルームに入る。


 広い部屋の中央に大きなベッドがひとつ。その上には、アルが脱ぎ散らかした服が散乱していた。

 もう、しわになっちゃうじゃない。男の人って、だめだなあ。

 それを一通りハンガーにかけてから、自分の着替えも済ませた。頭は……無理だな。これはしょうがない、このまま家に帰ろう。とりあえず、飾られていたパールだけをとって。

 用意されていた服は、私の体型にぴったりだった。というか、すごく、私好みの服。これも柴田さんが用意してくれたのかな。結局ちゃんとした挨拶ができなかったのが、少し残念。


「似合うよ」

 着替えて出てくると、窓辺で外を見てたアルが振り返った。この部屋の窓も、外に向かう面は全てガラス張りになっている。ガラスに映りこむ照明を落とした室内の向こうに見えるのは、果てしない闇だけ。

 吸い込まれそうな闇をバックにしたアルに、少しだけ見とれる。

 この人、と、私は、一日一緒にいたんだ。


「奏子?」

 ついぼんやりとしていた私は、呼ばれて、は、と我に返った。何気なさを装ってアルの隣に立つと、視線を落とす。そこには、さっきの部屋と同じように、一面に光がちりばめられていた。

「ありがとう、アル」

「ん?」

 素直に言うのは、少し照れくさいけれど。

「今日は、まるでお姫様になったみたいで、本当に楽しかった。こんな夢みたいな気分、初めてよ。もう、怒ってないから、私」

「喜んでもらえて嬉しいよ」

 なにより、今日の思い出が全部、私のためのものだってわかったから。

 たとえ、それが今日一日だけの思い出だったとしても。魔法使いの魔法はもうすぐ切れて、私はまた、ただの女子高生に戻る。


「私、ちょっとがんばってみるね」

「何を」

「アルの大切な人を……リシィのことを思い出せるように」

「………………え?」


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