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気がつくと、すぐ目の前に心配そうに見つめる男がいた。
「気が付いた?」
答えようとして、激しく咳き込む。
のどがからからにかわいていた。咳き込むたびに、胸にわずかな痛みが走って思わず体を丸める。手足の先が凍ったように寒い。
ひとしきり咳き込んでから気が付くと、私はベッドの中にいた。
私、なんでここにいるんだっけ。
頭が混乱している。私は、横たわったままもう一度目を閉じた。
そうだ。店にいて、あの人と目が合ったとたん、急に体が冷たくなって……
「奏子」
心配そうな顔でその人……アルが、私を見下ろしている。
その姿に違和感を覚えるけれど、何がおかしいのかもわからないまま、その疑問はひそやかに霧散していった。
「アル……」
「水、飲む?」
うなずくと、手を添えて体を起こしてくれる。アルの渡してくれたコップの水を一杯飲んで、ようやく落ち着いた。
「まだどこか痛いところ、ある?」
「ううん。……ありがとう」
ほう、と一つ息を吐く。
なんだか、長い夢を見ていた気がする。切ないような……幸せのような……どんな、夢だっけ。
あらためて見回すと、そこはシンプルな部屋だった。ベッドサイドの小さいライトがやわらかいオレンジの光を放っている。薄暗い部屋の中で目に入ったのはカーテンのかかった窓。
雰囲気からして、前に行った館ではないみたい。
「ここは……」
「俺の部屋。悪かったな。いきなりだったから、とっさにかばえなかった」
ほっとした表情を浮かべて、アルがコップを受け取ると私をベッドへと戻す。
「さっきの……お客さんね?」
「ああ。弱い使い魔がとりついていた。何か手を打ってくるとは思ってたけど、こんなに早くくるとは思わなかった」
「それも、叔父さんが?」
アルは、何も言わなかった。ただその瞳の色で、肯定されたことがわかる。
本当に、私は狙われているんだ。
他人事のように、まだぼんやりとしている頭で考える。
「あれは、単なる警告だよ。俺とユーキがいる前で奏子をどうこうできるとは、向こうも思ってないだろうからね」
「警告って……」
「俺から手をひけ。もしくは、俺に、奏子から手をひけ、って。両方かな」
「どうして……跡取りだからって、そこまでする?」
そりゃあ、大事な跡取りに変な虫がついたらまずいって気持ちはわからないでもないけど。
古い家柄だとか血筋だとかって、めんどくさいわね。まあ、吸血鬼って、イメージ的にプライド高そうだし、大事なお坊ちゃまにたかが人間なんて……って、ことなのかしら。
返答を期待しない問いだったけれど、アルからは静かな言葉が落ちてきた。
「俺が、最も濃い血の直系を継ぐ、最後の一人だから」
そう言われても意味がわからなくて、私は黙ったままその瞳をみつめ返す。
「もう吸血鬼の一族は、そのほとんどが薄い血のものになってしまった。それでは、長たちは生きていけない」
ますます話がわからなくなってきた。相槌をうつこともできなくて、瞳だけで続きを促す。
「長たちが長く生きていくにはね、濃い血が必要なんだ。強い力を保つには、それだけの代償を必要とする。そのために彼らは、人間の血だけでなくより濃い血を命の糧としなくてはならない」
「え、だってそれって……」
まだ頭がうまく働かない。だからアルの言っていることがよくわからない。だって、今の話を素直に解釈したら……
「だから、俺はどうしても長たちにとって必要だし、俺の血を継ぐ者も、あの人たちにとっては欠かすことができないんだ」
自嘲気味な微笑みでアルが言った。
「な、にそれ……」




