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早紀は、有無を言わせず私をずるずる引っ張っていった。
「あの、外に貼ってある求人広告を見たんですけど」
「ああ、バイトね。二人ともそうなのかな?」
「あ、私は」
「はいっ、そうです」
私に口をはさむ隙を与えず、早紀が言った。
「では、二人にお願いしようかな」
「え、すぐ決めちゃっていいんですか?」
「うん。人手がなくて困っていたんだ」
カウンターから出てきたマスターは、柔らかい笑みを浮かべて言った。
「私はここのマスターで高森と言います。よろしく、かわいいお嬢さん方」
か……かわいいって……
さらりと美形から発された聞きなれない単語に二人であんぐりと口を開けてしまう。けれど、早紀の方が先に立ち直った。
「林早紀です。こっちは乃木奏子で、二人とも同じ高校二年生です。よろしくお願いいたします」
「高……森?」
あれ? 日本人?
あらためてまじまじとそのマスターを見てみる。私の視線に気づいたマスターは、大人びた笑顔を返してきた。私はあわてて視線をそらす。
違う……のかな。
そうだよね。今朝もありえないって思ったじゃない。だいたい、あの夢の通りだとしたら、この二人、吸血鬼ってことよ? この昼日中に、馬鹿げすぎている。確かに夕べの二人に似ているような気もするけど、細かいところまで覚えているわけじゃないし……
もしかして、これって予知夢ってやつ?
「詳しい話は裏でしましょう。悠希、ここ頼むな」
「僕は店番じゃないぞ」
……ユーキ?
「さ、どうぞ。こちらへ」
カウンターの奥にあった扉を開けながら、極上の微笑みでそのマスターが言った。
☆
「カウンターにいた人も、店員さんなんですか?」
カウンターの奥にあった扉をあけると、そこは小さな部屋だった。左手にドア、奥には二階へと続くらしい階段が見える。部屋の真ん中にあったテーブルに向かい合って座ると、早紀が聞いた。
「いや、あれはあとで紹介するけど、俺のいとこだよ。今までバイトがいなかったから、手伝ってもらってたんだ。二人とも、家近いんだね」
…………いとこ。
「はい。歩いて十分くらいのところです」
「ちょっと夜が遅くなるけれど、大丈夫?」
「近いし、危ない道はないから大丈夫です」
いくらか砕けた話し方になったマスターと早紀のやり取りを見ながら、私はひっそりと混乱していた。そんな私のことは放っておいて、書類を見ながら、二人でバイトの話が進んでいく。
「では、あなたが乃木奏子さんだね」
急に名前を呼ばれて、身構える。