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「だから、アルの相手は直系に近いものでないとだめだし、ましてや精霊なんて、ね」
「精霊って、さっきのアルの恋人って言ってた彼女のこと?」
「んー……そう、だね」
なぜか、歯切れ悪くユーキが答えた。
長たちに反対されて。それでどうしたんだろう。素直に別れちゃったんだろうか。それとも私が生まれかわりってことは。
「まさか……その人、長たちに殺されちゃったの?」
私の台詞を聞いた瞬間、二人はそれぞれの顔に苦笑を浮かべた。
「いや、彼女が亡くなったのは、単なる寿命だよ。精霊を殺したなんて公になったら、すべての精霊を敵に回すからね。そんなうかつなこと、長はしないさ。すくなくとも、簡単にばれるような手口ではね」
……笑って言っている割に、その内容って笑えないと思うんだけど。公にならなければいいってこと?
「それが約百年前の話。それからずっと、僕らはリシィの生まれ変わりを探してきたんだ」
「なんで、それが私だなんて思うの?」
「うん、まあ本当のことを言っちゃうと、かなりあてずっぽうなんだけどね」
しゃらっと言い放ったユーキに、ぽかんと口が開く。
「は?」
「説明するのは難しいけれど、僕たちは魂の軌跡を追ってきたんだ。同じ吸血鬼やオーラの強い人間ならわかりやすいんだけど、精霊って存在自体が希薄だから、魂の色もそりゃあ薄くって。その跡をたどるのは大変だったよ」
「そんな、いい加減な……」
そんな不確かな理由で、私は今こんなとこにいるわけ?
「ただ、もし本当に君がリシィの生まれ変わりなら、なにかしらの兆候はあると思うんだけど」
兆候。水の精。まさか。
「何か心当たりがありそうだね」
無意識のうちに目を泳がせてしまった私を、アルがのぞきこむ。
「何を、覚えている?」
「な、何も……」
「ふうん。本当に?」
じっと見つめてくるアルの痛いほどの視線を感じながら、鼓動が早くなる。
違う……違う。偶然よ、そんなの。
私は持っていたカップをテーブルに置かれたソーサーに戻した。
「本当に。吸血鬼だの水の精だのって、全っ然心当たりないから。人違いみたいだから、他をあたってちょうだい。それより、話がそれだけなら、私、もう帰るわ」
視線を振り払うように立ち上がって声をあげたら、くらりとめまいがした。
「おっと」
ふらついた私の体を、アルが受け止めてくれる。
「おやおや、子供はもうおねんねの時間かな」
突然襲ってきた強烈な眠気は、目があいてられないほど。いくら眠いっていったって、こんな……
さっきの紅茶。何かいれたわねえ!
「おやすみ、ハニー。早く思い出せるように祈っているよ。そうして……今度こそ、その唇で、好きだと、言って……」
アルの声が遠くに聞こえる。
勝手に連れてきて勝手に眠らせて……結局、私なにがなんだかわかんないわよ! 文句を言ってやりたいのに、体が言うことをきかない。
そして私は、勝手に話を終わらせてしまった彼らに腹を立てつつ、意識を失ってしまった。
二章、終りデス。次、三章。