☆
ぱしゃん。
小さな水音で、唐突に意識が覚める。肌に感じるのは、ひんやりとした空気。
ここ、どこ?
ぼんやりと辺りを見回す。そんな動作すら、ひどく億劫だった。
あたりは一面、夜明け前の朝もやのような白い霧。
足元を見て、気がついた。
ああ。水の上、なんだ。
次第に景色がはっきりとしてくる。
見渡す限りの水面の上に、霧の立ち込める乳白色の世界。
私は湖の真ん中にいた。
立てるはずもない場所にいるのに、不思議と不安は感じない。
めぐらしていた視線を背後に向けると、黒く繁った森がかすんで見える。
くずおれるようにその場へとひざまずくと、水にむかって手をのばしてみた。肩から、はらりと長い髪が水の中にすべり落ちる。足元にわだかまって浮かぶ、銀色の、髪。
硬いかに思えた水面は、抵抗なく私の指を受け入れた。続いてその腕も。
いつのまにか、ひざまずいていた足さえも水中に沈み始めていた。重さを感じさせない髪が水面に静かに広がっていく。
穏やかな心地好さ……
そのまま沈んでいこうとして、ふと、顔をあげた。ゆっくりと、後ろを振り返る。
黒い森の影。
霧の向こうに、何かが、いる。