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夜明け






「おら、グズグスしてないでとっとと歩け!」

 背中から突き飛ばされ、青年はよろめく。

 鉄の鎖の繋がれた腕が重い。肩がずきずきと嫌な熱に疼いていた。汗ばんだ体が嫌な震えをしている。

 咎人の行進だ。

 裸足の足を引き摺るようにしてアシュは一行の先頭に立ち、 洞窟を歩いていた。

 ぴちゃん、とどこかで雫が落ちた音が薄ら暗い洞窟を木霊しながら広がっていく。

 明らかに自然のものではない滑らかな岩壁には円環に無数の棘が刺したような奇妙な紋様が並んでいる。

 天井は 地下にも関わらず星空のように青く瞬いている。所々垂れ下がったツキヨムシが、獲物を誘き寄せるため発光しているのだ。恐らく、一行の頭上では生き物たちの美しくも凄惨な戦いが繰り広げられているのだろう。

 アークの深部、と呼ばれるこの場所を知る者は少ない。

 王城内部にある神殿、その中でもとりわけ神域と呼ばれる、通常ならば踏みいることもできない場所より隠し階段でさらに地下へと下った場所。流石の王子も一応王族としての自覚があるのか、ロキと取り巻きは地上に待たせ、今は己の乳母子と護衛代わりの従者、そして一党の後見とも言えるジェレミアしか連れていない。

 深閑とした闇は畏れを孕む。

 神代の闇をそのまま残して停滞した空気は、じわりと背筋を伝う、人間には理解し難い妖気をまとっているようにすら思える。

 唇を引き結んだままのジェレミアと対照的に、恐ろしさ半分物珍しさ半分に王子はキョロキョロと周囲を見渡したり、苛ついたようにアシュを小突いたりと落ち着きがない。

 アシュは呻きとも溜め息ともとれぬ塊を飲み下して、チラリと岩壁を飾る紋様――――楽譜へ視線をやった。

 “フィロの正史”

 写しを見たことはある。この国で最も古い種類の歴史書。女神と青年の偽りの悲恋を騙りパンゲアの成り立ちを謳った、美しいばかりの事始めの物語。

 カンテラの明かりに揺らめくそれらは、ひそやかに呼吸しているようにも見える。






 “月の天へ還る夜来たり

 ニルアナ=フィロの竪琴は奏でられる

 ああ、恋人たちの夜よ

 刹那の若人たる父よ

 星をしるべに漕ぎ出でん

 常夜の海を、分けゆく船出に幸いあれ

 蟲の言祝ぎに天涯の月も輝かん…………


 ………舟人の銀の翼は奪われつ

 悲しきかな! 憎きかな!

 沈黙の空に残せしかの女ひとに、我が言葉もはや届かず

 蟲の歌わぬ朔、石の部屋にて弔歌を聞く

 長き黄昏の時きたる

 悠久の時を止めし母よ

 肉を同じくせし同胞(はらから)

 どうか待つことなかれ

 地に放たれし子らよ

 願わくはこの歌が汝らの鎖の解き放たんことを………”



 コダエの祖、サナはリコに並びリースとその一家に仕えた蟲人だった。

 地上へと追い出された彼女がアークに抱いたのは、深い憎しみと失望。コダエに残された外史はいわば、フィロ一族の手を取ったオウリに向けた呪歌だ。

 正史に抗うため作られた外史と、外史を抑えるために作られた正史。

 二面の歴史書の、片割れ。


 「………ここだ」

 洞窟の行き止まりまで辿り着くと、アシュは足を止めて顔を上げた。

 黒々とした岩壁に、嵌め込まれた石がきらきらと火影を映し妖しく煌めく。

 ざらりと緑柱石の鱗に覆われた体。金の脈に縁取られた滑らかな真珠色の翼。そしてまるで血のような、深紅の複眼。

 古の神話の最高神にして、造化の神――――竜蟲。


 平伏したくなるような清冽さ、同時にぞくりと粟立つ肌の感覚に、アシュは同行人に気づかれぬよう薄く笑んだ。

 ここは、始まりと滅びの場所。

 人が気安く来て良い場所ではない。

 竜蟲の足元には予想した通り、太さも長さも異なる奇妙な直線が幾重にも交差した、長方形の台座のようなのものがある。コダエはこの場所を模したのだろう。よく似ている。

 青年は屈みこむと石柱の滑らかな岩壁へと額を押し付けた。

 単に腕が上がらなかったからなのだが、血中を流れるという“天涯の月”は従順に反応してくれたらしい。


 ヴゥゥゥウン……


 低く、羽音のような唸りが洞内を木霊した途端、石柱へ光が走った。

 夏の雷のような、闇に慣れた目を焼く鮮烈にして清澄な青。そのうちいく筋かが例の紋様の上を凄まじい勢いで駆け巡る。

 光は石柱全体を一通り巡ると、やがてピタリと上面の中央に焦点を定めた。


「おお………御石が輝いておる……! 」

 頬を紅潮させた王子が、憑かれたようにふらふらと石柱に向かい手を伸ばした。

「そんな、馬鹿な………」

「いいや、まことだ。まことだよ、ジェレミア殿」

 信じられないという顔でジェレミアが後退る。振り向きもせず、王子は引きつったような奇怪な笑みで、両手を広げた。

「これで我らの悲願が叶う。アークはあるべき栄光を再び取り戻すのだ。父上や母上の認めた兄上たちではなく、私が、このゼーレンが救うのだ!!」

「……………」

 選択は過去に起因する。

 故に軍人であった父には、敵を知り道を狭め、敵の選択を奪ったのち最小限の力で討てと教わった。

 アシュは口を開いた。


「………アークにはかつて、大地と六海を焼き付くすほどの恐ろしい力がございました。戦すら捩じ伏せてしまうほどの圧倒的な力が。………使い方を誤ればパンゲアはたちまち不毛の焦土と化すでしょう………」

 次の瞬間、ガッと側頭部を打つ固い感触に息が止まる。アシュはなす術もなく石柱の倒れ込んだ。

「殿下……! その者は今のところ唯一の伝承者でございます。万が一死なせては………」

「煩い、黙れ黙れ黙れ!」

 諌めようと間に入った老臣に、駄々をこねる子供のようにゼーレンは唾を飛ばした。

「私を誰と心得る! “天涯の月”はこの島共々我ら王族の遺産、フィロ一族のもの。貴様は余計なことを考えず、大人しく鳥籠で我らの繁栄を囀ずっておればそれでよいのだ!」

 ………ああ。

 この心境を、なんと表現すべきだろうか。

 まるで呪いのように染み付いた「復讐」に、かつてのアシュはその半生を費やし、またそのために死ぬつもりでいた。なんだってやった。

 そしてゼーレンはまさしく、幼いグリフが怨敵と見た貴族の在り方そのもの。

「ふ、ふふ、……あは、はははは!!」

 切れた唇が割け、血が滲んだ。ジェレミアや従者が困惑と気味悪そうな目を向けている。だがアシュは可笑しくて堪らなかった。

 まるで舞台のクライマックスのように。初めから、こうなるように定められていたかのごとく。

 ――――まったく自分には似合いの最期だ。

 出来すぎた結末に対する、苦笑ともつかない不思議な愉悦があった。

「………成る程。……祖先の業を負うこととなる、それでもなお、殿下は力を望まれますか」

「くどい!」

 まったくこの王子様ときたら、うっとりするほど傲慢だ。

 数ある王族の中からあのロキが選別してきただけはある。

「かしこまりました。――――ならば望み通り、負われるといい」


 ロキを含めたスエンニの執政官たちは島を落とすという馬鹿げた計画を、実行すべく動いている。

 裏切られたのではない。

 アシュは彼らに裏切らせた(・・・・・)のだ。

 とはいえ、アシュにもこればかりは賭けだった。

 馬鹿げた計画だけに、彼らには密告する可能性も十分過ぎるほどにあり得る。単にここまで上手くいったのは、「狐」の首が思いがけず高値で売り捌けたゆえの情けだろう。失敗したとて痛手にはならないからこそ、遊びに乗ったというところか。遊んで暮らせる資産を蓄えながら、未だに商品を担いで内戦地帯を歩く輩だ。常人なら信じがたい「遊び」だが、彼らならばやりかねない。

 そんな肝の据わった変わり者、その代表とも言えるロキの寄越した果物のお陰で、幸いにも喉の調子は体調のわりに悪くない。

 父の話には聞いていたが、ギスタフを継ぐことなく追い出されたアシュに“正史”の場所は分からない。だから王子、あるいはジェレミアに案内をさせようと企んだのが、この賭けの顛末だった。


 青年は唇を軽く舐めた。



 “見よ、見よ!

 長く暗い夜が明ける

 我らの先には道はない


 花よ仰げ、星よ照らせ

 我らが拓ひらくは未知なる闇

 蟲よ歌え、月よ導け

 くろがねの剣を抱き、ほむらの大地を歩くがごとく


 いざやゆかん

 いざや歌わん


 果てなき旅路を、始めに定められたがごとく

 運命の望むままに、月よ彼の人を導け


 共に行こう

 さあ子らよ、銀の鎖は解き放たれた

 長く暗い夜が明けた

 我らの歩くその後ろに、遥けく白く道は続く”







 


 ◇◇◇◇








 ――――船の操り方を知っている稀有な人間と知れれば、たとえあいつの計画が失敗してバレても、迂闊に殺されることはない。

 ――――ようはタイミングなんだ。上手くすりゃ大犯罪者も救国の英雄。周りがどう担いでくるか、そこに気を付けりゃあ後はどうとでもなる。

 ――――『金の矢』には喉から手が出るほど欲した伝説の武器だ。ならば落日の王家にとっても唯一といっていい回天の稀なる機会。みすみす殺すにはアークの余力はそう残っていないはずだ。


 ――――問題は、アシュがすでに滅びの歌を歌ってしまっていた場合だ………。




(……三……、四……、五……)

 ジエンの言葉を反芻しながら、ルルーは心の中で数を数える。

 チャンスは一度。

 今夜、陽動のジエンが王宮内部で騒ぎを起こす。ギスタフの私兵を引き連れ、ロードの身柄の奪還を名分に権勢に牙を剥く。その一瞬だ。

 ドキドキと血潮が脈打っていた。

 ジエンらと別働のルルーとダヴィドは神殿の壁際の暗がりに身を潜ませ、じっと息を殺していた。

 耳元で太鼓のようにどんどんと鼓動は大きくなってゆく。ダヴィドは流石に慣れているのか、本当にいなくなってしまったのかと疑うほど気配を感じさせない。それなのに、あれだけ大口を叩いた自分がこの様だ。

 もしこの鼓動が聞こえたせいでばれてしまったらどうしようかと見回りの神官たちが通るたびに思ってしまう。

(大丈夫、大丈夫………私はアシュを見つけて、下で待っている船のところまで引っ張っていくだけ……)

 どうとでもなる。アシュが生きてさえいれば。ジエンは自信をもってそう言いきった。ならば、自分は自分にできることをするだけ。

 深呼吸を、二回。ルルーは闇に目をこらした。

 月はあるのに、雲がかかっているたかめ闇は深い。


 と、轟音。

 その闇にぱっと高く、緑の火が上がった。

 ルルーはダヴィドと素早く目線を交わし、頷き合う。――――合図だ。



 

「な、何だ!?」

「王宮の方だ」

「襲撃だ!!」

「誰か様子を見てこいよ」

「落ち着け、ここは神の膝元だ。なにも起こらぬ」

「神官長様をお呼びしろ!」


 なにも知らない神官たちがおろおろと顔を見合わせ、水を注ぎ込まれた蟻の巣穴のように、怒声を交えながらばたばたと各々指示を求めて動き出す。

 地下室の見張りが一人になったことを確認すると、回り込んだダヴィドが素早くその首を絞め落とした。

「ねぇ兄さま。……それ、私にも出来るかな?」

「じゃあアシュの救出が済んだら教えてやろう。たっぷり迷惑をかけてくれたあいつを実験台に、な? 」

 にや、と茶目っ気たっぷりに片目を瞑る兄は、こんな状況でなければ道行く人が振り返るほど格好よかっただろう。見ているのが自分だけとは残念だ。


「…………さ、開いたぞ」

 ジエンに教えられた通りの手順で組石を抜き差しすると、何もなかった壁にぽっかりと入り口が出来た。

 見張りの残していった燭台を掲げると、下りの階段が見える。どれ深く掘られているのか、最下とおぼしきは闇に飲まれている。

「…………ここ、だよな」

「………うん」

 風もなく、どこか湿りを帯びて淀んだ空気。

 二人はごくりと唾を飲んだ。

「見て」

 ルルーは燭台を傾け、砂塵の積もった階段を指差した。

 石段の中央が、いくつもの足跡で乱れている。

「……残念ながら、もう来てるみたいだな。ルルー、用心のため灯りは置いていけ」

「うん」

 少女は手早く蝋燭を吹き消し、兄の後に続いて狭い階段へと身を滑り込ませた。

 こつん、こつん、と足音を抑えていても、石を擦り打つ微かな音が洞内を響く。長い石段は冷たく、時折どこかで水の滴るような音が聞こえた。

 長い石段を下り終えると、空間はいきなり荷馬車ぐらいは往き来できそうな広い横道に変わった。

(明るい)

 ホシヨムシだ。

 天井付近に群れで紐上にぶら下がり、獲物となる羽虫を誘う青白い灯りをチラチラと瞬かせている。遠くから見れば揺らめく星空のように見える。

「ルルー、これ………」

 仄白く浮かび出された岩壁をなぞり、ダヴィドが眉をひそめた。

 重なる円環と、それを貫く奇妙な刺。

 忘れ難い独特な形状。

「楽譜、だね」

 本当にあった、という事実が今は逆にありがたくない。つまりアシュの計画は今のところ大難なく進んでいるということだからだ。


 ――――もしも、アシュ殿がすでに滅びの歌を歌ってしまっていたのなら、一刻も早く島を離れることをお奨めします。


 西岸を中心に繁殖するムシヤライのため島に近寄れないリコは、そう言って一同を送り出した。


 ――――船が沈むとは、正確には船の全機能(・・・・・)が停止する(・・・・・)ということです。停止と同時に、船とリンクした“天涯の月”、そして蟲たちも歌では使えなくなるでしょう。


 パンゲアの船は殆どが蟲に頼っている。それ以外の形態、例えば手漕ぎ舟や帆船などといった、外海で見られるような船を探す方がかえって難しいほどだ。

 アークから最も近い港マノンまでも、蟲舟で半日はかかる。

 つまり、蟲が使えるうちに(おか)へ戻らねば、それこそ島と共に溺れ死にということである。


「それにしてもまあ、随分と長い回廊だな」

 ダヴィドは紋様を不思議そうに指でなぞった。

 延々と数珠繋ぎに連なる円環は人工的な一種の不気味さと、超文明的な神聖さが隣り合わせで存在する。

「“フィロの外史”も、こんな感じなのか?」

「うん。あそこはここまで長くはなかったけど、それ以外は蟲が垂れているところまで、まるで写したみたいにそっくり」

 ルルーは疑似の天を仰いだ。

「アシュは、歪みに抗った人たちが外史を残したんだって言ってた。“空白の真実”はパンゲア神話として形を変えることで塗り潰した。だから………だから、歪みに抗う力があるはずだって………」

「――――引き返すか?」

「え?」

「今からでも引き返していいんだぞ。男は女より遥かに単純に出来てるが、その分馬鹿で頑固だ。生き方ってやつはそう簡単に変えられんぞ」

 振り向かず、けれど案ずるようにダヴィドが訊ねた。

 ルルーは首を振った。

「……ううん。もう少しだけ、行かせて」

「……分かった」

「ごめんなさい、兄さま」

 一緒に死ぬことだけは許さない。

 それが血も繋がらない妹にまで甘いこの兄の、今回の一件に協力する条件だ。

 だがルルーは、叶うならあの人を連れて帰りたかった。

 一人で背負い込んで終わらせようとする彼を、絞め落としてふん縛って安全な場所まで連れ去って、それから思いっきり詰ってやりたい。誰にも看取られることなく、たった一人この島と心中なんて絶対にさせたくなかった。

 だから多分、自分もギリギリまで粘る。その迷惑分を含めての謝罪だった。

 構わんさ、とダヴィドは肩を竦めた。

「ルルーはルルーのしたいように行動すればいい。俺は危なくなったらお前を抱えて即逃げる」

「うん」

「でもあいつのことは知らん」

「………うん」

「認めんからな、俺は」

 ぷいっと照れたように背けられた顔は、少しだけ赤かった。

「話はあいつをぶん殴ってからだ」




「煩い、黙れ黙れ黙れ!」


 その時、前方からバキッとなにかを殴る鈍い音と、声変わりも終らぬ不自然に甲高い怒鳴り声が響いた。

「私を誰と心得る! “天涯の月”はこの島共々我ら王族の遺産、フィロ一族のもの。貴様は余計なことを考えず、大人しく鳥籠で我らの繁栄を囀ずっておればそれでよいのだ!」


「………………」

「………………」

 二人は顔を見合わせた。

 静かにダヴィドが手を引き、死角となる壁際の暗がりへ身を寄せた。

「一町(約一〇八メートル)というところだな」

 声は思いがけず近かった。

「あ、あそこ………!」

 火影に浮かび上がる痩身に、ルルーは思わず悲鳴をあげそうになった。


 彼だ。アシュだ。


  カラスの濡れ羽のごとき黒髪は鮮やかな白髪に変わっていたが、見紛うはずがない。だらりと妙に伸びきった両腕を拘束され、剥き出しの体は拷問のあとか真っ赤に腫れ上がったミミズ腫や火傷、真っ青な打ち身で今にも倒れそうな酷い有り様だった。

 地面へ倒れ伏した青年は、やがてよろよろと身を起こした。

 ルルーはダヴィドの袖を掴んだ。

「は、早く助けなきゃ! あれじゃアシュが死んじゃう」

「待て、ジェレミアもいる。闇雲に飛び出すのは危険だ」

「でもあのままじゃ…………!」


「ふ、ふふ、……あは、はははは!!」

 突如、闇を弾く笑い声が響いた。

 困惑する周囲に、青年は嗄れた喉も割けよとばかりに笑っている。

 笑いを納めると、彼は少年に向かい何事か問うた。

 生憎と声は小さすぎてルルーたちのもとまでは聞こえない。

 ただ、その瞬間。

 カンテラの灯りに照らし出された横顔がルルーにははっきりと見えた。諦観とも悟りともつかない、信念を定めた者の静かな顔。

 妙にスッキリとしたような、かつての優しくてちょっと意地悪な彼を思わせる声音に、彼がとうとう決定的な選択をしたことをルルーは悟った。

 嘆く者(アシュ)


 ――――律儀な人ですよね。


 リコの言葉が耳に蘇る。


 ――――祖先の約束を果たすのは自分の務めだと、胸に決めてしまわれてる。









 青年が唇を軽く舐めた。

 一拍置いて、それまでうっすらと青く輝いていた石がカッと痛いほどに閃光を放ち始めた。

「………不味い、」

 最悪の事態を察してダヴィドの顔色が変わる。

 しかしルルーは、動けなかった。

 素朴で、華美なる修飾もない。しかしこんなに美しいものが、この世にあったのかと思った。

 懐かしくて、いとおしい日々。

 それでもまた歩くことを選んだ、たおやかな(ひと)に捧げられた歌。

 ルルーにも聞き覚えがあった。

 いや、歌詞こそ違え門出の寿ぎとして、おそらくこの国の誰もが知っている作者不詳の歌――――『月待ちの恋歌』の、冒頭の一節。

 滅びの歌ではない。あろうはずがない。

 ごく短く、けれどその後の悲恋に似つかわしくないほどの煌めく歓喜に満ちている。


 これは、夜明けの歌なのだ。








「大正解」一部改稿しました。

もう、ちょいちょい………ですかね?

亀更新ですが完結に向かい頑張ります。


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時間があればこちょこちょと構っていってやってください。お腹を出して喜びます。



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