囚われの少女
「おい、聞いたか? なんでも昨夜から島の落下が三年ぶりに止まったそうな」
「まあ、ほんとかしら」
「まことかのう。またただのでまかせではあるまいか」
「まだ内々の話だけど、天文府からの観測よ。間違いないわ」
「どうしたんだろうね、急に」
「王太子殿下の即位が決まったゆえとか」
「はて、ワシは第三王子殿下が例の秘宝を目覚めさせたためと聞くぞ」
「いずれにせよ、これでアークは安泰ね」
「いや、まだまだ分からぬぞ。今はただ、嵐の前触れなのかもしれぬ。
葉擦れのような不規則なざわめき。
ひそめられたり誇張されたり、けれど決して絶えることなくさえずられ、人から人へ、変容を伴いながら渡ってゆく。
雑音として捉えてしまえばそれまでだがひとたびその全貌を捉えようとすると、それは途方もない怪物だ。常に変化し、人の心の陰窩にひそむ、怪物。だが同時に、人の心をこれほど顕著に反映させる指標もない。
柱の影に身を寄せて書類を繰る振りをしながら耳を澄ませていたロードはふっと薄く笑むとさざめく宮廷を後にした。
王権とは、神威のごとくあるべきだとロードは思う。
優れた道徳と法、そして畏れを集める唯一絶対の王。
安寧の治とは精巧な箱庭のようにその三つが揃い、はじめて成る。
人はとかく惑いやすい生き物だ。善悪の枠組みを定め、絶対の超越者の存在を恐れ、日々の恵みに感謝し、分に合った暮らしを慎ましく送る。初めこそ多少窮屈にも見えるが、それが最も安定なのだと解すれば自然それに従う。
特別に富まなくてもいい。だがそういう静かで確かなものであるべきだ。
――――考えろ。
この二年。ロードは義父の言葉にならい、己れで考え、背負い、行動した。
考えるという作業は、誰のせいにもできない。経緯も結果もすべて己れのものだ。だからひどく傷つき、そして疲れる。
それは自由という言葉の秘める未熟さと矛盾を如実に表していた。
始めは良い。解放感と、自分が何だって出来るような躁状態を味わえる。だが、それだけ。一種の麻薬のようなものだ。自分の立ち位置を計るものがない分、時折ふとどうしようもなく不安で、正しいと保証された絶対の言葉が欲しくて堪らなくなる。
恐らくこの孤独に耐えた一握りの者のみが道徳や法を編み出し、冠を頂いて玉座に座るのだ。揺らがぬ言葉で、世を安心へと導く。
『金の矢』は自由という未知の事象に、行き過ぎた振り子の反動のようなものだとロードは思う。絶対の超越者を必要とした、人々の心の現れのひとつ。そうでもなければどんな思惑があるにせよこんな馬鹿げた噂が広がるはずがない。
(ただ取り戻したいのだ)
揺らがぬ絶対を。
浮遊の島という神威を。
それさえ与えてやれば、この国はまた平穏な治世が戻る。
ずっとそうやって過ごしてきた千二百年の長き穏やかな歴史が、それを証明しているのだから。
「お帰りなさいませ、旦那様」
出迎えた使用人に脱いだ外套と上着を預ける。
「彼女はどうした? 」
「お目覚めになられております。ですが今日一日、食事どころか水すら口になさらず、お世話差し上げようとしてもひどく拒絶されて………」
「水すら、か」
「申し訳ございません。ずっと兄の消息を気にしておりますが、それ以外での私共の言葉は耳に入れようともしないのです」
「まあ、無理もないな。彼女には俺たちなどただの人攫いにしか見えないのだろう。それで、兄の方は? 」
「こちらは旦那様へ面会を求めてはおりますが、」
「こちらも水一滴口にせず、か。まいったな」
水分を取らなければ人など、大人でも精々三日ほどしか持たない。ましてや誘拐という先の見えない状況下では出されたものに毒が入っているかより、いざというとき動けないときのリスクの方が圧倒的に大きい。
一方で他家において飲食物を口にしないのは、相手に信用を置いていないという表意でもある。
少女の方は単に警戒と嫌悪ゆえの行動だろうが、かつては貴族位にも名を連ねていた兄の方はまず間違いなく後者だ。恐らくロードとの面会が叶うか、それこそ死をもってもこの強硬の姿勢を貫くだろう。
そして万一兄に何かあれば、彼女もまた永遠に心を閉ざしてしまう。実に知れ切った往生だ。
「まったく、兄妹揃って頑固なものだな」
ロードは苦笑した。
「では、倒れられてしまう前に姫君と騎士殿のご機嫌伺いにでも行ってくるとしよう。少ししたら夕食も一緒に持ってきてくれ」
「かしこまりました」
隊服を着替え、さっそく少女の部屋へと向かう。
本当ならば屋敷でも一等の客間に丁重に迎えたいところだが、誘拐まがいの派手をやらかしている上、突然の島の降下停止という事態まで起こっている。妙な勘繰りを受けないため、彼女は別棟の目立たぬ一室に押し込めているが、一段落付いたらもっと日当たりのよい部屋をあてがえばいだろう。
(幸い、時間はいくらでもあるしな)
今、風は確実にこちらに吹いているのだ。
自信に裏打ちされた笑みをまとうと、青年は扉を叩いた。
◇◇◇◇
(兄さま………)
簡素なベッドに半身だけ横たわったまま、ルルーはまぶたに腕を乗せた。その小さな握り拳の中には瀟洒な銀のペンダントが握られている。
(兄さまは何を恐れて、何から逃げようとしたんだろう? )
あれから――――ギスタフの私兵に捕えられ気を失わされて、目覚めてから――――すでに丸一日が経過していた。
逃げ出すには高く、小さすぎる部屋の窓の外はすでに藍色の空に星が瞬き始めている。夕闇の気配の濃くなった部屋はすでに己れの手のひらの線さえ見えなくなっていたが、ルルーは進んで自ら灯りを点したいとは思えなかった。
(なんで、私たちなんだろう? )
謀反を企てた、とかいう冤罪ならばなにも引退して畑やハーブ園を世話するだけの兄を引きずり出さずとも、もっと他にいくらでもいそうな気がする。だが、彼らは明らかにルルーを見ていた。
銀のフクロウと呼んで、こちらを見ていた。
(フクロウっていうとやっぱり神話に出てくる月の女神の使いのこと、だよね………どういう意味なんだろう。これも何かの符号? そういえばペンダントに刻んであった「アシュ」って人も、私の過去と何か関係があるのかな)
あの男は、ルルーに対し「久しぶり」そして「アシュは来ない」と言った。これはつまり、あの青年とは以前どこかで会っていて、その時ルルーは「アシュ」なる人物に助けられている。そして兄がこのペンダントを寄越したからには今もその庇護は有効である可能性が高い、ということだ。
ルルーは溜息を吐いた。
武骨な石造りの壁に、手つかずの食事を乗せたテーブルや寝具といった最小限の家具。窓は小さく高いし、唯一ある扉の向こうには、恐らく見張りが控えている。手入れは行き届いているものの、まるで座敷牢だ。
(兄さまは大丈夫かな。今頃どうしてるだろう)
現段階で知っていること。
これから知らなければならないこと。
そのために今やれること。
ひとつひとつ頭の中で整理することで、ともすれば蓋を跳ね飛ばして際限なく湧き上がってくるこの状況下への不安と恐怖を紛らわす。こんなことをしたからといって事態が劇的に好変するわけではないのだが思考を止めた瞬間、そこで何もかもお終いになってしまう気がするのだ。
(大丈夫。打つ手はどこかに必ずある)
そのとき。
コンコン、とふいにノックが響いたかと思うとドアが開いた。
「やあ、気分はどう? 」
「………ッ!! 」
ないまぜになった嫌悪と恐怖が一気に背筋を駆け抜け、ゾワッとうなじにかけてのうぶ毛が逆立つのが分かった。
ひょっこりと顔を出した訪問者は警戒もあらわに身構えたルルーに苦笑とも嘲笑ともとれぬ含み笑いを漏らす。 ギスタフの兵を従えていたあの青年だった。
「夕食、まだだそうだな? 腹は減ってないか? 」
親しげな態度で近寄ってくる青年は、ルルーが身を強張らせているのに気付くとそこで一度足を止めた。そのまま近づいてくれるなと念じつつ、何かあればすぐにでも動けるよう油断なく睨み上げる。
「言ってくれれば料理人に好きなものを作らせるが」
「………………」
「せめて飲み物くらいは口にしないか? 身体に悪いし、敵の家を訪ねても糊口は濡らせというだろう」
「………………」
「………そう怖い顔をしないでくれ」
完全にお手上げ、というように青年は両手を上げた。
「君には聞きたいことも話したいこともいろいろとあるんだ」
(聞きたいことはともかく、話したいことって……? )
あそこまで大々的に人を攫ってきたからにはきっと何かしら理由があるのだろうとは思っていたが、話したいこととは一体どういうことだろう。情報を与えるからにはそこに何かしらの見返りを期待しているということでもある。それが何なのかが、見えてこない。
眉をひそめたルルーの心を見透かしたように青年は薄く笑った。
「なぁ、ルルー。こうしないか? これから互いに一つずつ質問をする。交代したら相手の質問に答えるか、自分について一つ話をする。このままじゃお互いに黙りじゃあらちが明かないだろう」
馬鹿にしているのか、と言いいかけ、ルルーは寸でのところで思い直した。
「………それ、貴方の回答が嘘である可能性は? 」
「それならこいつにかけて、絶対にありえないと約束しよう」
ようやく成り立った会話がよほど嬉しかったのか青年はぱっと喜色を浮かべると、中指から厚い銀と石で出来た指輪を抜いてルルーに向かい差し出した。
「ギスタフ家の印章をあしらってある、代々当主に引き継がれる指輪だ。これを潰せば、公的な場で俺はギスタフを名乗ることは出来なくなる。この応答の間、君に預けよう」
分厚いマメのある手のひら。親指の背には何かが擦れたような跡が残っていた。
逡巡ののち、ルルーは目いっぱいの距離と警戒を保ちながらその指輪を摘まみ上げた。
「まずは交渉成立だな。じゃあ質問をどうぞ」
「……兄さまについて。あの後、兄さまに何をしたの? 」
「ふうん。君は余程彼が大事なようだね。羨ましいな」
冗談とも本気とも取れない平坦な口調で、青年は椅子を引くとルルーに向かい合うように腰をかけた。
「大丈夫、危害となるようなことは何もしていない。君と一緒に屋敷にお連れして、今は少し窮屈な思いをしているかもしれないが食事もちゃんと与えている。今のところ至って健康体だ」
今のところ、ということはこの先どうなるかは分からない。だが同じ場所に、無事でいるという事実に少しだけほっとした。
「じゃあ次は俺の番だ。何故あの男から離れた? 」
「あの男? 」
「とぼけちゃ困る。――――『アシュ』、このアーク島から君を盗んだ大逆人だ」
「…………ッ! 」
ルルーは思わず息を呑んだ。
青い薄暗闇の中、青年の双眸だけが火のようにちらちらと燃えている。
憎しみとも羨望ともつかぬ、煮詰められ凝り固まった強い過ぎる感情。余りに余裕のないその様子は、下手なことを言えばすぐさま喉笛を噛み千切られそうな獰猛さを秘めていた。
「……分からない」
「ふざけているのか? そんなことはないはずだ」
「違う、本当に分からないの」
かつて高熱により生死の境をさ迷ったこと。それゆえ自分には二年半より前の記憶がないこと。
青年を刺激しないよう慎重に言葉を選びつつ、ルルーは正直に答えた。
「まさか」
「信じてくれなくてもいい。でも本当のことだもの」
「……それは、君の『兄君』から聞いた話か? 」
「え、ええ」
「ふむ。と、なるとまた話も変わってくるな」
青年は考え込むように目を伏せ、腕を組んだ。手足がすらりと長く、服の上からでも分かる鍛え上げられた体をしている彼には妙に絵になる。
すっかり黙り込んだ青年に、手持ち無沙汰なルルーはさり気なくその様子を観察始めた。
兄のダヴィドのような女性的な美貌はないが粗削りながらも端正な顔立ちは、精悍という言葉が当てはまる。無駄のない身のこなしは軍人だろうか。ギスタフ家の指輪を持っているということは当主なのだろうが、兄の言っていた代替したジエンの息子か、親類にあたるのかも知れない。
「――――君は、」
突然顔を上げた青年にルルーはびくりと肩を竦めた。
「あ、すまん」
「い、いや……それで? 」
「……君は、フクロウのことを覚えているか? 正確には君自身がフクロウであったということについて」
「私が? 」
「その様子を見ると、完全に忘れているようだな」
フクロウというのはパンゲアの秘宝“天涯の月”を宿した人間のことで、皆美しい銀の髪をしているのだと、青年はざっと説明してくれた。
「でもそれってお伽噺でしょ? それに私の髪はこの通り、銀色なんかじゃないよ」
話を聞き終えて、ルルーはまず最初に呆れた。
見当違いにもほどがある。ルルーの髪は兄と同じ柔らかな栗色だ。それに“天涯の月”はパンゲア神話に出てくる月の女神リースの秘宝である。その辺の小娘の中にぽろっと宿されている訳がない。
だが青年は真面目な顔つきで首を振った。
「昔は俺もただのお伽噺と思っていた。……だが、必ずしもすべて『お伽噺』とは限らないんだ。アレが何なのか、俺たちには未だに分からないし、現物が見つかっている訳でもない。だがアークには千二百年間いつの時代にも必ず一人、銀の髪の者が突如出現する。フクロウを擁し蟲を従え、アークはこの世に唯一の浮遊の島としてパンゲアを治めてきた。――――三年前、忌々しいあの男に君を奪われるまでは」
フクロウという存在そのものがもはや形骸化しかけていた当時、アークの上層部は事件をさほど気に掛けなかった。しかし、天文府により島の高度が落ち続けていることを聞き、初めて事の重大さに気づいた。
「偶然じゃ………」
「もちろんその可能性もある。だが、偶然と片付けるには君の過去は不自然な点が多すぎるんだ。君は忘れているみたいだが、あの男にルルーと呼ばれていた少女に、俺は一度会っている。あれは確かに君だった。髪だって染めるなりなんなり、方法はいくらでもあるだろう。……それに君はダヴィドという青年を兄と呼んでいたが、亡くなったエダ以外、彼に妹はない」
何を言われたのか、一瞬理解できなかった。
この人は、何を言っているのだろう。
私は兄さまの妹だ。片親きりだけどアムーラ・アジャンタの街を愛する兄さまと姉さまの妹で………
「確かに役所に届けは出ているが、君は街の人間から一度だって自分の幼い日のことを聞いたことがあるか? 」
「え……? 」
ルルーは束の間言葉を失った。
「無いはずだ。あるわけがない。君はアークでフクロウとして育ったのだから。現にルルー、君が戻ってきてからこの島は三年ぶりに落下が止まっている」
射るような鋭いまなざしに、ルルーは指輪とペンダントを包んだ両手をギュッと握り締めた。
(……兄さまは、私の家族じゃ、ない……? )
ずっと、不思議ではあった。部屋も、食事も、街の人も、ずっとこんなだっただろうかという違和感。記憶を思い出せないからこその空々しさかと思っていたが、本当は違うのかもしれない。
最初から、あそこは自分の居場所ではなくて。優しい兄はルルーを騙すことで何かを隠していたのではないか。そう、それこそこんな土壇場になってようやく出てきたアシュという人共々。
何か言い返してやりたいのに、頭の中は混乱で錆びついたように動かない。フクロウ、という言葉に心のどこかが警鐘を鳴らしている。
(……だめ……)
奪われたフクロウ。盗まれた月。
霧の向こうに広がる景色。
もう少し、あと少しピースが揃えばすべてが繋がる気がする。
けれどそれは踏み込んだら最後、戻れなくなる。
「……何か思い当たることがあったみたいだな」
「ち、違………ッ! 」
押し黙ったルルーに、青年は軽く茶化すように顔を覗き込んだ。
しかし無言で見つめるまなざしがあまりに真剣で、いっそ何か言ってくれれば言い返せるのに、これ以上なく雄弁な返答は嘘を吐いているようには到底思えなかった。
この誘拐犯か兄かを選べと言われたら自分は間違いなくダヴィドを選ぶはずなのに、不安で堪らない。
もし、万が一にもダヴィドでさえ嘘を吐いていたというのなら、一体何が正しいのだろう。
自分は何を信じればいいのだろう。
ふっと誰かが息を吐いた。
「――――ルルー、焦ることはない。時間はいくらでもあるんだ。今日はここまでにしておこう」
呆然としたまま俯いたルルーに、青年の呼びかけは温めたミルクのように優しかった。
「今の君にできるのはよく食べて寝ること。落ち着いたら、いずれ君のお兄さんも引き合わせることが出来る。そしたら彼に直接聞けばいい」
幼子を宥めるような、優しい声音。
人攫いの言葉のくせに、と心の中で毒づくも、するすると乾いた隙間に染み込んでゆく。
この人なら、嘘はつかないかもしれない。漠然とだがそんなことを考える。
寄る辺を失った心は、多分ひどく疲れていた。何か一つでいいから確かな保証が欲しい。絶対正しくて、傷ついた自分を預けられるような居場所が欲しい。
ルルーは手の中の青いスズランを印した指輪を見つめた。
皮肉なことだが少なくとも今この瞬間、嘘を吐かないと誓えたのは彼だけだった。
「……最後に、一つだけ教えて」
指輪を差し出し、傷ついてなんかいないというせめてもの言い訳と虚勢に真っ直ぐ視線を合わせる。
「アシュって、どんな人かな。もしその人が助けに来たら、貴方はそれを防げると思う? 」
「なかなか耳に痛い質問だな」
青年は指輪を受け取り立ち上がると、口の端を歪めた。
「君がここにいると知れば『もし』、ではなく『絶対に』、奴は来るだろう。そして俺の目的は君を取り戻すことと、」憎悪と優越感に悪鬼のごとく唇がめくり上がり、犬歯が剥く。「今度こそ奴をこの手で捕えることだ」
震える少女に、青年はにこりと笑う。
「それにきっと、君はここから逃げ出そうなんて思わないよ」
「……どうして? 」
ともすれば甘い閨の睦言のように、目を細めて愛しげに男は囁く。
「『兄君』は確か内乱で妹を無くしていたんだったな? この浮遊の島はね、王権への信仰、神威の象徴そのものなんだよ。賢い君なら分かるだろう、想像してご覧。心の支えを失った時、人間はどれほど自棄に陥るか。――――アークが落ちればこの国は再び内乱になり、沢山の人間が死ぬ」
色とりどりのステンドグラスから差す光、唇に紅を刷いた哀しくも美しい横顔。
喪われた者は二度と還らない。あのダヴィドでさえ、エダの死を丸ごと受け入れることは出来なった。
「君は優しくて、でも結局は一人ぼっちだ」
自分の一挙一動が大切な人を悲しませる。
(ああ、そうか。だから兄さまは……いや、ダヴィドさんは嘘を吐いたのか)
やっぱり、優しい人だ。
いっそ出逢わなければよかったと思うほど。
「本来なら塔の一室に閉じ込められるべき存在だが、我々は何も君の不幸を望んでいる訳ではない。君の意思次第ではこのまま当家で君の身柄を預かることもできる。たしかに多少の不自由は強いるかもしれないが、君を大切にすると約束するよ」
「私はもう……この島から出れないの? 」
ここがどこかなんて、もう聞くつもりはない。多分、ルルーの世界は始めからそんなに広くはなかったというだけ。
「…………ああ」
逃れられない運命を告ぐ託宣者のように。
その男はフクロウに突きつける。
「君には申し訳ないけど、もう二度と下界には戻れないと思ってくれ」
生真面目で狐や狸に手のひらコロコロ、がチャームポイントだったロード君が黒くなりました。
そりゃタグは腹黒バトルロワイヤルってつけたけど、精神的囲い込みとかこの子どこで覚えてきたんだろう。朱に交わって黒になったのか? と作者も首を傾げております。
以後は黒ード君とお呼びください。




