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黒猫亭









 波止場に着くと、青年は蟲に固定された(もや)い綱をくるくると手際よく外した。

  解放されたハコビウオムシはバシャリと水を叩くと、水底へ体をくねらせながら消えていった。


「どこ、いくの? 」

  髪が目立つからと港に入る前にアシュに被せられたフードの下から、少女は船を繋ぎ終えて大きく伸びをする青年を見上げた。

「取りあえず、まずは腹ごしらえかな。ルルーもお腹が減ってるだろう」

  ルルーは自分の腹を押さえた。

 そういえば塔での夕食もほとんど食べていなかったし、船でアシュの積み込んでいた軽食を口にしたきりだ。

 思い出すと急に下腹が空腹を主張するようにきゅう、とかわいらしく鳴った。

 顔を赤くするルルーにアシュ苦笑した。

「少し遅いけどお昼にしようか。疲れてるだろうけどもう少しだけ歩ける? 」

 ルルーは頷いた。

 青い海に囲まれた船旅も楽しかったが、港にはさらに色々なものが満ち溢れて少女の好奇心を刺激する。耳を澄ませたり目を動かすのに忙しく、疲れなど感じる間もないくらいだ。

 二人は色とりどりの商品を吊るした露店の居並ぶ石畳の路地を抜け、店先のランプの消えた薄暗い一軒の店に辿り着いた。

 ルルーがフードをちょっとだけ掲げて頭を上げると、瀟洒な飾り文字の鉄看板がぶら下がっている。

「レミィのやつ、いないみたいだなぁ」

 しんと気配のない戸口をしつこく叩いていたアシュは、ふとルルーの視線に気づくと「『黒猫亭』って書いてあるんだよ」と悪戯っぽく鉄看板をノックした。

「主に酒場だから、昼間はあんまりやってないことが多いんだ。この時期なら吟遊詩人たちが来たりするし、夜になれば漁師や水夫たちで賑やかなんだけどね」

「ぎんゆう、しじん」

「歌を歌ってあちこち旅してる人のこと。中には蟲琴を弾ける蟲師まがいの者もいるから、ルルーも何か一曲教えてもらうといい。溺れても蟲が助けてくれるよ」

「なんで、ルルー、たすけてくれる、の? 」

「俺たちが乗って来たフナハコビみたいな小さい蟲なら手綱でも操れるんだけと、大きい蟲となると蟲琴って楽器を使ったりして、音で操るんだ。音の方が本当はずっと細やかに反応してくれる。音階さえ覚えとけば、まぁ蟲琴がなくてもルルーはきれいな声をしてるから、きっとすぐ乗りこなせるようになるよ」

 優しく頭を撫でるアシュにルルーも思わず微笑み返した。その時、


「こらこら。人の店先で何いちゃついてるんだい。営業妨害だよ」

  艷っぽい声がすぐ背後から響き、ルルーは飛び上がった。

 慌てて振り向くとアシュと同じ黒い、けれどそれより数段艶やかな髪の女が腕を組んで仁王立ちしていた。

 太陽の恵みをたっぷり吸収した果実のごとき、実り豊かな胸。少々きつめだが彫りの深い顔に切れ長の目をしたなかなかの美女だ。

「おかえり、レミィ」

 アシュはくだけた様子でこの黒髪美女に向かい片手を挙げ、

「まだお昼食べてないんだ。何か作ってよ」

  軽い調子で飯をたかった。

「あんたねぇ………」

  飄々としたアシュの態度に流石の女もこめかみを引き攣らせる。

「何ヵ月連絡寄越さなかったと思ってんのよ! いい加減悪運尽きてどっかで野垂れ死んだのかと思ってたわよ」

「うれしいなぁ。心配してくれてたの? でも大丈夫。今回ばかりは俺も自分の悪運の強さに驚かされたくらいだから」

「驚きのあまりポックリいっちまえば良かったのに」

「そんな無茶な。俺の心臓はレミィ同様毛が生えてるって自分で言ったくせに。もしかして忘れた? 」

「言ってないことなんか覚えてないわね。というか同様って何よ。あんたと違ってあたしの心臓はすべすべ剥き身の卵肌。脱毛もバッチリよ」

「毛深いと大変だね」

「そう。よほど縊り殺されたいのかしら」

 微妙にテンポの噛み合わない会話を呆然と眺めていると、青年がちょいちょいとルルーに向かい手招きした。

「ルルー、君にも紹介するね。彼女は剛毛レミィ。朝の支度に一時間かけて髪を解かすんだよ」

 少女の肩に手を置き、アシュは怒りでブルブル震えながら青筋を浮かべる女を紹介した。

「で、こちらが囚われのお姫様ルルー。因みに口説き落としたのはつい昨日ね。その他生い立ちの説明は………………見てもらった方が早いかな」

 青年は「ちょっとごめんね」と断ると、少しだけフードをずらした。


  刹那、一筋の銀の髪が陽光に煌めく。


「なっ…………! 」

  怪訝そうに覗き込んだレミィが驚きに目を見開いた。アシュは小さなその体を後ろから抱き込むようにしてさっさとフードを戻すと、レミィを見上げた。

「ま、そういうこと。話したいこともあるから中、入れてくれる? 」

「………分かったわ。今鍵を開けるからちょっとどいて頂戴」

 レミィは諦めたように髪を掻き上げると、つかつかと踵を鳴らして青年を押し退け扉を開けた。

「さ、入った入った」

 アシュに急かされるまま、ルルーはレミィの後について戸口をくぐる。

 しんがりのアシュが再び鍵を下ろし、テーブルに足を組んで腰掛けるレミィ向き直った。

 レミィはにっこりと艶やかに微笑むとルルーに対しては優しく、

「もうフードは外しても大丈夫よ」

 アシュに対しては鬼の形相で、

「あんたにはちゃんと説明してもらうからね! 」

 と髪を逆立てた。

 ルルーはほっとした。

 正直、目深に被ったフードは視界をかなり遮っており、薄暗い店内の様子などほとんど見えなかったのだ。ありがたく外させてもらう。

「前々から思ってたけど、レミィって俺の扱いちょっとひどいよね」

「ああ? あたしは基本的に優しい女よ。あんたの日頃の行いが悪すぎるの」

  不満げにぼやくアシュにレミィは冷たい一瞥をくれると言った。


「あり合わせでいいならなんか作るから、その間に話すことまとめときなさい」












巨乳枠、きました。


あまあまも、あー……これから頑張りますね。

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