あ、ドリル!
『何ぃぃぃぃぃぃいぃ!?』
大男の突然の激怒に驚き、あんぐり口を開けて顔を上げる正義。大男の発した強烈な怒気で少年は自分がどんな過ちを犯したのか気づく余裕もなかった。さらに悪いことに、周囲の生徒達は穏便でない事態の推移に皆距離を置いてしまい誰も動かない。春風と大男の怒気が長い金髪を不気味に煽り、異様な力の発現を予感させる。
『まさか、あの髪・・・!?』
〔才能〕、というワードが正義と周囲の生徒達の意識を駆け巡り、
『まずいアレ絶対ヤバイよきっと〔毒髪〕かなんかだ致死性の眠るように逝く強力なああ!?』
正義の妄想が高速で膨らんだ。
そして、
「俺の名前は不和・良!お前のような〔腐ったヤツ〕をぶっ潰す男だ!」
大男の履いていた靴の先が両方とも内側から破れ、ドリルになった計10本の足の指が露になった。うぃぃぃーん、がががが!と唸るドリルの音がポカンとした正義の耳に届き。
『髪は無関係なのねええええええ!?そしてやっちまったよ〔神さん〕んんんんんん!』
正義は不和と名乗った大男の姿を見てどうしても内心でそうツッコむ衝動を抑えきれず、同時に彼に対して恐怖と同時に『僕の仲間がいた!』という感じを抱いた。
だが当の不和のほうは大真面目に怒っていた。
「行くぞ!ラグジュアリィ・ドゥリル!」
と流暢な発音で叫んで両足の指先を器用に地面に突きたてて固定、文字通り磐石の態勢で大きく拳を振りかぶった。『これがラグジュアリィというヤツなのかあああああ!?』とあまり英語に強くない正義は反射的に天然ボケたが、不和が振りかぶった拳を見て彼は動けなくなった。時間が遅くなったような感覚が身を包み、沢山あるトラウマの一つが蘇る。
それは拳。
小学生だった正義を殴る拳だった。
それはいじめが〔無視〕に至る少し前の状況。
大した理由などない。
気に入らない、弱そう、愚図、そんな理由で殴られた。
それを教師にチクってしまったことで正義は〔無視〕されることになった。
だから少年は恐れた。
振りかぶられる拳を。
しかし、
「にゃ~」
『あ・・・』
その声で、正義は自分がまだサンマを抱いていることに気付いた。
だから正義は、
『守、る!』
せめて猫には害がないように抱え込んだ。
あの頃と何も変わっていない現実に、正義は強く目を瞑る。
そして、
「もう大丈夫よ!だからしゃんと立ちなさい!」
バチン、という打撃音の後にそんな怒声が聞こえた。




