金色の三つ編み
正義が低い位置から視線を巡らせると、声の足元にサンマがいた。黒猫が声の主の頭から長く垂れ下がった黄金の三つ編みの先にしがみついていたのだ。
「うっわ!?」
正義は素っ頓狂な声を上げ、慌てて立ち上がってサンマの下へと走る。声の足元へたどり着くと、猫を三つ編みから引き剥がそうとする。
「す、すみません!うちの猫なんです!ちょ、サンマ!?」
「にゃ~!」
『ど、どうしちゃったんだ!?』
焦る正義はそれでもサンマを引き離そうと引っ張る。
そしてほんの一瞬、それを見た。
『あ、れ?』
サンマの、本来金色である瞳に紫の光沢が混じっているのを。
しかしそれに気づいたと同時、色は消えてなくなり、猫の力が緩んだ。
だから、
『今だ!』
正義はそう思って猫を引っ張った。
しかしその拍子に三つ編みを止めていた紐、くたびれた赤いリボンがサンマの爪にひっかかってちぎれた。古ぼけたリボンはすでに物としての限界だったらしく、無残な姿となって地面に落ちる。
つまり、
『やべえええええ!』
そう感じて、再度謝罪の言葉を口にしようと正義は〔それ〕を見上げた。
そう、
「うおおおお!?俺のフェアリーテイルがあああああ!?レッドデスティニーロープがあああ!?」
派手なリアクションをとる三つ編みの持ち主、2メートルを越す熊のような大男を。
『あ、終わった』とかなり展開を先読みした正義に色黒の大男が叫ぶ。
「くそう!名乗れええい!どこ中ぅうう!?何組ぃいい!?フー、アム、アアアアアーイ!?」
『まずフェアリーテイルとレッドデスティニィロープは何!?そして〔私は誰ですか(フー、アム、アイ)〕って聞かれてもおおお!?』と色黒金髪の巨漢に正義はツッコミたかったが、少年はそのツッコミストとしての血がもたらす衝動を必死になって抑え、
「あ、あの・・・!わ、わかりません!」
冷や汗を流しながら正直に答えた。途端、
「自分のことがわからないヤツがいるかあああ!お前俺を馬鹿にしてるだろおおお!?」
『多分〔アナタは誰ですか(フー、アー、ユー)〕って聞いたつもりだったんだああああ!』
正義は瞬間的にこの巨漢が英語が苦手なのだと悟り、フェアリーテイルとレッドデスティニーロープも大いなる勘違いがもたらした産物なのだと悟った。しかし現状それがわかったところでどうにもならないので。
「す、すみません!リボン・・・レ、レッドデスティニーロープ?は弁償しますから、その、もっといいものを買って返しますから!」
少年は短い人生でもう慣れきった謝罪の言葉と再びの高速土下座を繰り出した。
すると、
「もっといいもの、だと?」
大男がその言葉に食いついた。
だからその言葉を口にしてしまった。
「はい!そんなボロじゃなくて、もっと新しくて綺麗なものを!」
『これはもしかしたら許してもらえるかもしれない!』
正義がそう思い、少しの期待を瞳に載せた刹那。
「・・・お前は」
「え・・・?」
「絶対許さんんんんんんん!」
『何ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?』
巨漢が突然歯を剥いて激怒した。




