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ツッコミストの苦難は続く

 5分後。気持ちの整理を終えたチヒロは、



「ホラ!口開けて?ア~ン?」

「いや、いいって!恥ずかしいし!」

「おいおい、見たくないから余所でやれよ」



 ベッドに横たわる正義の口にリンゴを入れようとしていた。それを見た隣のベッドの不和が呆れた声でそう言う。

 周囲を清潔な白と薬品の匂いで囲まれたここは病院だった。

 度重なる無茶がたたり、正義と不和はこうして入院中だったのである。

 本来なら、このように安寧としていられる状況ではないはずだった。

 公共物である校舎と体育倉庫の破壊、および学校への不法侵入など、取調べを受けるべき罪状を3人は山ほど持っていた。

 しかし理事長である〔神さん〕が、



「とりあえず金積んどけばいいでしょぉ?ダメなら私が〔お話し〕聞きに行くしぃ~」的な裏取引と圧倒的な武力による脅しでマスコミ・警察関係者などを全て黙らせた。そのため彼らには何のお咎めもなく、それは青山、円藤も同様であった。

 だから正義は飾り切りが施されたリンゴを持って迫るチヒロから平和に逃げている。



「ホラ!口開けて!」

「いや、だってそれ」

「何?変?」



『変っていうか、どう見ても人面リンゴにしか見えないものおおおお!』という正義の内心を知ってか知らずか、



「え~、可愛いのに」



 やはり知らなかったチヒロは無事に『マジかそのセンス・・・』と三つ編み金髪の〔不運な顔面〕(アンラッキーフェイス)からそう思われたことにも気づかなかった。

 だがチヒロはめげない。



『この地味メガネは、私のせいでネガティブで自分に自信がなくて、いつも私をイライラさせるドジをしたり心配させたりツッコミをいれたりしてくる』

「チヒロ姉のセンスって、やっぱり・・・」

『その上、私のことをお姉ちゃん以上には思ってない』



 けれどチヒロは諦めない。

 中学校の卒業式のとある事件で正義を男として意識した時から決めている。



『絶対に振り向かせて見せる。そして・・・私を許してくれたコイツを、幸せにしてみせる!』



 それは乙女の男らしい決意だった。

 だからこそ、どんな手段にも打って出る。

 そう、小悪魔的なボディタッチで誘惑したり、友人に協力してもらって自分の魅力を引き出す髪型や服を必死に選んだり、リンゴに無味無臭の精力増進剤と興奮剤を仕込んででも。



「ホラ!食べなさい!」

「やめてよチヒロ姉ええええ!」



 また〔姉〕呼ばわりされてチヒロは少しムッとなる。

 だから、



「ヤダ!今夜はセイギのロケットブースターがバッキバキのツッコミストだもん!」

「何がバッキバキ!?絶対食べないぞ!?絶対何かがおかしいもの!そしてツッコミストって何!?知らないの僕だけですか!?」

「何いい!?セイギ!?お前ツッコミスト!?巨~乳~セレブゥレ~イトォ!」

「不和くんも知ってんの!?ていうかキャンユーセレブレイトだから!意味も違うし!たしかにちょっと巨乳って聞こえるけども!?なんとなく僕を褒めてくれてるニュアンスは伝わってくるけども!?」

「うわあ、セイギってそんな空耳ワードにもハアハアなるの?」

「違ああああああああああああああああう!」



 チヒロは不和の煽りに乗って、笑顔で嫌がる正義に迫った。

 弱くて不様で格好悪くて、

 愛しくて優しいセイギに。


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