あ、ドリル?
瞬間、封筒から光が溢れた。光は文字のようだった。それらは星のように空中に漂い、少年を取り巻いた。
少年の胸が、高鳴る。
何をやっても上手にこなせない現実。
しかしそれを覆す可能性を少年は手に入れた。
テレビを見て憧れ、たとえ愚図であっても夢に見た理想の自分。
それが今、
『無能な僕が・・・〔ヒーロー〕に?』
この瞬間に、叶おうとしている。
そして少年は、ついに気づいたのだ。
「・・・・・・・・・・・・・あれ?」
無音。
無音、だった。
少年のイメージを裏切る、空気。
それは渾身のツッコミがスベッた時のものにとてもよく似ていた。
「あ・・・え、っと?」
少年があまりの〔痛さ〕に段々とソワソワし始めた。
瞬間、
「まああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
空中に浮かんだ光の文字から女性のものらしい甲高い奇声があがった。少年は思わず「うひっ!?」という悲鳴を上げて尻餅をついてしまう。すると堰を切ったように光の文字が話しだす。
「ビビッたぁ?ビビッたでしょぉ~?なんかこうシュババ!ビシュビシュ!って感じで神秘的なことでも起きると思ったでしょぉ~?ざんねんでしたぁ~!アハハハハハハハ!」
呆然とした少年を少し甘ったるい喋り方をする笑い声が包む。そして段々と状況を把握して少年は頬を引きつらせた。手紙に声だけが吹き込まれて届くと去年手紙を受け取った〔彼女〕から聞いてはいたが、少年もまさかいきなりこんなイタズラが来るとは思っていなかった。心の中だけで『く、くそおおおう!うひっとか言っちゃったしいいいいい!』と悪態をついていると、
「あぁ、そうそぅ、君にぃ~、〔才能〕貸すからねぇ~?」
またも急に〔神さん〕が本題を切り出した。
息を呑む少年に間延びした声が言葉を続ける。
「え~っとぉ、君は〔貸与条件・第七の偉業〕をクリアしたのねぇ~。おめでとぅ~。これで君も私の・・・ってあれ?〔第七の〕?」
声は少し考え込む様子をみせ、
「ああああ!?もしかして君がセイギくん!?」
今度は驚いた叫びを上げた。
そして、
「ど、どうしてそのあだ名・・・っ?」
少年は〔彼女〕だけが呼ぶそれを急に呼ばれて戸惑った。だが声の主、〔神さん〕はそんな少年にはおかまいなしで。
「そ~ゆうことかぁ~!いや~、てっきりセイギって本名かな~って思ってたよぉ。先入観の落とし穴だねぇ~。へ~、じゃぁ君が人類史上初、〔第七の偉業〕達成者なんだぁ~?」
興味津々と言った彼女の声。だから自然と少年は彼女の言った2つの単語に意識をとられた。
「人類史上初?〔第七の偉業〕?」
少年も〔神さん〕が〔才能〕を貸与する際、何かしらの基準をもって少年少女を選抜することは知っていた。
だが〔偉業〕や〔貸与条件〕と呼ばれるそれの具体的な内容は、〔神さん〕以外誰も知らなかった。
彼女が気まぐれに決めているという者もいれば、厳密な法則があるとも言われている、それは謎の掟。
つまり、
『僕は確かに何かの条件をクリアした。でも・・・』
無能を自負する少年は自分が何を成したのか、それがわからない。
しかも彼女の言によれば、その〔貸与条件〕をクリアしたのは自分が人類で初らしいのだ。
『ぼ、僕は一体何をしたんだ!?』
しかし当然、手紙である声はそんな疑問には相変わらずのおかまいなしで。
「う~んどうしよぉ?君名前カッコいいしぃ~、カッコいいのがいいよねぇ~?やっぱ神器系?あ~でもでも神槍は投げたらそのままグングン家出しちゃったしなぁ~。じゃあ使い魔とか・・・う~んでも今妖怪『扉手足』くらいしか近くにいないかぁ~。超脳力とかオーバーテクノロジー系も在庫がなぁ・・・」
〔神さん〕がごそごそと何かを漁っている音が部屋に響き、少年の胸のうちで否応なく膨らんだ期待が先の疑問を呑み込んでいく。さらに少年のもう一つ癖が心の中に展開する。
『も、もしかして本当に凄いことになるかも!?伝説の聖剣〔EXキャリバーン・マークⅡ・ジャスティスモデル〕とか、復讐の魔眼〔アルハザードの黄金のランプ・暗視装置付き〕とか、そんなの来そう!』
それは少年のもう一つの癖、〔妄想癖〕であった。そして哀れなことに、中3である少年の望みのレベルは実在するお気に入りの〔ヒーロー〕の影響を受けてかなり〔中2病〕っぽかった。
そして〔神さん〕の動きが止まり。
「・・・あ、ドリル?」
〔神さん〕の小さな呟きに一瞬で〔なんかすごいのが来る妄想〕を打ち砕かれた少年は『頼むそれだけは勘弁してくれえええええ!』と文字に無言の土下座をした。
すると少年の想いが通じたように〔神さん〕が快活な声で言った。
「じゃあ君には〔才能〕をあげよぅ。あ、うちの高校の書類とか後で届くからぁ~、ちゃんと書いてねぇ~。じゃぁ楽しみにしてるよぉ、セイギくん?バイバ~イ」
声が消えると同時に光の文字が少年の身体に吸い込まれ、部屋に静寂が戻った。
そして少年は体のある部分に違和感を覚え、確信した。すぐさま学ランとワイシャツを脱ぎ、姿見の前に立つ。
眉にかかるくらいの黒髪。
色白で少し痩せ気味の中肉中背。
メガネを外してもイケメンには変身しない気弱そうな顔と瞳。
影の薄い、地味な中学生男子の姿だった。
しかし、
少年はついに〔才能〕を手にいれた。
『変わったんだ』
少年は思った。
『〔才能〕があれば、僕はもう今までの僕じゃないんだ』
かつて川で溺れかけ、〔彼女〕と一緒にいることで自分が愚図だと知った少年はそう感じた。
『2度とあの日のようなことにはならないんだ。そして・・・』
そして〔彼女〕と〔運命〕を想う。
『もう守られるだけじゃない。怒られてばっかりじゃない。今度は僕が。チヒロ姉みたいな、完璧で、〔結果〕を残せる、〔ヒーロー〕、に・・・!?』
少年の思考が止まった。
少年は自分の変化を仔細に観察した。
少年は脂汗と鼻汁を流した。
「・・・」
それは右肘に逆さにくっついた皿のような噴射口。
「・・・ぬ」
黒光するそれを、少年は宇宙に向かうロケットの下の方で火を噴いているのをテレビで見たことがあった。
だから少年はすぐに理解した。
そうつまり少年、縁之下・正義の右肘からロケットブースターが、
「・・・ぬぅぅうまああああああああああ!?」
「マー君うるさいよおおおおおおお!?」
「なあああああああああにこれええええええええええ!?」
生えていた。




