渾身の勇気を持って繰り出す質問
「不和くん」
正義は鉄色の五指で首を握られ、空中に持ち上げてられていた不和にそう言った。
「君に用はないのだが?」
そう言って青山が不和を正義のほうへと投げ飛ばす。正義はとっさに走り、彼の巨漢を受け止めようとして、
「うおわ!?」
あまりの重さに下敷きになった。
「おいおい、なんで、戻ってんだよ?」
顔中痣だらけになった不和が身体をどかしながら、正義に問う。だから正義は言った。
「〔無視〕しないって言ったから」
「・・・あの姉ちゃんは、もういいのかよ?」
「うん。あとはチヒロ姉次第だよ」
「そうだ、虹村くんはどこに行った?チッ、こう暗くては、このメガネも役に立たんか」
フレームレスのメガネを直した青山が正義と不和の会話に割り込む。
だが、
「・・・」
正義は何も言わなかった。再び青山の言葉が刺さるように飛ぶ。
「縁之下。虹村くんをどこへやった?」
「・・・」
「なぜ何も言わない?答えろ!」
「・・・」
「答えろ!」
青山がついに正義の胸倉を掴む。
だが、
「・・・」
正義は何も言わない。
それどころか、青山を見てすらいなかった。
「貴様!私を〔無視〕するな!」
青山がそう言った、瞬間、
「わかりました?」
「何!?」
「これがアナタがやってきたことですよ」
正義が凍えるような瞳でそう言った。
思わず青山は手を放し、一歩を退く。それを追うように、正義が彼を見る。
先ほどチヒロに言った言葉を、そのまま言う。
「〔無視〕されることがどれだけ怖いか、アナタは知ってるの?それがどんなことなのか、アナタは本当にわかってるの?」
「それ、は・・・」
蘇る記憶。それは、
「死だ。それは死だよ。生きているのに、誰も僕に気づかない。いないんだ、どこにも」
正義は、あの頃確かにそう思った。
だが、
「チヒロ姉が僕を見つけてくれた」
正義はあの日、
「〔否定〕してくれた」
確かに、
「僕はそれが」
彼女によって、
「死ぬほど嬉しかったんだ!」
救われた。
「僕が間違ってるって言ってくれた!」
「お前・・・」
「〔ヒーロー〕を気取るなって、叱ってくれた!どこにもいなかった僕を!それがどれだけありがたいことか、僕みたいな〔いなかった人間〕にとって、どれだけありがたかったかわかる!?」
「縁之下・・・」
「だからチヒロ姉とアナタは違う!」
正義は、叫んだ。
「〔否定〕すらしないアナタは、チヒロ姉とは違う!何も言わずに不和くん達を排除しようとするアナタは、〔無視〕するアナタは、ただの〔ヒーロー〕気取りだ!」
「〔否定〕して、それで奴らが納得すると思うのか!?そんなはずがないだろう!?」
「そんなの、当たり前だ!でも!〔否定〕するのもされるのも!向き合ってるから出来るんだ!向き合うことに意味があるんだ!チヒロ姉は人間だ!アナタを〔気持ち良く肯定してくれる〕道具じゃないんだ!」
正義の声に青山がさらに一歩をあとずさり、苦し紛れの言葉を吐く。
「お前に、何の関係がある。お前が、何者でもない、お前が!?」
「そうだね。確かに僕は自分がどこにいるのか、誰なのか、一人じゃわからない。でも、チヒロ姉がくれた僕がある。僕は・・・!」
正義はパジャマのポケットから穴あきの鉢巻を取り出すと、メガネを口に銜えてそれを巻く。
「僕はアナタの前に立ち塞がっている僕は、縁之下・セイギ!そして・・・!」
白い鉢巻が風に靡き、まっすぐな瞳が前を見た。
「〔正義部〕・部長、ジャスティスマスク1号だ!これがチヒロ姉が僕にくれた、今の僕の姿だ!」
正義の気迫が青山を気圧し、さらなる叫びが空を裂いた。
「そして僕はアナタに向き合うために問う!これはとても、とっても大事なことだ!」
「・・・何だ?」
「ア、アナタの・・・」
正義は渾身の勇気を振り絞り、叫んだ。
「アナタの、アナタの名前はなんですかあああ!?」




