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刈り

 朦朧としたチヒロの意識は、それでもその言葉が自分に向けて放たれたものだと理解した。



 〔私は間違っていない〕



 〔才覚高校〕に入学し、出会い、対立してから、何度も彼が自分に言った言葉だったからだ。

 だがチヒロは彼のやり方を否定した。

 彼のやり方は行き過ぎていると諌めた。

 そして自分の信じるものを示してきた。

 そんなチヒロに青山が言った。



「君は間違っている」



 哀れむような眼差しで青山がこちらを見る。チヒロはその違和感に反射的に問いかけていた。



「アナタが・・・どうして?」

『ここに?』



 言葉の真意に気づいたらしい青山が答える。



「私は風紀委員だ。だから〔神さん〕より、校内で起きるトラブルを予知する〔道具(ツール)〕を与えられている。そんなことも忘れたのか?」



 まるで〔それ〕を示すようにフレームレスのメガネを月明かりに光らせた長身は、続けて厳しい口調で言った。



「これでわかっただろう?君のやり方では、このような連中が野放しになる。このような事態が起きる。だから〔刈り〕が必要なのだ」

『〔刈り〕が、必要なこと?』



 青山が言ったそれは、〔才覚高校〕先代風紀委員長が始めた〔正義〕だった。

 善良な生徒を害する存在、その可能性のある者を、学校から追い出すことで問題解決とする手段。

 それは行き過ぎた、しかし確かな〔正しさ〕をもった行為だった。

 だが、



『そん、なの・・・』



 チヒロはそれが気に食わなかった。

 弱くても人に誠実な少年が、それをなんと呼ぶか知っていたから。

 だから、



『そんなの、間違ってる!』



 そう言いたかった。

 だが、



「そこにいる優男は円藤・譲司。自分の目的、気に入った対象(おんな)を手に入れるためには手段を選ばず、無理と分かれば関係者や対象共々に巡らせた策謀で攻撃を加える、小手先ばかり器用なクズ」



 青山がそれを阻むかのように言葉を放つ。



「不和・良。気に入らない人間、道理をわきまえない人間を暴力によって自分勝手に制裁してきた。彼曰く〔腐ったヤツ〕の多くは未だにその暴力の後遺症を残すと聞く。円藤に騙されて利用されるような、思慮の足りない愚か者」



 名指しされた円藤の顔が強張り、拘束された不和の顔がさらなる剛力で苦悶に歪む。

 そして、



「だが彼はどうだ?」



 青山はついに核心を突いた。



「縁之下・正義は?彼がどんな人間か、君は私よりも知っているはずだろう?」



 縁之下・正義とはどんな人間か、チヒロは嫌というほど知っている。

 だから、



「君のせいだ、虹村チヒロ」



 その言葉が、チヒロの胸の深い部分に刺さった。



「円藤が君を欲し、しかし君を守ろうとした縁之下は攻撃されながらもハッキリと彼を拒否した。だというのに、君は何もしなかった。〔ステージ4〕の〔才能保持者〕でありながら、円藤を放置した」



 青山の鋼の眼差しがチヒロを怯ませる。



「その結果がこれだ。円藤に丸めこまれ、君を〔腐ったヤツ〕だと考えた不和が、それでも君を守ろうとした縁之下をこんな目に合わせたんだ!」



 そう、チヒロは正義を巻き込んでしまったのだ。

 先日正義が円藤とトラブルになっていたのはわかっていたはずなのに、

 不和という少年から目をつけられたことはわかっていたはずなのに、



『私は・・・』

「私、私、は・・・」

「わからないのか?君は〔悪〕だ!君は縁之下・正義にとって苦痛でしかない!今までも!これからもな!」



 チヒロの息が詰まる。

 それは単に正義が自分のせいで暴力を受けたという事実だけにとどまらない。

 正義を〔否定〕し、自分の正しさを示してきたチヒロ。

 だから、



『全部・・・私が・・・』



 少女の心が、軋む。



『私は・・・正義にとって・・・』



 だが、思考がその言葉の先を紡ぐ前に、



「・・・違、う」



 声がした。

 それは少し離れた場所、青山でも不和でも円藤でもない人間の声だった。

 そしてそれは、



「アナタの言ってることは、間違ってる!」



 正義の声とロケットーブースターの噴射口が、まっすぐに青山を捉えた。


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