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ブラックアウト

 それは入学式当日に正義にやったような拳の一撃ではない。

 だから、



「ふふんふぅ!」



 猿轡で上手く喋れない正義がチヒロの名を呼んだ。

 しかし正義同様事態についていけないチヒロの回避は中途半端となり、不和が繰り出した足先のドリルが彼女の服を裂く。さらに不和の動きはそこで止まらず、踵の球体ローラーと両足のドリルを逆回転にすることで巨体が驚くべきスピードで超信地旋回(180度ターン)、暴風と化した蹴りと拳の嵐がチヒロに降り注ぐ。



「んんふんん!」



 正義が再び彼女の名を呼ぶが、不和の脚と拳は何度も必殺の弧を描き、



「私・・・」



 何かに捉われたチヒロはそれを避けきれない。そこへ不和の叫びが追い討ちをかける。



「縁之下を追い詰めたお前を、俺は許さねぇ!」

『チヒロ姉が、僕を追い詰めた?』



 その言葉でまたチヒロの動きが止まりそうになる。だが考えるより早く、正義は再度叫んでいた。



「んんふふう!!!」



 その声でやっとチヒロが我に帰り、彼女を中心に強烈なプレッシャーが放出される。

 しかし、



「ア、アンタに〔才能〕を使わせたりしないぜ!?」



 ボシュ!



 そんな音がチヒロの意識を正義のほうへと向けた。

 正義は見るまでもなく、その音の正体に気づく。だから代わりに彼を見た。



「う、恨むなよ」



 チヒロの〔才能〕の顕現を予感し、ライターから出現させた拳大の火球を正義に突きつけた円藤。その引きつった笑みが、チヒロから力を奪う。



「ダメ!セイギには手を・・・!」



 その言葉に反応して不和が振り向くが、円藤のライターにはすでに火球はない。しかし正義は間近から変わらぬ熱量を感じ、円藤が〔炎を見えなくした〕ことを悟る。さらに「いつでも焼けるんだからな!?」とチヒロに言った円藤がそれを裏付ける。幾つもの不可解が正義の脳裏を駆け巡り、しかし明白な像を結ばない。

 光景に顔を青ざめさせて動揺したチヒロに、再び不和の蹴りがかすりだす。やられるわけにはいかないが、円藤に正義を握られたことでチヒロにはすでに打つ手がない。スウェットがところどころ裂け、彼女の白い肌や下着が露になっていく。

 そして、



『逃げろ!チヒロ姉!』



 何一つ事態についていけていなかった少年が声にならない声でそう叫んだ。

 そこにはたった一つの想い。

 彼女を救わなければという想いだけがあった。

 しかし、



「んんふんんんんん!」

「セイギ・・・」



 その無形の言葉を受け止めるのにチヒロが数瞬の間を置き、ふと動きを止めた。

 そして、



「言うこと聞くからセイギは放して」



 円藤に向かってそう言った。これを受けた優男は笑みを引きつらせ、



「じゃ、じゃあ大人しくしてろ!」



 それを遮り。



「うおおおおおおおおおおお!」



 不和が高速回転の威力を右の拳に凝縮させて、



『チヒロ姉!?』



 殴られたチヒロの体が宙を舞い、地面を跳ねた。

 しかしそれでは終わらない。巨漢がそれに近づいて引き起こす。何度も何度も彼女を殴る。

 肉を打つ音が正義の中に恐怖を呼ぶ。

 しかし彼は目を瞑らなかった。

 正義は見たのだ。

 殴られる中、こちらを見たチヒロが自分に向かって「大丈夫」と言う姿を。

 困ったような笑顔を。

 だから、

 正義の頭の中が真っ黒になった。


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