腐ったヤツ
気づいた時、パジャマ姿の正義は夜空の下にいた。
『あれ?』
そんな風に疑問に思うと同時、左の頬に激痛。横になった姿勢から身を起こし、右手でそれを押さえようとして、
『縛られ、て!?』
正義は自分が後ろで縛られ、猿轡をかまされていることに気づいた。そして、
「おう、目ぇ覚めたか?」
声のするほうに正義が視線をやると、そこには、
『不和、くん?』
金の三つ編みを長く垂らした巨漢、制服姿の不和がそこにいた。状況がわからずにうろたえていると、
「わ、悪いな。お、お前には、もう何もしないからさ」
背後から声。振り向くと、そこには軽薄な茶髪の優男、円藤がいた。そして同時に正義は思い出す。インターフォンを押したのが彼であり、その場で殴られ気絶させられたことを。思わず後ずさる正義の襟首を掴み、不和は力づくで彼の身体を引き上げた。物理的な力の差に正義は身を縮め、しかし、
「安心しろ。用があるのはお前じゃない」
不和が正義を安堵させるようとするような落ち着いた声を放った。
正義が疑問をつなげようとした、その時、
「セイギ!?」
そんな叫びがグラウンドの先にある校門のほうから響いた。
そう、校門。つまりここは学校だった。そして上京したての正義に見覚えのある学校はたった一つしかない。
『〔才覚高校〕?でも、どうして?』
「やっと来たか」
不和の威圧するような声。それが誰を指しているのか気づいた時、正義の視界に叫びの主であるチヒロの姿が飛び込んだ。急いでここへ来たらしいチヒロは髪も乱れ、部屋着なのだろう丈の長い黒のスウェット姿だ。チヒロが正義と不和の姿に気づき、
「セイギ!」
再び叫んでこちらに走り出した。
しかし、
「そ、それ以上近づくな!」
チヒロを制止させる、しかし何かに怯えたような声が正義の背後から発せられた。チヒロの足が止まり、声の主である円藤を睨む。
「アナタは、誰?どういうつもりなの?」
正義の前に円藤が進み出て、チヒロと対峙した。円藤が喋りだす。
「に、虹村・チヒロ!ア、アンタはコイツを、縁之下・正義を利用してる!」
「え・・・?」
何のことかわからず、チヒロが戸惑う。しかし構わず、円藤が続けた。
「し、知ってるんだぞ!?ア、アンタはガキの頃無視されてた縁之下に近づいて、無視しない代わりに自分の引き立て役にしてたんだ!」
「そんなわけ!」
『チヒロ姉はそんな人じゃない!』
正義の思いと同時にチヒロが叫ぶ。つまり円藤はチヒロが愚図な正義を側におくことで相対的に自分の地位を引き上げ、より自分の評価を上げようとしたと言ったのだ。
『そんなこと、絶対に違う!』
だから正義は強くそう思った。だが、
「ほ、本当にそうか?いつもコイツを叱って、自分の能力を見せ付けてきたんだろ?」
「それ、は・・・」
「上手に出来ないからって、〔否定〕してきたんだろ!?」
「あ・・・」
『チヒロ、姉?』
円藤の質問にチヒロの語気が萎む。円藤の言葉が、チヒロが正義に持つ罪悪感を見事に突いたのだ。さらにチヒロの様子に戸惑う正義の側から、一人の大男が前へと進み出る。
「もういい」
怒りの青筋をピクピクと脈打たせた不和がチヒロを睨む。
「もう十分だ円藤。お前の言った通り、この女、認めやがった!自分が〔腐ったヤツ〕だってな!」
叫びと同時、両足のドリルが唸りを上げて彼の靴を破る。さらに彼は両方の靴の踵をそれぞれ二度ほど強く地面に打ちつける。すると踵の底から半球のようなものが現れ、そして、
「恨んでいい。だから悪いが」
不和が両足のドリルを高速回転させた。すると前傾させた大柄な身体が回転するドリルが前進しようとする力を利用して〔走り出した〕。どうやら先ほど踵から現れた半球はその動きを阻害しない全方向回転型の特殊なローラースケートのようで、おかげで地面を抉るドリルの推進力が完全に開放され、重機のような突進が空気の壁をぶち破る。
そして、
「俺に潰されろ!」
先端にドリルを備えた剛脚がチヒロに襲い掛かった。




