神さん
手紙を手にした少年は逸る気持ちを抑え、呆けた母をやはり放置して二階の自室へと踵を返す。
階段を上がる途中、
「お父さんんんんー!?マー君がボケにツッコんでくれないの!きっと赤点の腹いせなのよおおおおお!?」
「フッ!甘いな母さん。あれはツッコまないと宣言することで実はツッコんでいる、そんな高等テクニックなのさ!フッ!」
「そうなの!?流石アナタの育てたツッコミストね!?」とか聞こえた。
しかし少年は『ツッコミストってなんだよ!?つーか父さん無駄に2回鼻で笑ったよ!』と内心で〔拾う〕にとどめる。階段を上り終え、素早く自室に入って扉を閉める。
勉強机とベッドに散乱したマンガ。
本棚で薄く埃を被る教科書。
テレビの前で混線するゲーム機器同士のコード。
少年が大好きな〔ヒーロー〕達のフィギュアや関連グッズ。
そして、
〔彼女〕と撮った写真。写真。写真。
1枚は、〔彼女〕が剣道の大会で全国優勝した時の写真。
1枚は、〔彼女〕が夏休みの自由研究で最優秀科学賞を受賞した時の写真。
1枚は、〔彼女〕が雑誌の読者モデルとなった時の写真。
それらの中心で、冷たい冬の空気が外と変わらない白い息を少年に吐かせた。
だが少年の心は熱を帯びていた。
早い鼓動が少年の胸を打っていた。
それはクラスの女子とまともな会話を交わせただけで赤くなってしまう思春期な中学生である少年が、今までに抱いたことのない大きな熱だった。
少年はこんな展開を全く予想していなかった。
その原因、一通の奇妙な手紙を目の高さまで持ち上げる。
『なんでこれが、僕に・・・?』
少年はそう疑問に思う。
なぜならあの日出会い、唯一人の友となった〔彼女〕との付き合いの中で、少年は自分がどんな人間か嫌というほど知ってしまった。
それは万能の代名詞であった〔彼女〕になぞらえるなら、たった一言で済む。
『僕は・・・だって僕は・・・何の力もない・・・無能なのに』
そんな風に思うからこそ、少年はそれを目の前にしても信じられなかったのだ。
〔神さん〕に選ばれたという事実を。
そう、少年の世界には〔神〕と目される存在がいた。
彼女は21世紀初頭に不意に空から落ちてきた。
そしてこう言った。
「『才能』貸すから君達もうちょい頑張ろっかぁ?」
演説中だった超大国の大統領を下敷きにして。
後に〔神ングアウト事件〕と呼ばれるこの事件で彼女は一瞬で世界を敵に回し、踏みつけられた大統領は一瞬にして自分の頭髪が偽物であったことを世界に晒した。未知のモノへの恐怖は人々を攻撃へと駆り立てる。
しかしどんな兵器も彼女を傷つけることは出来なかった。
さらに、彼女は反撃すらしなかった。
ただ全てを受け止めてしまい、「私の〔才能〕凄いでしょぉ~?」と人間に見せ付けた。
人類の大多数が『あれ多分神だわ。いやマジ神だわ』と考え出したあたりで、周囲の彼女に対する姿勢は変わった。
それから彼女の世界への干渉が始まった。
少年少女達に自らの持つ様々な〔才能〕を貸し与え、それを自由に使用させたのだ。
例えば神話の中に登場する神器や幻獣。
例えば人間の中に存在する未知の潜在能力。
例えば現在よりも遥かに進んだ技術と科学力。
人知を超えた力は多くの人の命を天災や事故から救い、それを基にした研究と開発で時代は大きくその様相を変えた。
活躍出来れば世界的な映画俳優並みの報酬と各種福利厚生を得ることが出来る〔ヒーロー〕と〔ヒロイン〕が誕生した。
そして選ばれた者、〔才能〕を与えられる資格を得た者には一通の奇妙な手紙が送られる。
つまり、
『僕が・・・』
それだけで人生を変えることになるような〔才能〕を手にした。
これといって自信を持てる能力や精神力もない少年にはそれが未だに信じられない。
そしてまだ夢見心地の少年はやっとのことで息を整え、封筒を開けた。




