刈り
風紀委員長、青山仁は土曜日だというのに登校していた。
場所は風紀委員所有の個別教室、窓際の執務机の側に立った長身の少年は幾つかの書類を精査しているところだった。
書類に添付された4つの人物の顔写真が青山に視線を送り、少年はそのうちの1枚を手に取る。それは風紀委員の功績を認めた〔神さん〕により今年から開示されることになった生徒の個人情報、過去の経歴や人物などが詳細に調べられた書類だった。その1枚、青山が手に取ったそれに写るのは気弱そうなメガネの少年の名前は、縁之下・正義。
『なぜあんな男に憧れを抱く?』
昨日、正義という人物を見極めるため、彼と話そうと思っていた青山は疑問を抱く。
『見るからに力も弱く、意思も弱い。だというのに、なぜ』
青山はもう1枚の紙片を手に取った。そこには陽だまりのような笑顔を浮かべた少女。
『なぜ彼なんだ、虹村チヒロ?』
青山はその問いを自らに投げることで、あることに気づいた。
自分は期待していたのだと。
同じ〔正義〕を志した潔白な少女が信じた者。
少女の憧れる少年が、青山が足元にも及ばない人物であることを。
だが、
『彼こそ私の足元にも及ばないではないか』
正義に失望した青山の瞳に、一転して激情が宿る。
それはチヒロに対する恋慕なのか、それとも自分と風紀委員のやり方を否定し、〔正義部〕なる人助け組織を作った彼女への憎悪なのかはわからない。だがだからこそ、
『私は間違っていない』
その想いが、
『間違っているのは、〔悪〕は君のほうだ』
多くを否定された青山を突き動かした。同時、
「し、失礼します」
青山の背後でおずおずと扉が開き、閉まる。強張った気配に、青山の口から自然と笑みが零れた。彼の視線はもう正義とチヒロの顔写真を見てはいない。彼が見ていたのは机に残された二枚の写真。
「〔刈る〕前に役に立ってもらうぞ。私の正しさを証明するために」
色黒で金の三つ編みを持った少年の顔写真にそう呟くと、青山はもう一人の優男、呼び出した円藤に振り向いた。




